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第三章『咎人の舞台』(1)

第三章『咎人の舞台』



「あんさん、何してるん?」


 自分に投げかけられた言葉だと気付いて、友里依は顔を上げた。すぐ目の前に立っていたのは、何かの制服のようなコートを着た金髪の男だった。

「……何よ、あんた」

「せやなァ……この街の平和を護る者?」

「は? 警察?」

「ちゃうちゃう。ワイはただの警備員」

 笑って首を振る自称『警備員』に、友里依は胡散臭いものを感じる。『ただの警備員』が、こんな路上にいるはずがない。ここは、一日中若者と犯罪の絶えない街なのだ。

「平和? 警備員? 頭おかしいんじゃない?」

「うわ、きっついなァ。ま、そう思われてもしゃーないか」

 金髪の男は、苦笑して頭を掻いた。そして友里依の前で屈んで、同じ目線で話し出す。

「ワイは今仕事で、この街の治安維持活動っちゅーのをやっとる。だから、路上におるあんさんら若者を家に帰さんといかんのよ」

「私は帰らないわよ」

「あちゃー、そう言うと思ったわ。一言で『はいそーですか』っていったらワイら必要無いもんなァ」

「わかったら早くどっか行ってよ。私、あんたなんかに構ってるほど暇じゃないの」

 立ち上がって、カバンを持ち上げる。この厄介そうな人間から離れようとした時。



「……援助交際、でっか?」



 止まった友里依に、大きなため息が聞こえる。図星だったのが少し悔しくて、振り返った。

「やめとき。後悔するだけやって」

「あんたに何がわかるのよ。所詮男なんてバカな生き物よ。それを利用して何が悪いっていうの? 私の勝手でしょ」

「気付かないんか? 利用されてんのはあんさんの方なんやで?」

 真面目な顔つきの男と目が合った。蔑んだ様子など微塵も無い、真摯な眼で。

「身体だけやない。知らない間に心もズタズタに傷ついていく。気付いた頃にはもう後戻りできなくなっとる。……薬と同じや」

「だから家に帰れって? 冗談じゃないわ、あんたの説教なんか聞きたくない」

「家に帰れとは言わへんよ。この街には家に帰られへん人間もぎょうさんおる。援助交際やって否定はせん。それもある意味商売やと思うからな。……せやけどな、あんさんみたいな未来ある人間が足突っ込んでいい世界やないんよ。下手をすれば裏社会と繋がってまう」

 むすっとした表情のまま、その男を睨み上げる。男は、臆せずに。

「帰らないまでも、他の街で普通に働けばエエ。……近くな、この街の不法一斉摘発を警察が行うんよ。このままココにいたら、捕まってまうで?」

「なんであんたがそんな事知ってんのよ」


「ワイの仕事は『街の平和を護ること』……というか、本当はあんさんみたいな『若者を救うこと』やねん。警察の手に渡る前に、この街から逃がそうってな」


「あんた、一体……?」

「ワイは、裏警備会社ロスキーパー中野区支部のモンや。つまり、裏社会の人間」

「裏社会!?」

 思わず後ずさってしまう。怪しい人物だとは思っていたが、まさか裏社会の人間だったとは。

「……せやなー、やっぱ怖いよなァ。あんさんよりよっぽどヤバイ仕事やし」

「っていうか、嘘でしょ? あんたみたいのが裏社会の人間?」

「それはほんまやで。表社会のやつらはワイらの事ちょっと誤解してるようやけど」

「誤解って?」

「ワイらかて、マトモな人間もおるって事。全部が全部ヤバイわけでも無いんよ?」

「ふーん……」

 半信半疑で頷いてみる。少なくとも、目の前のこの男はマトモそうでは無いが。でも、何故か危険な感じもしない。


 突然、小さな警報のような音がやかましく鳴る。金髪の男の端末の呼び出し音のようだ。「ちょっとすまん」と一言謝って、通信に出る。

「もしもしー?」

『真君〜、助けてよ〜っ』

「純也? どうしたん?」

『あのね、大変なんだっ、遼がっ』

「落ち着けって。遼平がどうかしたん? 初めから話してみぃ」

『えっと、僕達が若い男の人達に注意したらなんだか怒られて、いきなり殴りかかってきて……そしたら遼が一発でその人倒しちゃって、それで、一気に乱闘に……』

 少年の焦った顔の背後で、「わあぁっー!」と乱闘の声であろう騒音が聞こえる。テノールの「てめぇらまとめてかかってこいやぁーっ」という叫びと、その直後に若い男達の悲鳴が響く。少年が、泣き出しそうな顔で尋ねてきた。

『真君、僕どうすればいいのかなぁっ? 男の人達助けた方がいい? それとも――――うわあっ!?』

 ドタンッと画面が揺れて、少年が消えた。暗い路地と暴れる男達が映る。

「どうした純也っ」

『いきなり人が飛んできて……遼が蹴り飛ばしたみたい。あっ、なんか仲間呼ばれちゃったよ! これじゃあ、《護る》どころか被害者続出になっちゃう〜!!』

「わかった! 今すぐそっち行くから純也はじっとしてろ!」

『うん、真君早く来て〜!』

 端末を閉じ、男は方角を確認した。画面に一瞬映った歩道橋は、確か街の北にあったはず。

「すまん、なんか同僚がまずい状況っぽいから行かなきゃならへんわ。あんさんは、早くこの街から出て行くんやでっ」

「え、ちょっと!」

 金髪の警備員はコートを翻して走っていった。名前も言わずに。……いや、そういえば通信で名前を呼ばれていた。



「シン、ね……」


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