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夕べはお楽しみでしたね、な一夜を過ごした。
初めての女の子を痛がらせない技術なんて持ち合わせていなかったが、そこは神パワーでカバーした。
神って万能だよな。
万能だから神なのか。
アイリもサラも最高だった。
そして神の力、最高だ。
今日もおつとめ、頑張ろうと思う。
朝、一人の美少女が俺を起こしに来た。
ミーファという名の巫女だ。
アデーレの顔を見たかったのだが、彼女は教皇で俺を起こすには地位が高すぎるとの事だ。
でも俺が望めば起こしてくれるそうなので頼んでみる。
「よろしゅうございます。神様の御意は全てに優先されます」
アデーレは輝くような笑顔で引き受けてくれた。
こんな美少女が笑顔を向けてくれるなんて、元の世界じゃ到底考えられなかった。
せいぜいギャルゲーのヒロインくらいだろう。
友達も会話する相手さえもいなかった事を思えば、環境の変わりように飽きれるしかない。
元の世界では底辺のゴミ程度でしかなかった俺がこの世界では神という絶対者だなんて、そんな馬鹿みたいな現実なのだ。
いつまで続くか分からない幸福、精一杯楽しもうと思う。
ただ、その為には滅亡寸前というこの世界を救わねばならない。
黒い星は昨日消し去ったが、あれで世界は救われたのだろうか。
そんなオチなら、幸せなんだが。
「残念ながらあの星は災厄の一つでしかないのです」
アデーレは沈痛な表情でそう答えた。
まだまだこの世界の危機は山積みらしい。
疫病に飢饉、紛争、モンスターの大群、などなど。
アデーレ率いる宗教組織のおかげで何とか首の皮一枚つないでいる程度だとか。
俺は文字通り最終手段だそうだ。
「本当ありがたいですわ」
アデーレはそう言うと、俺に向かって祈りを捧げた。
美少女達に祈りを捧げられる気分というのは悪くない。
むしろかなりいい。
この美少女達全てを独り占めしていいとなればなおさらだ。
朝食を終えると俺はまず、疫病が流行している地域へと向かった。
同行者はアデーレだけだ。
神である俺が疫病になどかかるはずもないが、人間はそうはいかない。
アデーレは秘術で感染を防げるらしいが、そんな芸当が出来る者は他にいない。
教皇の肩書きは決して伊達ではないのだ。
「酷いな、これは」
俺は着いた村の有様に顔をしかめた。
ガリガリに痩せた人々が地面にうずくまっている。
のどをかきむしるような格好のままぴくりとも動かない人もいた。
「神様、どうか御力で病を根絶して下さいませ」
アデーレに言われるまでもない。
俺は「病よ滅べ」と念じた。
するとどうだろう、死にかけた様子だった人々はみるみるうちに生気がよみがえってきた。
念じるだけでいいとは全くもって便利な力である。
死者蘇生も出来そうな勢いだが、さすがにやったらまずいだろう。
強大な力を持つからこそ善意の押し付けは慎むべき、そんな気がする。
「神様、一度神殿に戻りましょう」
アデーレに言われて二人仲よく神殿へと帰還した。
俺という存在が認知されるのは構わないが、顔を覚えられるのは好ましくないという。
街を自由に見て回りたいのならば、顔を知られないようにすべきだと言われたので納得しておいた。
万が一の事があっても記憶を消せばいいだけの気もするが、いちいちやらないといけないとなると面倒だし。
俺達が帰還した後、アデーレは職務への戻った。
疫病撲滅宣言と各種支援の為の手配をする為だ。
俺は暇になった。
一気に世界の諸問題を解決すればいい気がするんだが、それをやると事後処理に必要な人員が不足しすぎて逆効果だそうだ。
俺が作り出せばよくね?
