第一章『救えぬ魂』(5)
「どうやらキミは知っていたんだネ、遼平クン?」
「てめぇ、俺達にそんな事言いに来たのかよ……!」
「事実上、キミ達の仲間を売ってしまったからネ。セメテものお詫びだヨ」
変わらず軽い笑みのフェイズを、拳を震えさせながら遼平は睨み付ける。純也は繋がってしまった事実の糸に、ただ呆然としていた。
「そんな……まさか、真君が!?」
「純也クン、残念だけどその通りサ。もう一度言うヨ、キミ達の部長……霧辺真が《斬魔》なんダ」
「…………だからなんだってんだよ」
遼平の声が震える。感情の爆発を堪えているように、微かな声で。
「だからどうしたってんだよ! あいつは今回の事件とは関係ねえっ!」
「それでも警察は、部長サンを初めに疑ったヨ。前科があるんダカラ、仕方が無いヨネ」
「あいつがやるわけねーだろうがっ!!」
「……そう言い切れるか?」
「紫牙っ?」
壁にもたれて腕を組んでいた澪斗が、一歩踏み出す。澪斗は冷静で、いつもと同じ表情だった。
「真はここ数日、一人で夜間の警備をしていた為にアリバイが無い。……それも警察に伝えたのだろう? 情報屋」
「流石澪斗クン、鋭いネ。それを踏まえた上での、昨日の強制連行ってわけサ」
「……そうか」
「そうか、じゃねえだろ! なに冷静に言ってんだよ!」
遼平が澪斗の胸倉を掴む。今にも殴りそうな剣幕で、服を握り締めた。
「アリバイが無い以上、疑われても文句は言えまい。ヤツは昔、殺人鬼だったのだからな」
「紫牙てめぇ……本気で言ってんのかよ!」
「俺はふざけた事は言わん。放せ、蒼波」
「許さねぇぞ!!」
「貴様に許されようが許されまいが関係無いな。どけ」
遼平の手を払いのけ、自分の荷物を持って澪斗は出ていこうとする。
「澪斗っ」
「今日から例の依頼がある。部長が不在なぐらいでやらないわけにはいくまい。希紗、裏オークションの会場の情報を後で俺に送れ。今夜八時から始める」
「う、うん……」
それだけ言い残し、澪斗は帰ってしまった。遼平が近くにあったデスクを蹴りつける。
「くそっ、紫牙の野郎……!!」
「落ち着いて、遼平」
「これが落ち着いてられるか!? おいマリモキリシタンっ、てめぇもとっとと帰れ! これ以上ココにいたらてめぇもぶっ飛ばすぞ!」
「オゥ〜、怖いネ〜。じゃ、ボクはもう失礼するヨン。希紗チャン、今日は仕事があるみたいダカラまた今度にするネ!」
茶をしっかり飲み干し、ラジカセを抱えて情報屋は去っていった。再びサンバのリズムを流しながら……。
「……友里依、気にすんじゃねえぞ。真がやるわけねーんだからよ」
「ありがとう、遼平くん……」
もう涙も乾いた笑顔で、友里依は頷いた。ひどく疲れたような感じは残っていたが。
「私、今夜の仕事の準備するわね。しっかり仕事しないと、真に怒られちゃう」
フォローするような笑みで、希紗が遼平を見上げる。「さてと」と立ち上がり、工業カバンを持ち上げて。
「遼平……、澪斗も真を疑ってるわけじゃないと思う。だって私達……中野区支部が出来た時からずっと一緒だったんだもの」
「……」
最初中野区支部は、真と澪斗、希紗の三人だけだったと聞いたことがある。よくもまぁたった三人で始めたものだと、遼平は呆れたことがある。
ずっと黙っていることしかできなかった純也は、何かが壊れていく感覚に、どうしようもない焦燥感を感じていた。