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PL『断罪の始まり』

依頼4《贖罪の刃》ショクザイノヤイバ



PL『断罪の始まり』



「この野郎ーっ、今日こそは決着つけてやる!」

「……黙れ愚か者。決着ならばいつでもつけてやる」

「いい覚悟だ! 喰らえぇ!」

「ちょっと待ったぁー!」


 殴りかかる拳を二人の間で受け止める少年。白っぽい髪が反動で揺れる。ついでに、拳を突き出した男の喉に当てられた銃口ももう片手で塞ぐ。あと一瞬遅れていたら死者が出ていただろう。

「純也邪魔だっ」

「死にたくなければ見ていろ」

「やめてってば! どうしてケンカばっかりなの!?」


「「気に入らないからだ」」


「……どうしてそーいうトコロは息が合うのかなぁ……?」

 ため息混じりで、少年――純也は自分より背の高い二人を双方へ押し返す。まだ殺気は消えないが、それでも少しは治まった。

「で、今日のケンカのお題目はなんなの?」

 純也の問いに、銃を片手にした冷静な男――澪斗は真剣な顔つきで答える。

「俺にいきなり挑みかかってきた。理由ならばこの愚か者に訊け」

「遼?」

 今度はまだ熱くなっている男――遼平を見上げる。遼平の拳を受け止めた純也の右手は、まだジリジリ痛んでいた。

「こいつが俺のとっといた菓子を食いやがったんだよ!」

「はぁ?」

「そんなもの、俺は知らん」

「食っただろっ、俺の煎餅を!」

「…………ああ」

 ようやく思い出した様子で、澪斗は首を縦に振る。そうか、先程戸棚に入っていたあの煎餅の事か。

「よくも最後の一枚を〜っ!」

「あのさ遼、たかがお煎餅一枚で……」

 そんな小学生レベルの理由で生死を争っていたのか、この大人達は。『大人って何だろう?』と最年少の純也は改めて考えさせられる。

「たかがってなんだ! 俺はあの『べたべた焼き』が好きだったんだ!」

「……にしては、あまり美味くなかったぞ?」

「食っといてなんだぁーっ!」

「お、落ち着いてよ遼。澪君も――」


 遼平から澪斗へ視線を移したのとほぼ同時に、突如の銃声っ!


「「っ!?」」

 遼平が一瞬純也に気を取られた瞬間、澪斗が銃の引き金を引いた。その弾は遼平の顔の数センチ横を切り、事務所の窓を見事に砕いて向こうのビル街へ飛んでいく……。


「……外したか」


「てっ、てめぇ、『外したか』じゃねーだろ!! 実弾ぶっ放しやがって、本気出すぞコラァ!」

「澪君っ、なにも本当に撃つことないんじゃ……!」

「あーあ、完璧に割れちゃったわよ〜。どうすんの?」

 ケンカに巻き込まれまいと部屋の隅に避難していた希紗が砕け散った窓をしみじみと眺める。騒音が聞こえないようにしていたヘッドホンを耳から外し、涼しくなった風を浴びていた。

「……」

 澪斗は何も答えない。ただ真っ直ぐ自分が撃った方向を遠く見ている。



「……何や〜? 何かあったん〜??」


 ようやく起きてデスクから顔を上げた部長は、眼前に広がる光景に一時呆然となる。倒されたイス、いきり立っている遼平、遼平を押さえている純也、銃口から煙を上げているマグナムを握る澪斗、粉砕した窓辺に立っている希紗……何なんだ、この状況は?

「なァ純也、これはタチの悪い夢だって言ってもらえるか?」

「え……いいけど、それでも現状は変わらないよ?」

 寝起きの部長――真のささやかな願いを、純也は残酷な現実で跳ね返してしまう。真は深い深いため息を吐いてから、ゆっくりと立ち上がる。睡眠不足で立ちくらみがした。

「とりあえず全員席につけー。そしてこの悪夢を起こしたヤツは素直に手を挙げろー、今なら一週間の部屋掃除で許してやるでー」

「……真、その裁きは後回しになりそうだぞ」

「へ?」

 澪斗の言葉が終わるか終わらない内に、何かが物凄い勢いで階段を昇ってくる音がした。全員が事務所の扉に振り返り、澪斗は再び銃を構える。



「ヒドイよっ、いきナり撃ってクルなんて! もうチョットで当たルとこだったジャないかー!」



「あーっ! てめぇは!!」

「フェッキー!」

 肩で息を切らせながら扉を跳ね開けた長身の外人は、遼平と純也は見知った人物だった。できれば、再会したくはなかった情報屋――フェイズだ。白人で黄土色のマリモヘアー、灰色の瞳を持つ。ちなみに小さな教会で神父もやっている、とにかく……とにかくいろんな意味で厄介な情報屋だ。何故なら……。


