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神のから騒ぎ  作者: あすかはなび
第一神話 欲望の果てに
1/29

#1

 『神』とは何だろうか。

 そんなことを俺、――緒方慎也おがたしんやは思った。

 人類を創世したとか言われているわりには、実際に見たことのある奴はいない。

 それにもかかわらず、人間に与えている影響力とは凄まじいものだ。

 神とは、まさに未知な存在……。


 話は変わるが、俺は地元で中々に有名なロリコンとされている。


「公園のベンチに座りながら、遊んでいる子供を眺めるのが好きなんだよ~」


 と女子に言えば、


「慎也君って子供が好きなんだ! 優しいね!!」


 的な返答が返ってくると思ったら、返ってきたのはドン引きした女子の顔だった。

 そこで気付く。

 これって、ただのロリコン宣言じゃないか、と。

 その日からめでたく、俺はロリコンという名誉ある称号を与えられてしまった。

 どうして、俺の暗黒時代(現在進行形)の話をしたかというとだな、これから話すことは決して、下心があって起きたイベントではないと言いたいからだ!



 太陽の日差しがこれでもかと降り注ぐ昼時、俺は地元の駅前でとある少女に出会った。

 腰まで伸びた長い金髪に、フランス人形のように整った顔は、まさに芸術アートと呼ぶにふさわしい。

 何より俺が釘付けとなったのが、推定身長145cmにも満たない小さな体にもかかわらず、物凄く自己主張をしている、張りのある二つの果実。

 これは反則すぎる。イエロー……、いや、レッドカードだ!

 少女は辺りをキョロキョロ見回しては、同じ場所を行ったり来たりと繰り返していた。

 もしかしたら迷子か?

 そんなことを考えていたら、俺はいつの間にか少女の目の前まで歩を進めていた。


「君、……もしかして迷子? 良かったら、お兄ちゃんが目的地まで案内するよ?」


 俺は紳士感溢れるスマイルで少女に話しかけた。


「……」


 しかし、少女は無言。


「ごめん。いきなり知らない奴に声を掛けられたら驚くよね」


 俺は自分で言っておきながら、そのセリフに違和感を覚える。

 なぜなら、少女は『驚く』素振りを見せなかったからだ。

 知らない人に話しかけられて、羞恥や戸惑いから言葉を出せないなら、まだ解る。

 ……少女は、人形同様に無表情なのだ。


「俺の名前は慎也しんや緒方慎也おがたしんやって言うんだ。よろしくね」


 あえて、少女の名前は聞かないことにした。

 少女から返答が返ってくるとは思えなかったからだ。


「道が解らなかったら、そこの大通りを右側に進むと交番があるから、お巡りさんに聞くと良いよ。それじゃあ――」


 だから、俺は少女から立ち去ろうとしたんだ。

 しかし、予想外なことが起こる。


「――え?」


 少女が俺の袖をつかんだのだ。

 顔は相変わらずの無表情。でも、しっかりと小さな手で俺の袖をぎゅっとつかんでいる。

 俺は何かが胸の奥から込み上がってくるのを感じた。


「……よし! 目的地はどこなんだい? お兄ちゃんが案内しよう!」


 とびっきりの笑顔で、俺は少女にそう言ったのだった。



「ここで間違っていないよな。いや、ここのはずがないよな。でも、紙にはここの場所が記されているぞ!?」


 少女に目的地を聞いたら紙切れを渡された。それに記された場所が正しければ、俺の目の前に見えている建物が目的地となるのだが……。


「なんじゃ、このオカルト建造物」


 建物の到る所に『神は愛に満ちている』だの『神は慈悲に溢れている』とか『神は今日も元気です』といった、行書体で書かれた気味の悪いステッカーが貼られまくっている。

 門に書かれた『私立森羅万象学園』を見る限り、ここは学校なのか?

 だとすれば、相当に中二臭い学校名だ。


「こ、ここで間違っていないのかい?」


 どうか間違いであってくれ。せめて、この建物の正面に建てられている、しま○らであってくれ。


「……」


 少女は言葉の代わりに、ポケットに手を入れると、奇麗にラッピングされた小さな袋を差し出してきた。


「あ、ありがとう。ここで間違いじゃないのね……」


 少女が、じぃ~と俺を見つめている気がしたので、袋を開けてみることに。


「クッキーか。美味しそうだ」


 これだけのリアクションでは満足しないのか、少女は俺を見続ける。

 満足しない?

 声を出さなければ表情も変わらないというのに、どうしてそんなことを思えたのだろうか。


『クッキーを食べて』


 脳内で勝手に、そんなセリフを少女に言わせてみた。

 うん。これが一番しっくりくる。

 一度も声を聞いていないのにも係わらず、自然と少女の声を想像できた。

 俺は不思議に思いながらも、クッキーを一枚取り出し、口に入れる。


「ん~。甘くて美味しい」


 口一杯に砂糖の甘味が広がる。

 正直甘すぎだと思ったが、俺は少女に親指を立てウィンクした。

 どうだ、これで満足かっ。

 しかし、少女はまだ物足りないように俺を見続ける。

 これ以上、何をすれば良いん――


「あ、あれっ?」


 突如、足が体を支えられなくなり膝を着いてしまった。


「歩きすぎて痺れたかな。ぬーん。ぬぅぅーーーん!!」


 掛け声を出して、足に力を入れても立てる気がしない。

 容態は悪くなる一方で、次第に足だけではなく、体全体にまで謎の痺れは回ってきた。

 俺は情けないことに、地べたに仰向けの状態で倒れてしまう。


「ごめん。ちょっと、体起こすの手伝ってくれない?」


 首だけはなんとか動かすことができたので、俺は少女に顔を向けた。

 ――そして、見てしまった。

 あの無表情だった少女が俺を見て、……笑っている。それはもう満足そうに。


「私が作ったクッキー、美味しかった? お兄ちゃん」


 初めて聞いた少女の声に、痺れで感覚を無くしているにも係わらず、背筋がゾクっとしたのが解った。

 こ、怖い! 今、俺はっ、推定年齢十二歳にも満たない少女に恐怖を感じているッ!


「だ、誰か! 助けてくれぇぇぇぇっ」


 俺は叫んだ。たが、腹に力が入らず俺の声は空気中に飛散する。

 それに、不思議と周りには人が誰もいない!

 この少女に出会ってからは、不思議尽くしだ!


「お兄ちゃんが食べたクッキーには~、猛毒とまでは言えないけど~、わりと強い毒が入ってるから~、……そのままにしてると死んじゃうよ。助けて欲しい?」


 少女は俺の頭の傍にしゃがむと、ニッコリと微笑んできた。


「だずげてぇ」


 俺は情けなく、少女に助けを求める。


「それじゃあ、私のお願い聞いてくれる?」


 とうとう動かなくなった首を、それでも縦に振ろうとした。

 そんな俺を見て、少女は「可愛い」なんて言いやがった。


「ふふ。それじゃあ、お兄ちゃんにお願い」


 一体どんなお願いをするんだ?

 下僕になれとか、ペットになれとか、そんなアブノーマルなお願い、俺には応えられないぞ!


「私の通う学校、――森羅万象学園に入学して」


 俺にそう言った少女の笑顔はとても明るく、不覚にも可愛いと思ってしまった。

 ……そこで、俺の思考はシャットダウンする。



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