ある家族のお話
色々書きたいことはありますがまぁあとがきで。
長時間馬車の中というのは退屈なものである。
「お父さん、あとどれ位でココ村に着くの?」
「そうだな、このペースならあと2日ってとこかな。」
荷馬車の側面の小窓から顔を出した女性の問い掛けに手綱を持ち御者台に座る男が答える。
男は50代半ばくらいだろうか、日焼けした肌でガッチリした体格をし腰に短剣を携えている。
「サラさんって明るくて可愛い娘さんですね。」
「手出したら許さんぞ…」
老人が横に座っていた青年をジロリと睨み言い放つ。
「いえいえ、まさか。」
青年が両手を上げ降参のポーズをとる。
こちらの青年はほっそりとしているが引き締まった身体をしており、皮の鎧と腰には長剣を携えている。
隣りの青年の発言で男の眉間の皺は増えたが、内心娘が明るく美しくなり段々母親に似てきたことを嬉しく思っていた。
妻を病気で亡くしたのが半年前、進行性の病気だったが発見が遅く治療薬もあるにはあったが高価過ぎたため妻を救うことはできなかった。
憧れていた冒険者になるといって故郷を飛び出したのが16の頃、一獲千金を夢見たオリバだったが夢破れ荷馬車の護衛のような仕事を細々とこなしながら過ごし、その経験を生かして商人の真似事を始めたのが20の頃だった。
ある時立ち寄った村の道具屋で知り合ったのが妻のクレアだ。
青いの瞳に金色の長い髪、スラリとした体型に目鼻立ちのクッキリした綺麗な顔だち、オリバの一目惚れだった。
丁度その頃行商の仕事の方に本腰を入れようかと考えていたオリバにとって、クレアとの出会いは自分のこれからの生き方を後押しする一つのポイントとなる。
少しづつ貯めていたお金を使い荷馬車を購入し、クレアの村を中心に隣り村などに日用品や特産品を売り歩く商売を始めた。
自分も元冒険者として護衛は極力雇わず人件費を浮かせながら行商を続け、なんとか生活できるくらいには軌道に乗せることが出来るようになった。
それもこれもひとえに、クレアと会うのが楽しみで頑張ってこれたというのが本音であろう。
最初はオリバに対して恋愛感情なんてものは抱いていなかったクレアだったが、顔を合わせて言葉を交わしていくうちに段々と惹かれていった。
出会ってから2年後、2人は結ばれ、翌々年女の子がこの世に生を受ける。
2人は娘に慈愛の女神サラシリスの加護があるようにと名前の一部を貰い、サラと名付けた。
母親の青い瞳と金色の髪を受け継いだサラはすくすくと育ち、16の頃には村でも評判の美人になっていた。
子供を養うためには行商の収入だけでは足りず、両親を早くに亡くし一人で店を切り盛りしていたクレアには今まで通り店を続けてもらい、オリバも行商を続けていた。
行く場所によっては会えない日が何日も続き2人共に寂しい気持ちもあったが、娘のためだと思うとお互い愚痴の一つも出てこなかった。
村でも仲の良い家族と評判だった3人を襲った悲劇は、何かの間違いだったのかもしれない。
サラも成長し店の手伝いをしていたある日、クレアが倒れた。
サラのためと思い愚痴も言わずオリバと頑張ってきたがそれがいけなかったのかもしれない、ここ数ヶ月体長は良くはなかったが疲れのせいだろうと思い誰にも言わずに店を切り盛りしてきた。
倒れたあとその症状は急速に現れ、美しかった肌は日に日に青白くなり顔から生気がなくなっていく。
オリバが知らせを聞いて急いで帰ってきた頃にはクレアは一人でベッドから起き上がることも出来ない状態になっており、あの美しかった妻の笑顔もなくなっていた。
「早かったわね…もう帰ってきたの…」
オリバの慌てた顔を見て弱々しく微笑み、気丈に振る舞っていたが誰が見てもクレアの状態は芳しくなかった。
色々手配し医者に見せたりもしたが病はかなり進行してしまっており助かる見込みは少ないと言われた。
最後の希望だった治療薬も娘を養うので精一杯だったオリバ達にとって、その高額な料金を払うお金などどこにもなくただ、もういいのよと呟くクレアの手をただ握り締めてあげることしかできなかった。
クレアを救うためならオリバは命も惜しくなかった、ただオリバの命を秤に掛けたとしても、その天秤が傾くことはなかった。
1ヶ月後何も出来ないままクレアは亡くなった。
何も出来なかった自分を恥じ、それから逃げるようにオリバは酒に溺れていった。
クレアが切り盛りしていた道具屋もサラが代わりに頑張っていたが経験不足は否めなく経営が立ち行かなくなり廃業してしまう。
それでもサラは父さんの分まで頑張る、と近所の料理屋に働きに出ていた。
ただ、心にぽっかり穴の空いたオリバに娘の想いは伝わらず締切った部屋の奥で酒を飲む日々が続いていた。