「なに、二人とも知ってるの?」

「う、うん、一応……」

「この世で最もうるさいマリモキリシタンだ……」

「は?」


「モウッ、おかげでボクの双眼鏡が壊れちゃっタじゃなイかー! ア、撃ったのキミだね!? 澪斗クンっ、なにすんのサ!」

「貴様、いつから俺達を監視していた? あのビルの屋上からだな、どこの差し金だ? ……どうでもいいが、何故俺の名を知っている?」

「じゃあ澪君、さっきの発砲は……」

「こいつに向けてだったってのか?」

「ムー、いい視力してルね澪斗クン。キミの質問に答えるとだネ、ボクは三十分ほど前かラ観てたヨ。ボクは情報屋だから差し金じゃナイし、キミのネームぐらいは知ってるヨン」

 堂々と胸を張って答えるフェイズ。監視がバレたのだから、少しはへこんだらどうか。しかもわざわざ乗り込んでくるか? 普通??

「コレ結構高かっタんだからネ! 弁償しテもらうヨ!?」

「馬鹿か。貴様にはこれをくれてやる」

 そう言ってリボルバー式マグナムを片手で構える澪斗。撃鉄は既に起きていた。引き金を無表情で引こうとする澪斗の前に、浅黒い手が差し出される。

「ここでそれはやめとき。処理に困るだけやって」

「真、正気か? みすみす情報屋に情報をくれてやるのか?」

 冷たい視線が今度は間に入った真に向けられる。まだ眠そうな真はその視線に気圧される風は無い。

 確かに、澪斗の言う事は常識にかなっている。情報屋に観られていると知ってそれを見過ごすなど普通は有り得ない。どんな情報であれ、その情報屋を抹殺しようとするのが裏社会の基本だ。

「ワイは平和主義者なんよ。……あんさんも今度からは勝手に乗り込んでこないでもらえまっか?」

 頭痛がするように真は額を押さえながらフェイズを見上げる。バレたとわかって乗り込んでくるとは、ここにいる全員に勝つ自信があるのか、それともただの天然か? どちらにしろマトモな情報屋ではないのだろう。下手に手出ししないほうがいい。


「平和主義者、ネ……。ナかナか面白いジョークだね、部長サン」


「……それはどういう意味でっか?」


「オー、そのまんまノ意味だヨ〜」


 真の瞳が一瞬だけ鋭くなった。それにおどけるようにフェイズは両手を上げて肩をすくめる。ほんの一瞬の出来事だった。

「それで、どうするのよこの人。っていうか誰?」

 結局、希紗が一歩踏み出て一番重要な事をまとめる。初めて希紗が視界に入ったフェイズは、瞬間目を見張る。口を半ば開けたまま、呆然と希紗を見つめていた。

「な、なに?」

「キ、希紗チャン、だよね……?」

「そうだけど……」

 希紗の所まで進み出て、フェイズは真摯な眼で膝をつき、希紗の手をガシッと握った。




「ボクと結婚しテくだサイ!」



「「「「「はあぁ〜!?」」」」」


 五人はそれぞれの表情で口を開く。しかし一番困惑しているのは他の誰でもない、希紗である。

「データにはあったケド、コンナに美しいとハ知らなかったヨ! なんて素晴らしいンダ! まるで雑草の中に咲くバラのようだ!!」

「……よ、良かったなァ希紗」

「嫁ぎ先が決まったな」

「……いいのかな、これで……」

「っていうか雑草って俺達のコトかよっ!」

「ちょっ、何なのよこの展開!? それにあんた誰〜!?」

「アァ、言い忘れテましタ! ボクはフェイズ。フェイズ・B・イゼラード。フェッキーって呼んでネ。情報屋『ハイテンション』の店主だヨン。マ、ボクしか店員はいないンだけどネ〜」

 一人で可笑しそうに笑うフェイズに、アメリカンジョーク(?)は理解できない五人は呆然とする。一体どうしよう、この情報屋……。


「ドうかボクの熱い想いを受け取ッて〜!」

「い、嫌だってば! 手、放してよ〜! みんなもっ、ナニ突っ立って見てるのよ!!」

「いや……案外似合っとるで、希紗」

「冗談じゃないわよ! どーしていきなり結婚話になるのよ!?」

「しかし、今を逃せばもう好機は無いかもしれんぞ?」

「澪斗まで〜っ」

 もう半泣き状態の希紗。こんな事で自分の人生に大きな転機が訪れてしまうのか? 運命という名の悪運を呪うしかなかった。


「こうなったら……フェッキー! すぐには答えは出ないから今日のところは引き返してっ!」

「ナルホド、そうだよネ。じゃ、ボクはこの辺で。ロスキーパーの皆サン、ごきげんよう〜ッ」

 爽やかな笑みと共に、最後まで自分のテンションを保ちきった情報屋は去っていった。全員がとてつもない疲労に襲われる。特に希紗は跪いてがっくりと肩を落としていた。

「……それで希紗、本当に話を考えるのか?」

「冗談。そんなワケないでしょ……」

 その場しのぎで放った台詞を、今更ながら希紗は後悔する。結局情報屋を見過ごしてしまった事には、誰も気づいていなかった……。



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