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第五章『贖罪のために』(3)



「…………目ぇ覚ませっつの、チビ」



 片膝をついたフェイズの寸分前で、純也の拳を握り返した人影があった。にやついたその顔で、もう片手を伸ばし、少年の乱れた白銀の髪を押し上げる。



 握った拳から力が抜けていく。やっと見えた少年の顔は……瞳から流れる雫で濡れていた。フェイズと自分との間に立ちふさがった男に、濡れた瞳を大きく開いて。



「――っ、りょう……!?」



「な、なんだよ、なんで泣いてんだお前? この泣き虫が」

 純也は傷だらけの腕を遼平に伸ばそうとして、途中で力尽きて倒れてしまった。なんとか地面につく前に身体を支える。もう意識は無かった。

「ふぅ……。タイムリミット、だネ」


 自由になった気圧が強い風を吹かせ、安定した気圧が戻ってくる。「よっこいしょ」とフェイズは鎌を支えに立ち上がった。

「いやぁ、一時はどうなるコトかと思ったヨ。遼平クン、サンキュー」

「はぁ? おいコレどうなってんだよ。なんで純也が……てめぇ俺に何しやがった?」

 遼平は何が起こったのか思い出そうとする。確か、いきなり上空にフェイズが現れて……鎌で突かれた瞬間、急に意識が遠のいて……気がついたら周囲が荒れ地と化していて、純也がフェイズに飛びかかろうとしていて。よく見れば、目の前の情報屋はボロボロだ。

「うーんとネ、遼平クンにはちょっと死んでてもらおうかと思ってネ。だから、西洋の奇跡でチョコチョコっと、ネ?」

「あぁ!? 俺が死んだだぁ!?」

「だから言ったジャン、『メシア・クロス』は受けた者の息の根を止めル、ってネ」

「聞いてねぇぞ、ンな話はっ」


「アレ、そうだったっけ? ……まぁ死ぬって言ッテも、ただの『仮死状態』なんダケド。その名の通リ、救世主、《イエスの十字架》なのサっ。復活を意味する奇跡の業。純也クンにもバレないんだから、大したもんデショ?」


「ってゆーコトはつまり……」

「ソウ。純也クンを騙して、キミが死んだと思い込ませたノ。タイムリミットは復活してしまう三分マデだったケドネ」

 陽気なフェイズの笑顔に、唖然とする。ため息を吐いて片腕で支えている純也を見下ろし、意識が戻ったら一発殴ってやろうと決める。普通信じるか?

「俺がそんな簡単に死ぬワケねーだろ……」

「ウンウン、まったくだよネ。キミみたいなタイプは、世界が崩壊しかかっても根性で生き抜けるヨ〜。大体、ボクはこれでも神父なんだし――――」


「おいマリモ」


「ン?」



「二度とこんな真似すんじゃねーぞ。次にやりやがったら……俺の実力も見られると思え」



 視線が合い、静かな怒りに燃えた瞳に気付く。内心身震いするのを感じたが、表情には出さない。今の状況で彼を敵に回すのは良くない。

「そう何度も同じ手が通用スルとは思ってないヨ。……一つ訊くケド、キミ達はどちらの方が強いのカナ?」

 今見た限りでは、純也の力はケタ違いに強い。以前見た遼平の力よりも。

 が、遼平は鼻で笑った。

「俺に決まってんだろ。……本気でやればな。だが今のは純也の本来の力の七割もねえ、下手な好奇心は死を招くぞ」


「そうカイ……。じゃあボクはあえて予言しよう。その少年の力は、遅かれ早かれキミ達に破滅を呼ぶダロウ。本人の望みに関わらず、いつの日か」


「……」

 遼平は反論してこなかった。ただ、眼を細めてじっと視線を合わせる。その瞳は、とうにそんな事には気付いているようにも思えた。

「ンな事はどうでもいい。俺には……果たすべき《約束》があるんだ」

「わかったヨ。そレではボクはこの辺で。……あぁ、言い忘れてタ、純也クンに『ゴメンネ』って謝ッテおいてくれないカナ? 彼には随分とヒドイ事をしてしまったからネ」

「……早く帰れ、マリモ」

 切られた腹部を押さえながら、フェイズは倉庫の屋根に飛び移り、姿を消していった。気圧が散々に荒らされたせいで、雲行きが怪しくなり始める。今にも雨が降ってきそうだ。

 どかっと地面に座り込み、煙草に火を点ける。寄りかかっている純也が、静かな寝息を立てていた。



 ――――『ねぇ遼……』



 もうあれから二年になる。あの《約束》は、まだ二人の間で静かに保たれている。黒くなった雲を見上げ、紫煙を吐く。



 ――――『ねぇ遼、もし僕が――――時は……』



「わあってる。……忘れたことは、ねぇ」

 もう一度、確認するように言葉にしてみる。過去の声に、再び頷く。









「お前より先には死なねーよ…………《約束》、したからな」




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