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第五章『贖罪のために』(5)

「友里依っ」



 真は倒れたままの体勢になっている友里依まで急いで駆けつける。手足を拘束している縄を阿修羅で断ち切ると、友里依は真が倒れるほどの勢いで抱きついてきた。

「真ーっ、真ー!」

「ごめんな、ワイのせいで怖い想いさせて……」

 真の腕の中の友里依が、今まで溜め続けていた涙を堪えることなく流す。彼女を、左腕でただ抱いてやる事しかできない。

「ほんとに怖かったの、真が殺されるかと思ったらっ」

「怪我は無いか? どこか傷は……」

 首もとにスタンガンの痕が見えて、真も泣きたくなる。


「自分の心配してよっ! 傷だらけじゃない!」


「ごめんな……ごめんな」


「謝らないでよ……っ」


「でも、ワイが……ワイのせいで……」


 どんなに謝っても謝りきれない。十年前のあの日に死んでいれば。生き続けなければ。愛さなければ……。

 自分が生き続ける限り、罪はついてまわるのだと。そんな事はわかっていたはずだった。このまま存在していたら、周囲の者に迷惑が及ぶ。



 一時の感情で数多の命を奪った、そんな自分の手が、身体が、心が大嫌いで。

 己を《嫌う》などというレベルでは、許されるはずがなかったのだ、あの大罪は。己を《殺す》こと、被害者に味わわせた苦痛の数倍以上の痛みをもって《この世から消す》ことで、誰か一人でも、自分を許してくれるだろうか?


 この紅にまみれた身体を、この罪深い魂を、我が手によって《消す》ことでしか、もう手段が無いと。




 そんな暗愚な答えしか見つけられぬ、自分がやはり嫌いで――――。





「……お別れや、友里依。ワイ、もう逝かなきゃならん……」






 女の身体を突き放し、男は再び刀を抜く。この刃が最後に殺めるのは……最も多くの命を奪った使用者にして、武士の末裔。

 これで阿修羅が紅く染まるのも最後だと、そう刀に願って、詫びて。

 断罪のために、黒刃は命を絶つ!




























「真―――――っっ!!」










 止まった刃先を伝う、紅い雫。




 確かに男の腹部を目掛けた黒刃は、女の両手に掴まれて動かなくなる。左手一本で柄を握っていた真の力が負けたのは、もうそこまで余力が残っていなかったのか、それとも友里依の手を傷つけたくなかったからか。


「友里依……離して……」


「嫌っ! 手が斬れたって離さないから!!」


「なァ……これが最善なんよ……わかってくれ……」


「何が最善!? 真が死んで、それが最善だって言うの!? 私を残すのが、最善なのっ?」


「だって……こうすればもう友里依が危なくなることも無いから……」





「ふざけないでっ!!!」



 あまりの気迫に、真が怯む。初めて友里依から浴びせられた怒声……憤りの形相……見たこともなかったほどの、涙。


「私は真と一緒に居たいの! 絶対、真と生きるから! 私ワガママなのっ!!」


「友里依……ホンマに、我が儘やで……? ワイが困るがな……」


 友里依が阿修羅をより強く握って、その細い手が斬れていくのを見て、真はつい刀を落としてしまう。

 地に当たる刃の金属音、屋根を叩いて雫を垂らす雨音だけの、世界。



 友里依の潤んだ瞳は、真が本気で愛おしいと思ったその瞳は、ふっと柔らかな笑みを浮かべて。

 真を見上げながら、首に手をまわしてゆっくり抱きつく。



「ねぇ真、私ね、本当に真を愛してるの。だから、真にも、《真自身》を好きになってほしいの。私は自己中だから……真がどんなに嫌がっても、絶対、自分を大切にさせてやるから」


「なんで、なん……? なんで友里依はそこまで――――」




「見たいの、貴方の本当の笑顔を」




 それは出逢った時と未だに変わらない、愛する根拠。離れたくない理由。大好きな、目標。



「夫婦なんだから、独りで重荷を背負わないで。私、そんなに弱くない。だって、真の妻なんだもの」


 愛妻の、優しく温かい言葉。もう涙を堪えることが出来なくて、嗚咽と共に、押し殺していた心の声が漏れる。



「つ、らかった……苦しかったっ、《自分》に否定され続けて、それでしか《自分》を保てなくて。誰にも認めてもらえないモンやと思ってた……!」


「私も、支部のみんなも、真を認めてるの。気付かなかったのも、認めなかったのも、真だけ。……ね、一緒に居てくれる?」


 心が己を許すには……自分を認めるにはしばらく時間が要りそうだけれど。




「ワイもっと強くなるから。友里依を護れるくらい、強くなってみせるから。……ずっと、隣りに居るから」

「うんっ」


 雨の冷たさも、右腕の痛みももう感じなくなっていた。全身から力が抜けていく……抱きしめた友里依の体温さえ遠のいていく。




 もっと早く気付けばよかった。もう独りではないのだと。最後に友里依を強く抱いて、真は流れる雨に意識を委ねた。

 友里依は見えなかったが、気配でわかっていただろう。




 彼が、十年ぶりに本当の笑顔を取り戻せたことを――――。


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