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第四章『怨念の策略』(4)


「真、こっちだ!」


 高い塀から難なく飛び降りてきた真に、声が届く。顔を上げるといつもの大型バイクを唸らせている遼平がいた。

「遼平っ」

「話は後だ、乗れ!」

 普段は純也の特等席である後ろに跨る。その直後にバイクが走り出した為、バランスを崩し、真は落ちそうになる。よくこんな場所に純也は乗っていられるものだ。

「どうなってるん!? 純也はっ?」

「あいつは先に行って様子見にいってる。手は出さないよう言っておいたから平気だ」

「どうして場所が……?」


「誘拐犯からわざわざ電話があったんだよ。『愚かな君達に通告する。今から言う場所に霧辺真を連れてこい、従わなければ女の命は無い』、ってな。人をバカにした口調で喋りやがって……」


「ワイが狙い、か」

「すまねぇ真、俺達がついていながら、友里依を……」

 ヘルメットをしていない遼平が悔しそうに歯を食いしばる。わかりやすいというか……ひねくれているように見えて、結構遼平は単純なのだ。そんな部下に苦笑を漏らす。

「エエって、元はと言えばワイのせいやし。後はワイがなんとかする」

「……お前の『なんとかする』はあてにならねぇんだよ。いつも……自分だけ勝手に突っ込みやがって。普通は逆だろ」


 不味い状況になると真は己を犠牲にしてでも他人を護ろうとする。それが彼の言う『なんとかする』であり、それで中野区支部が何度か救われたことも否めない事実ではある。しかしその性格は、上司としては不向きとしか言いようがない。


「無責任なんだよ。上司ってのは最後まで組織を統率しなきゃいけねぇだろ、一番先にいなくなるな」

「うわー、遼平に説教されるとは思わなかったわァ」

 「何が言いたいんだよ」と遼平はむすっとした表情になる。真は笑いながら、遼平の言葉をしっかり受け止めていた。

 わかっている。自分は上司であるべきではない。時に冷静な判断が出来ない事も知っている。それでも……それでも、仲間が傷つくのは耐えられないのだ。誰かが怪我するくらいなら自分が……、そう思ってしまう。全てを護りたい。自分の身が滅ぶまで、もう誰も逝かせたくない。その為ならば――――。

「――い、おい真?」

「あ、あァ、すまん」

「また変な事考えてんじゃないだろうな?」

「んなコトあらへんって。ちゃんと前見て運転しぃ」

 前方を指差され、遼平は再び意識を運転に戻した。指定された廃棄倉庫まで、もう間もなくだ。


         ◆ ◆ ◆


 街外れの廃棄倉庫前に到着して、二人は広がる光景に唖然とした。無数に転がる強面の男達の身体……その中央で服の砂埃を払っている少年が一人。

「純也、手出しはするなと言っただろ」

「遼、真君! いや〜、ゴメンね、先に手間を省いとこうと思ってさ」

「手間って……純也まで巻き込みとうなかったんやが……」

「今更巻き込むもなにも無いだろ。まぁいい、よくやった純也」

「うん!」

 頭に手を置かれて、純也は嬉しそうな顔をする。いつもなら争いを好まない純也が、ここまでする理由。きっとそれは希紗や澪斗、遼平が駆けつけた理由と同じで。だから真は行かねばならない。無事に、友里依を取り戻さなければ……。

「指定場所はあの倉庫ン中だ。行くぞ!」






「チョォーット待ったアァ〜!」



 上から降ってきた声に、三人は驚いて倉庫の屋根を見上げる。コンテナなどの倉庫であるこの巨大な建物から次に降ってきたのは、二メートル近い長身の外人だった。

「え、フェッキー??」

「ココから先は行かセないヨ〜(条件つきダケド)!」

「はぁ? なんでてめぇが出てくんだよ! しかも括弧『条件つき』括弧閉じってなんだよっ」

「フッフッフッ……、ボクはいわゆる門番サ! ココからは部長サン、キミしか通さナイ」

「へ? ワイ?」

「ソウ! あとの二人にハ残ってボクの相手をしてもらうヨ。それガ条件サ」

 フェイズは自分の身長ほどもある大鎌マリアを構える。相変わらずのテンションで何を考えているのかわからないが、冗談ではないらしい。

「けっ、てめぇが門番だと? 笑わせんなよ」

「ジョークじゃないネ。ホラ、早く行かないと友里依サンが危険ダヨ? サぁサぁ、部長サンは行ってヨ」

 後ろ指で倉庫の戸を指す。我に返って、真が振り返った。

「……任せられるか?」

「当たり前だろ。こんなマリモキリシタン、相手にするまでもねえ」

「なんかよくわかんないけど、真君は先に行って。僕達もすぐに後を追うから」

 頷いて、真はフェイズの横を通過していく。本当にフェイズは彼を素通りさせた。大きな扉を開け、真は一人で中へ。


「どういう事だ、説明しろよ」

「イイヨ。ボクが依頼を受けたのはネ、警察の人間ダケじゃないんダ。モウ一人……もっと前から依頼人がいた。その人物ハ部長サン、霧辺真が斬魔であるコトを既に知ってイテ、彼の現状を調べるように依頼してキタ。そして彼の性格、仕事傾向まで綿密ニ情報を集めて、今回の一連の計画ヲ実行したのもその人物サ」















