#2
俺が目を覚ましたのは、辺りが夕焼けに染まった頃だった。
やけに体が痛いと思ったら、どうやら駅近くにある公園のベンチで寝ていたらしい。
もしかして、夢を見ていたのか?
そんなことを思った。
現実で起きた出来事にしては、あまりにも内容がふざけていたからだ。
だが、だとしても俺は相当にヤバイ。
どこからどこまでが夢なのか、全く解らないからだ!
俺は確か、……CDショップに行くために、駅前まで足を運んだはずだった。
フロッピーディスクに劣るとも勝らない、容量の少ない頭を使って必死に考える。
そして、導き出した結果が二つ。
一つ。
公園に行った覚えはないが、ベンチから幼い子供の遊ぶ姿を眺めようと思った俺は、公園のベンチに座るも睡魔にやられて眠ってしまった。
正直こっちであって欲しい。
二つ。
夢だと思っていた出来事は現実だった。
その証拠に、口の中には少女がくれたクッキーの甘みが……。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
怖くて、少女のような悲鳴を上げた俺は、自宅への帰路を全力疾走!
そして、自宅に近づいた頃、走り疲れて歩いていた俺は学校の友人である久保田と出会う。
「おぅ、慎也じゃん……って、いつにも増して顔がR-18だぞ!?」
ポーカーフェイスが売りの久保田が、こんなにも顔を歪めるってことは、今の俺の顔は相当酷いんだろうな。
「……よぅ。さっき、金髪ロリ巨乳の美少女に毒殺されそうになったんだ。……どうしたら良いと思う?」
さらに、久保田の顔が歪んだ。
さっきので限界じゃなかったのか。それ以上歪むと、『Touch Me』で有名なエイリアンになるぞ。
「……とりあえず、病院行こう。ね?」
「なんで急に優しい口調になる!?」
「お前も、色々ストレス溜まってるんだな……」
馬鹿正直に言う内容ではなかったか!
確かにこれでは、俺が異常者と思われても不思議じゃない。
「あー、アレだよ。今のはゲームの話しだ」
なので、ゲームの話しということにしておこう。
「……お前、どういうゲームやってんの?」
久保田の冷え切った表情が痛ィ!
くそっ。これじゃあ、俺の偏った性癖を暴露しただけじゃねぇか!
「ソレ、なんてタイトル? メーカーは? 絵師は? 攻略対象キャラは何人? その毒殺しようとしたのはヤンデレ妹か?」
アレ、久保田君。冷え切った表情をしてるけど、言ってるセリフには熱が溢れんばかりにこもってるよ。妹ヤンデレが好きなのか、久保田君。
俺の冷たい視線に気付いたのか、久保田は「ごほん」と咳払いをすると、話しを切り替えてきた。
「そういや、慎也の家の前に、ここらじゃ見ないような黒塗りのベンツが停まってたぞ。俺はあんま車に詳しくないけど、あれはベンツだと解ったね。ゲーム内でよく、ツンデレお嬢様が乗ってるから」
ポーカーフェイスで言っている久保田が痛々しい。
最後の部分は気にしないとして、俺の家の前に黒塗りのベンツ?
何故か無性に気になってしまった俺は、自宅に向けてまた走りだす。
「あ、ちょっと待て! タイトルだけでも教えてくれ!」
遠巻きに久保田が何かを言ってる気がしたけど、きっと気のせいに違いない。