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第四章『怨念の策略』(1)

第四章『怨念の策略』



 真が先日まで夜間警備をしていたホテルのロビーで、遼平と純也は立ち尽くしていた。


「真を見たっていう証言は無いのか? ホテルの人間で、見てるやつがいれば……」

 真がいたのは高層ホテルの三十五階。誰かが真を目撃していてもおかしくないはず。

「一応はフロントで訊いてみたんだけど、そんな人は誰も見てないってさ。大体真君が仕事中に表の人に見られるような真似はしないと思うよ」

「なんで仕事がそんなに大切なんだよ。どうしてあいつは必死なんだ?」

「遼は毎回サボってるからねぇ。真君は、助けてくれた社長に忠誠を誓ってるみたいだし……社長の命令なら絶対に従うよね。僕は風薙社長は好きだけど、遼はなんで社長が嫌いなの?」

 社長に会うことは滅多に無い。純也は、初めて会った入社面接の時と、その後本社に行って二〜三回。遼平と社長が二人っきりで話した事はあるのだろうか。

「……あいつとは昔色々あってな。ったく、あのクソジジイ……」

 何か不機嫌な記憶を思い返したのか、遼平は不快な顔をする。そういえば、何故遼平はそんな嫌いな人間の下で働いているのか?


「遼はさ、なんでロスキーパーにいるの?」

 純也は自分の食費を稼ぐためだ。拾われた時、精神が不安定だった純也は遼平の近くにいる事で安全とされ、それで自然と遼平の働いていたロスキーパーで同じく働く事になったのだ。だから純也には選択肢が無かったとも言える。しかし遼平は、他にも職業が選べただろう。

「あのジジイが声かけてきたから仕方なくやってんだ。別に理由なんかねーよ」

「社長のスカウト?」


「まぁンなとこだろうな。俺は……あいつにかくまわれて――――」


「え? 何て言ったの?」

「何でもねーよっ」

 最後の方が小声だったので聞き直すと、遼平は何故か答えてくれなかった。遼平が気を悪くしないように、これ以上は訊かないことにする。誰にでも、知られたくない過去があるものだ。……そう、誰にでも。

 だから、話題をすり替えようとする。



「ところでさ、社長って本当は何者なのかな? 社内の噂では表社会でかなりの権力をもってるらしいよ。情報部のフォックス君が社長に内緒で勝手に発行してる『ロスキーパーまる秘新聞』に載ってたんだ」

「はぁ? フォックスのやつそんなの出してんのか? っていうか、お前なんで知ってるんだよ」

「あのね、希紗ちゃんの愛読なんだー。見せてもらった!」

「……時々よぉ、俺や紫牙よりお前らの方がよっぽど仕事してねーように感じるんだが?」


 いつも遼平と澪斗のケンカの影に隠れているが、純也と希紗だって依頼が無い時は各自好きな事をやっている。純也なんか茶を淹れてるイメージしか無いが、実は机の引き出しの中には『折り紙三十色セット(金・銀色入り)』が常にしまわれているのだ。マトモに仕事しているのは真くらいだろう。


「気のせいだよ。……でさでさ、その新聞に毎回面白いムダ知識が書かれててさ〜」

「はっ、どーせくだらない事しか書いてないんだろ」


「大半はそうだけど……でもたまにスゴイ情報が紛れてるよ。『激突! 札幌支部VS那覇支部』とか『ロスキーパー美女美男子ランキング』とか。澪君なんか三年連続で上位にランクインだよ!」


「紫牙の野郎っ、いつのまに〜! って、『札幌VS那覇』とか今ヤバイの入ってなかったか?」


「すごかったよ〜、我慢比べ対決での一回戦のサウナでは札幌支部全滅だったけど、二回戦の雪生き埋めでは那覇支部全員凍結しちゃって。決着つかないから最後は三十人で大乱闘! 後にそれは『ロスキーパー南北合戦』と呼ばれ――」


「俺らって……マジで暇人だよな……」

 裏社会の中で一流と呼ばれながら、『変』と称されるのは社長の人格のせいだ。あの社長が次から次へと『スカウト』と称して変な人材ばかり拾ってくるからこうなるのだ。

 ……自分もその『スカウト』された『変の一員』である事に、遼平は上を向いて歩きたくなった。



「それで本元、風薙社長についてなんだけど。フォックス君の情報網でも一向に尻尾が掴めない、すごく謎な人物なんだ。本名すらわからない。表で権力があるらしいけど、どういう立場の人なのかさっぱり」

 肩をすくめて両腕を上げる純也を前に、ふと遼平は真剣な顔をする。

「……純也、あのジジイが何であれ、ただモンじゃないことは確かだ。知らねえ方がいい事もある」

「遼?」


 やっぱり何か知っているのだ、遼平は。《知らない》という事は寂しいけれど、それで幸せである事も事実なのだろう。

 《真実》を知るという事は、必ずしも良い結果を招くわけではない。それでも、《真実》を知りたいと純也は思う。《過去》を知っても、その人と変わらずにありたいと願う。真の事だってそうだ。



 だから、そのために、まだ真と変わらずにあるために、今出来るコトを。


 純也が取り出したのは、何故かフォックスから送られてきた十年前の《斬魔》事件の詳細情報が書かれた紙束。斬魔が殺害した全ての人間、そして関わった警察の者で……膨大な情報量だ。



「……? おい純也、この名前……」


 紙束に顔を覗き込んできた遼平が、警察官の名前を指差す。それは、《斬魔》事件を担当していた、一人の刑事――――。










 名を、『荒井 銀』。




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