5、渇く心に降り注ぐ音
暗闇の中、音楽が鳴り響く。
餓え、渇いていた彼に降り注ぎ、吸い込まれていく。
ああ、これだ―――
エドワードは暗闇の中でやっと満足気に笑みを浮かべた。
求めて求めて、やっと手に入れた。
深い満足がエドワードを甘い陶酔に浸らせる。
身体を揺らす音の群れが心地よい。
流れる風があらゆる光景をエドワードに見せてくれる。
なんて幸せなんだろう―――
何一つない空間に、ただ音楽だけが鳴っている。
その贅沢にエドワードの身が歓喜で振えた。
もう、ずっとここにいたい―――
暗闇の中の切実な願望。
それは、決して叶わない願いだ。
わかっていながら、それでも願ってしまう。
願って、願って、願って。
唐突に音楽は鳴り止み、一筋の光が差した。
「くそっ!!」
エドワードは盛大な舌打ちをして、頭を抱えた。
朝の光が差しこんでいる。
爽やかな朝とは裏腹に、エドワードは絶望的な気分になっていた。
―5―
エドワードは買ってきたばかりのCDをじっと聴いていた。
予想通り、流れてくる音は不愉快で仕方ない。
雑音が気持ち悪く耳に纏わりつく度に眉間に皺が寄る。
それでも聴いていた。
聴かないわけにはいかなかった。
ある種の脅迫観念がエドワードを支配し、ただ音楽を聴かせていた。
広がりのない、軽薄な音が耳を汚す。
気分は最悪だ。
それでも、どこかしらエドワードは満足もしていた。
やっと聴けた――
仕事の間中、聴きたくて仕方がなかった。
たとえ聴きたい音とは違うとわかっていても、その願望は膨れ上がり破裂寸前だった。
乾ききった喉がやっと潤ったような気分になり、エドワードはうっすらと笑った。
けれど、それは一瞬の潤いにしか過ぎなかった。
不満な音楽であろうとも聴いてしまえば満足する。
しかし、そんなものは所詮まやかしだ。
さっきよりも更に渇えて、エドワードは眉間に深々と皺を刻んだ。
耳の奥で鳴り響く音は、まだある。
けれど、実際に耳にすることはできない。
ジレンマだった。
何度も何度もCDを聴いた。
聴き終わった瞬間は潤い、すぐに渇いて、また聴く。
何度も何度も、エドワードは繰り返した。
厭きもせず、繰り返し繰り返し、聴き続けた。
やがて深夜になり、朝が来て、昼を回ってまた夜が更け、気絶するように眠るまで。
延々とエドワードは聴いた。
鳴り響く音楽は、エドワードを侵食し、狂わせていく。
それを薄々エドワードも気づいていたが、それでもやめられない。
音楽は、意識を失ったエドワードの中でまだ鳴り響いていた。