邂逅一番Ⅱ
戸田陽太は普通の高校生だ。どこにでもいる高校生だ。
しかし、彼はどうしようもなく理不尽な結果により問題事の中心となってしまう。
「くそったれ……何でこんな事になってんだよ」
月島華音と決別した結果、殺されることになった。
死にたくないなら、元の世界に帰りたいなら、この世界――パラレルワールドにいる『疑似』月島華音に対話するしかないと、本物の華音は言った。
――で、どうやって探す?
陽太は華音の家を知らない。かといって、学校にいるとも思えない。なら、どこにいるかなど検討もつかない。町田市内にいるかさえ不確かなのだ。
そこで、彼はまず自分が見た夢について考えることにした。
――俺は、何もしなくていい自由に生活できる、永遠に休日になった夢を見たんだ。
毎日の疲労から願うようになった、自由気ままに生きる自分。
そして、それは夢の中にも表れ時折その夢を他人越しから見ることがあった。
――月島はあれを具現化したってのか。
そうなると、この世界は自分以外の人間は毎日休日を楽しんでいるということになる。
全世界の人間が無期限で休日を楽しもうなど、自分の首を絞めているようなものだ。それほどまでに自分が見た夢は自分勝手だったということなのだろう。
だが、華音は言っていた。能力の影響でこの世界に飛ばされた人間がいると。
つまり、この世界には自分以外にも意識を確立させている人間が存在するのだ。この世界にいる偽の華音は彼らを使って自分を殺しにくるのだろう。
――どの世界でもあいつはゲス野郎だな。
そう思いながら、陽太はこれからの行動について考える。
――夢の通りなら、俺って家の前で刺されるんだよな。
あの夢が具現化したのなら、自分がナイフで刺される可能性は皆無ではない。むしろ確率としては高い。
――でも、ずっとここにいれば沙希が危ない。
妹はこの世界を成り立たせるオブジェクトとして家にこもっている。
それはつまり、意志を持った人間に狙われる可能性があるということだ。
そうなるのは何としても避けたい。自分が原因で家族に迷惑をかけるような事はしたくない。
――だったら、方法は一つだ。
陽太は部屋へ向かい、部活で使用している物より一回り小さいエナメルバッグを取り出し、一階に戻る。
そしてそこに必要なものを詰めていく。これから長旅になると考えたのだ。
――少なからず、この件が済むまでは戻ってこれないな。終わった時には偽世界は無いだろうし。
そう心中で呟き、準備を進める。決心はついている。
準備が終わり、適度に膨らんだエナメルバッグを肩に下げ、玄関へと向かう。
置き手紙などは用意していない。そんなものは、この偽世界では無用だった。
小さく深呼吸をする。左拳を握りしめ、右手はドアノブへと向かわせる。
――誰かいたらダッシュだ。ダッシュすれば逃げ切れる。
陸上部ならではの考えを頭に染み込ませながら、静かにドアノブを捻る。
カチャ、というひどく静かな音が新たな世界を呼び起こす。
玄関の前には誰もいなかった。誰かが庭に隠れている様子もない。
ただ一つ。
目の前で、同年代のような少女と成人したであろう青年が家や電柱を駆使しながら戦っていることを除いて。