第6話 灯る恋と小さなブーケ 2
読んでくださり、ありがとうございます。
2週間くらいは毎日更新を!と思っているのですが……が、頑張ります。
「ねぇ、見て! アルフィー! お兄さまがくださった収集袋にすべて完璧に入っていたわ! 鉢植えもたくさんだし、花も綺麗でしょう」
兄を見送った後、エイミーは庭で植物の点検をし始めた。けして広くはない新たな家だが、そのぶん裏庭が広く取られている。
エイミーが自由に木々や花々を植え、育てることを考慮してのことだろう。なんだかんだと言いつつ、やはり兄のエドワードはエイミーに甘いのだ。
「えぇ、お嬢様が手入れなさった植物はどれもいきいきとしておりますね」
庭に植え替える予定の鉢など、大量の植物がある。屋敷で育てていたほぼ全ての植物を持ち出せたのは収集袋の効果が大きい。
エイミーの手元にある小さな収集袋は、その見た目以上になかなかに高価なものであろう。アルフィーは先程のエドワードの言葉を思い出す。
「ふふふ。きっと皆、気に入ってくれるわよね!」
「えぇ、そうですね。花屋開店の際まで町の人々にもそれを知ってもらうため……」
「違うわ、アルフィー!」
人差し指をびしっと立て、なにやらポーズを決めたエイミーがにやりと笑う。
先程、見たエドワードの表情とは違い、いたずらを思いついた子どものような笑みである。
近くで犬のルディと遊んでいたルークも、姉の様子に気付いたのかこちらへと駆け寄ってくる。
「姉さま! 今度は何をして遊ぶのですか?」
「違うわ、ルーク。これは遊びじゃなく、大事な風習なのよ」
「ふうしゅう?」
難しい言葉を理解出来なかったのか、きょとんとした表情でルークは小首を傾げる。隣で犬のルディも同じように首を傾げ、なんとも可愛らしい光景である。
エイミーもそう思ったのか、二人の頭をわしゃわしゃと撫でて頷く。
「そうよ! 日本の古き風習、引っ越しのご挨拶よ!」
「ごあいさつ! ぼく、出来ます!」
「わふっ! わふっ!」
楽し気なところに水を差すようで、アルフィーはためらうが、それは彼の仕事である。それも町の要職に就く者にだけするつもりであったものだ。
小さな町の市井の人々に、わざわざエイミー達が挨拶をする必要などない。
「お嬢様、ルーク様……」
「さぁ、ご挨拶の準備をしましょう!」
張り切るエイミー達にアルフィーの言葉は意味を持たない。
「あーあ。こうなったらもうダメだな」
「……クロウ。君からもなんとか言ってくれ」
「無理だな、止められる自信がねぇ。それにお前さんや俺みてぇのは嫌う奴が多いからよ。あいつらに任せてもいいだろ」
楽しい遊びを見つけた姉弟のいつもの行動力に、ため息を溢しそうになるアルフィー。だが、鳥のクロウの言葉にその考えも変わる。
これからスタンリー家は町の人々との関係を構築せねばならない。
その際に、まず会う人物が不吉の象徴である黒をまとう者ではない方がいい。
「――そうだな、君の言う通りだ」
先程とは異なる意味で、ため息が出るアルフィーであった。
花を一輪ずつ切ったエイミーは、それをまとめてカゴに入れる。
自分で持っていくと言うエイミーを説得して、なんとか自分が持つことに成功したアルフィーは手を繋ぎ歩く姉弟の後ろについていく。
愛らしい姉弟と大型犬、そして不吉な黒髪黒目の使用人を皆がどのように受け止めるかと不安を抱きながらアルフィーは歩く。
「引っ越しそばってなんですか? 姉さま」
「日本の風習でね、引っ越したときにおそばを作って、ご近所さんに振舞うのよ。でも、最近はあまりしなくなってきたみたい。安全上の問題もあるからね」
「ふぅん、そうなんだ。おそばはよくわからないけど、お花はみんな喜んでいましたね!」
そう、ルークの言葉通り、姉妹の訪問は街の人々に一応受け入れられた。