「その人は…………大麻圭介君、だね?」





「……肯定は出来ないヨ、守秘義務があるからネ。でも、これだけは言える。部長サンにかなりの怨恨がある人ダヨ。そうでなきゃ、コンナにもヒドイ事は出来ないからネ」

「結局そいつの思い通りに事が運んだってわけか。で、情報屋のてめぇがなんでココで出てくるんだ?」

 黒幕とフェイズが繋がっていたことは理解できた。フェイズが監視していたのは、真だったのだ。真に容疑がかかるよう手伝ったのもフェイズ。そこまではわかったが……。

「そうだネ〜、言うなればアフターサービスってやつカナ? ボクの店は親切第一だからサ」



「…………嘘だな」

「……うん、嘘だね」



「ドッキーンっ、な、なんでバレちゃったのカナ??」

 大鎌を落とし、あっけなく動揺するフェイズ。よくこんな性格で情報屋が勤まるものだ……世も末か?

「なんだよそのわかり易すぎる効果音は。お前が、サービス精神で危ねえ橋渡るわけねーだろ」

「フェッキーが動く時って、大体が自分のためなんだよね……」

「ウグググ、短いお付き合いデよくそこまでご存じだネ……。エェーイ、こうなったラ全部正直に話しちゃうヨ! ボクはネ、この機会に便乗して実力を調査しに来たんダヨ。謎の多いロスキーパーの本当の力を」

「俺達の力?」


「まぁネ。でも、ボクだって一度にそんなに欲張らナイ。今日調べるのハ……純也クン、キミだヨ!」


 白い指でフェイズは純也をビシッと示す。悪戯っぽく指されて、純也は「僕!?」と驚く。フェイズは満足そうに頷いた。

「蒼波一族の力、《鬼》の遼平クンも充分東洋の神秘ダケド、キミの能力はソレ以上にボクの興味をそそる。自然現象に人が介入できるわけがナイ。どうやって風を操ってイルんだい?」

「フェッキー、僕もよくわからないんだ。僕には過去の記憶が無い。どうやって、って言われても、ただなんとなくとしか……」

「……なるほどネ。ウン、まさに東洋のミステリー!」

「おいこのマリモ! てめぇと話してる暇はねぇんだよ。わかったらどけっ」

 苛ついてきた遼平が腕を振る。フェイズは残念そうに大袈裟にため息を吐いた。

「モウっ、遼平クンはせっかちサンだなぁ。ボクは言ったでしょ、純也クンの本当の力が知りたいノ。正直、キミだけはデータが集まらないんダヨ。澪斗クン達の情報はそれなりに手に入れてるケド、純也クン、キミはいつも力を自分でセーブしてる。そうだネ?」

「っ!」


「キミは裏社会で生きていくにハ優しすぎル。そのタメ自ら本気を出さない。……そんなじゃ、いつか死んでしまうヨ?」


「うるせえぞマリモ! どう生きようが勝手だろうがっ!」

「もちろんそれは自由ダヨ、神は平等に我らをお創りにナッタ。……サァ、ここでキミに選択肢をアゲル。本気でボクと戦って力ずくでココを通るか、否か」

「そんなっ、通してよフェッキー!」

「ボクと戦えば、ネ。おそらくキミは強大な力を隠してル。ボクは情報屋として、それが知りたいンダ。……いいカイ、ボクはキミの大切な人の情報を売ったんダヨ? ボクを憎んでも全然おかしくないと思うんダケド?」

「それは……! それは、フェッキーだって仕事だったから! この社会じゃ仕事は選べないっ、そうでしょ!?」

 純也に憎悪の感情は微塵も見られない。確かに純也の言うことも正しい。善悪に関係無く、仕事人に選択権は無いと言える。だがそれでも憎んでしまうというのも、また人情というものだ。

「どうしたラ、そんなに人を恨まずに生きられるのカナ……。じゃあボクは、最終手段をとるシカないナ」



 たぶんこの優しすぎる少年は、自分が殺されかけても本気を出そうとはしないだろう。フェイズは少しだけ、彼を羨ましく想う。世界中の人間が皆彼のようであれば、世界はこんなにも歪まなかっただろうか。これほどまでに透明な心の持ち主がもっと世界にいたならば……あるいは。



「いい加減にしろよ! 何が戦うだ、てめぇなんか俺一人で充分だ!」

 遂に遼平の我慢が切れた。先程から自分を差し置いて勝手に話を進めていく情報屋に、完全に腹が立ったようだ。遼平が黙って純也とフェイズが戦うのを見ると思っているのだろうか。決して遼平一人でも勝てない相手ではない。純也が出る幕は無いだろう。

 長身の白人は、大鎌を拾い直して軽々と回し始めた。そして鎌の部分を上に立てた状態で、ピタリと止め、短く英文を唱える。


『……我が父よ、我が行う罪、決して許されまじ。けれど我らが意志の為、我は力を振るう!』


 純也には、その英語が聞き取れた。同時に、悪寒が走る。とても嫌な予感がした。




「いくヨ……一瞬ダ」




 明らかにその声色が表情が……テンションが違う。キッと眼を上げたと思った次の瞬間には、その長身の姿は無かった。



 何かが、陽の光を遮る……!



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