そう思った俺は人手を創造しようと念じかけたところでふと中止した。
さすがにいきなり人間を作ったら問題が発生するかもしれない。
だったら天使を作ればいいじゃない。
結論を出した俺は天使創造、と念じた。
目の前に光の柱が立ち上った。
金色の髪、青い目、白い肌、桃色の唇、八枚の純白の翼。
俺の脳内にある天使そのものが立っていた。
彼女は跪き、俺に恭しく頭を下げた。
「創造主よ、ご命令を」
アデーレのサポートを命じようとして、はたと思った。
名前を与えないと不便じゃないだろうか。
そもそも天使を作ったと言っておかないとパニックが起こるかもしれない。
「お前の名前はアインだ」
「御意。我が名はアインと魂に刻みます」
「ついて来い、アイン」
俺はアデーレの下へと向かった。
「神様?」
膨大な書類仕事を目にもとまらぬ早業でこなしていたアデーレは、驚いたように俺を見る。
「仕事の邪魔をしてすまん。天使を作ったから見せに来た」
「天使様、をでございますか?」
アデーレは驚いて手を止める。
どうも天使はアデーレよりも格が高いようだ。
「ああ。お前達の補助役をやらせようと思ってな」
「そんな……もったいのうございます」
「創造主のご意思は全てに優先する」
アベルはアデーレの遠慮を一蹴した。
「そ、それはもっともでございますが……かしこまりました。ご助力、よろしくお願いいたします」
「うむ。創造主に賜りし名はアベル。我をアベルと呼べ」
「はい、アベル様」
アベルは猛然とアデーレを手伝い始めた。
正直、どの程度の能力があるのか不安で見守っていたのだけども、すぐに安心するハメになった。
明らかに処理速度が倍以上になったからである。
つくづく神パワーは凄い。
俺って元は一般人だったのに、一体どういう仕組みなんだろうか。
結論が出せそうにない事は置いておいて、せっかくだしもう二体ほど作ってみよう。
金髪青眼ばかりだと識別が困難だよな。
銀髪と紫眼、茶髪と緑眼を作ってみた。
銀髪をカイン、茶髪をツヴァイと名づけてみた。
……誰か俺にネーミングセンスを下さい。
カインもツヴァイも文句一つ言わずに命令をこなしてくれる。
俺はと言うと、虚脱感に襲われてシェイナという美少女に介抱されていた。
アデーレ曰く、神の力が完全に馴染んでいない状態で何度も力を行使した反動だという。
さすがにノーリスクでいきなりぽんぽん使えるほど甘くはなかったか。
それでもシェイナに膝枕をしてもらって、濡れタオルを額に当ててもらって、団扇で扇いでもらっている間に少しずつ回復している。
神ってマジでチートです、本当にありがたいです。
シェイナの太ももを堪能しながら思いついた事がある。
今、この世界は滅亡の危機に瀕しているわけだが、世界の危機がなくなるように念じたらどうなるんだろう。
試してみた。
世界の危機よ、去れと。
しばらくすると、美少女の一人が部屋に飛び込んできた。
紛争が終わり講和が結ばれたと。
直後に別の美少女が駆け込んできて、作物が実り始めて飢饉は終わったとか。
後はモンスターの群れはどこかに去って行ったとか。
アデーレから聞かせれていた災厄は全部解決してしまった。
「素晴らしいです、神様」
「素敵です神様」
尊敬と崇拝と盲信と偏愛をごちゃ混ぜにしたかのような表情で、口々に称えられる俺。
むしろ今まで助けられなくてごめんなさいな心境なんだけどなあ。
何はともあれ、助けられてよかった。
これで俺の役目は終わってしまったんじゃないだろうか。
アデーレに尋ねたら、とんでもないと首を横に振った。
「もしよろしければ、ずっと我々と共に……本来このような事を願うなど、増上慢な限りではありますが」
平伏しながら恐る恐るといった風にそう口にする。
俺としてはアデーレのような美少女達とずっとイチャイチャ出来るなら、何の不満もないわけで。
「うむ、よろしくな」
俺はせいぜい厳かに頷いた。