そんなある日、いつものように昼夜関係なく酒を飲んでいたオリバは、寝室に置いてあった小さな木箱の中から一通の封筒を見つける。
それは遠く離れて会えない時お互いに手紙を書いて送るときに使っていた封筒だった。
震える手で封筒を千切り開けると中に一通の手紙が入っていた。
そこには歪んだ文字で一言、娘を頼みます。と書かれていた。
ーウォォォォォー
オリバは手紙を握り締め走り出していた。
途中フラつき体を壁や扉などにぶつけながらも走り続ける。
家から飛び出し少し行った所で仕事から帰宅途中だったサラと遭遇した。
最初は何か叫び声が聞こえると思っていたサラだったが、こちらに向かって走ってくる父親を見て驚いた。
「どうしたのおとうさ、キャッ」
「すまん!サラすまんかった!俺が…俺が…」
サラの言葉も終わらぬうちにオリバにきつく抱き締められた。
オリバの顔は涙や鼻水でグシャグシャになっている。
サラは訳が分からず困ったが泣きじゃくる父親をそっと優しく抱き締め返した。
数分経ち辺りも暗くなってきたのでとりあえず家に帰ろうということになり、オリバを連れて帰ったサラだったが家に帰ったあと手紙を見せられ少し涙が出た。
優しかったお母さんが亡くなったことは、サラにとってもショックだった。
ただそれ以上に、会いたくても会えなかった父のほうが悲しいと思っていた。
なのでサラは父の分まで頑張らなければいけないと思っていたが、そんな風に思ってしまうサラが自分みたいにならないか、自分が死んだ後のオリバの事を心配してのクレアの一言だったのかもしれない。
その一言で全て分かってしまったオリバはサラの元へ走らずにはいられなかったのだ。
立ち直ったオリバはもう一度行商一本からやり直そうと決意する。
サラとも話し合い家を売り、家族2人で旅をしながら物を売り歩くことに決めた。
旅に出て半年が経ち幾つかの村や街で商売し時間が過ぎた頃、ある人達と出会った。
村の食堂でオリバとサラの2人は夕食をとり次の目的地について話していた時、隣りのテーブルに座っていた男がオリバに話し掛けてきた。
「すいません、チョットいいですか?」
オリバがそちらに目線を向ける。
年の頃は17くらいだろうか?まだ幼さの残る青年がオリバに向かって笑顔を向けている。
「なにかようか?」
「いえ、たまたま話し声が聞こえてきたもので…もしかしてアビ村に行く予定ですか?」
「ふん、盗み聞きとはな」
「チョットお父さんっ、すいません父が…」
サラが慌てて謝る。
「いえこちらもそう言われても仕方がないので、アビ村に行くなら私を雇いませんか?」
「護衛ということですか?えっと…」
「あぁ失礼、私はアッシュといいます、フリーの冒険者をやってます。」
「アッシュさん…冒険者の方なんですね、えっと…どうしましょ?」
アッシュとサラがオリバに視線を送る。
「まぁ確かに護衛は雇うつもりだったが…お主一人か?」
「はい、今は一人でやっています。」
オリバは一人で行商をやっていた頃は極力護衛は付けずにいたが、サラと2人旅になってからは必ず護衛を雇うようにしていた。
自分一人の身ならどうにか出来る自信はあったが、娘を守りながらとなると不安があったからだ。
クレアを亡くしてサラまで失ってしまったら…という不安が一番大きいかもしれない。
「で、幾らだ?」
オリバがぶっきらぼうに言い放つ。
「アビ村まで大体4日なので銀貨2枚でどうでしょうか?」
「飯込みだろうな?あと荷馬車は扱えるのか?」
「込みでOKです、荷馬車も扱えます。」
オリバとアッシュの視線がぶつかる。
「明日の朝7時、村の入り口に集合だ遅れるなよ。」
「分かりました、よろしくお願いします。」
アッシュがお辞儀するとフンっと鼻を鳴らしオリバが酒を飲む。
離れたテーブルに帰っていくアッシュにサラが手を振っている。
そんなサラを横目で見ながらオリバは肉にナイフを突き立てるのであった。
まさかの投稿!あいつ途中で消えやがったなと思った方もいたでしょう。
用事など色々ありましたがこれからは不定期になりますが続きを書いていくつもりです。
いまだにお気に入り登録してくれている方々有り難いですm(__)m
私自身、自分の好きな小説が続きの一生描かれない物語なんていうのは本当読み手として悲しいと思ってるので(私の小説を好きといってもらえるかは別の話しですが…)これからも書いていきます。
今回は感情移入しやすいよう次回の登場人物を掘り下げてみました。
お金の単位や冒険者についてなど必要な場合以外で詳細に語るつもりはありません、また人物の風貌についてもザックリしか説明しません、なるべくゴブリンと同じ視点で読んでほしいと思っています。
あとは各々妄想してください。
続きはもう少しお待ちを!
最後に!
感想書いてくれた方々ありがとうございます(。・ω・。)ノ