突然、訪れて花を一輪差し出しつつ、引っ越しの挨拶をするエイミーとその弟ルーク、後ろにはもふもふとした大型犬。
上質な服に身をまとうエイミーとルークは、一目でそれなりの家の出だということが街の皆にはわかったのだろう。後ろに控える黒髪黒目のアルフィーを恐れつつも、笑顔を浮かべる姉弟の花を受け取ってはくれたのだ。
十数件の家を周り、軽い挨拶と今後花屋をすることなどを伝えてきた。それが良いのか悪いかも判断に悩むアルフィーだが、二人と一匹はご機嫌に歩き続ける。
「姉さま、次はこのおうちですね」
「えぇ、ごめんください。ちょっとお時間よろしいでしょうかー?」
そっとドアが開き、日に焼けた肌をした少年が顔を出す。
突然の来訪者に驚いたのか、目を見開く少年に、エイミーはにこやかに微笑む。
「あ、あたし達は先日、この町に引っ越してきた者です。あたしはエイミー、エイミー・スタンリーと申します。こちらは弟のルークです。不慣れなことも多く、ご迷惑をおかけするかと思います。どうぞよろしくお願いいたしますね」
「……えっと、こちらこそよろしくお願いします?」
エイミーの勢いに押されたのか、少年の言葉はなぜか疑問形だ。
だが、その反応も無理はない。質の良い衣服に身をまとう姉弟が突然、自分たちから挨拶に来たのだから。訪ねた他の者達も皆、同じような反応を示した。
咄嗟のことでも敬語を話せただけ、上出来であろう。
そのことに気付いていないエイミーは笑顔を浮かべたまま、少年に花を一輪差し出す。
「実はあたしはこれから花屋をこの街で開きたいと思っているんです」
「…………花屋? この町で?」
エイミーの言葉に少年の表情が変わる。それに気付いたのはアルフィーだけである。
「はい! いろんな花や植物を皆さんに知ってほしいなと思ってるんですよ」
「そ、そうか……。それで値段っていうのはどれくらいなんだ?」
「……あ」
「お嬢さ、あ。……決めてらっしゃらないのですね?」
自分の能力を活かし、花々や植物を育てて販売していく。そのビジョンだけでエイミーは突き進もうとしているが、一般的にはどのくらいの金額が良いのか見当もつかない。
そもそも、この街で販売するならどのような花がいいか。花の需要がそもそもあるのかなど、まだまだ未知数である。
苗などの費用こそ、エイミーの能力で生み出せるためかからないのだが、人件費やコストなど考えるべきことは山ほどあるのだ。
先程まで上機嫌であったエイミーの表情がどんどん暗くなる中、少年は真剣な表情で彼女に話しかける。
「その……、野菜とか物々交換でもいいのか?」
「それ! それがいいですね! うんうん、あたし達まだこの町に来て間もないし、当面の間はそれで行きましょう! 物々交換、いい! 採用します!」
出会ったばかりの少年の一言で、エイミーの表情がぱっと明るくなる。
そう、スタンリー家は財産を失って懐は心もとない。今、一番必要なのが食料なのだ。それを花や植物、野菜の苗などと交換することで日々の生活は確実に潤うはずだ。
「良いご意見をありがとう! これからもよろしくね!」
「あ、え、これ貰っていいのか? ちょ……ちょっと、おい!」
参考になる意見を貰えたエイミーは嬉しそうに歩き出し、こちらを振り向いた少年は小さな手を振って笑う。その後ろを楽し気に歩く犬、不吉な黒髪黒目の男。
かなり風変わりな訪問者に動揺しつつ、少年は手渡された愛らしい花を持ち、彼らの後姿を見送るのだった。
翌日、スタンリー家にはカゴ一杯の野菜を持った少年が訪ねてきた。
昨日の少年マイケルである。
「あの……! 花を贈りたい人がいて、これで協力してくれないか?」
頬を赤くしつつ、頭を下げる少年の姿にエイミーは笑顔でその依頼を引き受けるのだった。




