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看板娘の花言葉 ~緑の乙女は家族とのんびり暮らしたい~  作者: 芽生 1/15『裏庭のドア』3巻・コミックス1巻発売!


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第16話 華やかな孤独 5

もう少しで3月になりますね。

3月の更新は週2にしようと思っています。

どうぞよろしくお願いします。


 爽やかな風が吹く庭でエイミーはにこやかに微笑む。

 招かれた少女ブリジットはメイドに日傘をさされたまま、表情が硬い。

 近くに控えたアルフィーはもちろん、木の枝にとまったクロウも警戒を怠ることはない。

 少女一人とはいえ、先日の鋭い視線を二人は忘れてはいないのだ。


「お嬢さま、お客様をお連れいたしました」

 

 そう言ったのはベルとコリンの母、クレアである。

 クレアはかつて、王都で貴族の家で働いていたという。スタンリー家としても彼女は最適な人材なのだ。


「ブリジットさま、はじめまして。エイミー、エイミー・スタンリーと申します」


 そう言って微笑むエイミーだが、びくりと肩を揺らしたブリジットは眉間に皺を寄せる。


「――ブリジットと申します。ごきげんよう、エイミーさま。本日、お招きいただきありがとうございます」


 ブリジットの言葉は丁寧ではあるのだが、その表情は

 アルフィーとクロウの警戒が深まるが、エイミーは気にした様子もなく、ブリジットに話しかける。


「ブリジットさまへお渡しするお花は、お会いしてから選ぼうと思っていたんです。ブリジットさまの雰囲気に合うお花がいいと思いまして」

「……私の雰囲気」


 赤い緩やかなウエーブを持つブリジットの髪が、風に吹かれてなびく。

 緑色の瞳はエイミーよりも淡くペリトッドのような色合いだ。

 エイミーの言葉が予想外だったのだろう。ブリジットの表情からは驚きが見える。

 

「そうですね……」


 そう言いつつ、エイミーの視線にブリジットは少し居心地悪そうにぎゅっと自身の服の袖を握る。

 無意識であろうその仕草は彼女の戸惑いを示すようだ。


「うん! 決めました。少しお待ちいただけますか?」


 既にいくつかの桶に花が入れられている。花屋で販売するものを庭へと持ってきていたのだ。いくつかの花々の中から、エイミーが選んだのは大輪を咲かせる華やかなものだ。


「ボタン、といいます。他国に咲く花で優雅でこのように大輪の花を咲かせるんです。風格もあって、とても美しいですよね」


 そう言って微笑むエイミーだが、ブリジットの表情は固まる。

 なにか不都合があったかと心配そうにブリジットを見つめるエイミーの耳に届いたのは震えるような小さな声だ。


「エイミーさまは私に似合う花がそちらだとお思いになるのですか……?」


 その言葉にエイミーはぱっと表情を明るくする。


「えぇ、ボタンのこの赤い花が風に揺れる様子。ブリジットさまの赤く美しい髪が風になびくのととてもよく似ていると思うんです。――どうでしょう? お気に召しましたか?」


 先程とは違う意味でエイミーはブリジットを気にかける。

 彼女に似合う花をとブリジットの父に伝え、呼び出してもらったはいいが、花を気に入ってもらえるかは不明なのだ。

 アルフィーとクロウは、彼女が鋭い視線でエイミーを見つめていたという。

 その理由もまだエイミーには不明だ。


「……とても、とても嬉しく思います。そのように言っていただけることなんて、今までなかったから」

「そうなんですか? 赤く艶やかな髪も、凛とした表情もとても素敵ですから、子の花、ボタンが真っ先に浮かんだんです」


 今回、エイミーはいくつかの花を用意しておいたが、始めからブリジットにはボタンがいいと直感的に思っていた。

 先日、見かけたブリジットの印象から選んだものだが、やはり間違えはなかったと彼女と対面したエイミーは微笑む。

 ブリジットはというと、エイミーの言葉にぎゅっと唇を噛みしめ、微笑みが瞳からは涙が今にも零れ落ちそうだ。


「ありがとうございます、エイミーさま。また、あなたの言葉に救われました」


 ブリジットの言葉にエイミーは一瞬、驚くが笑みを浮かべる。

 自分が選んだ花を喜んでもらえる――それはエイミーとしても喜ばしいことなのだ。

 桶に入っていたボタンを一輪、取りだしたエイミーは水気をハンカチで拭い、そっとブリジットに差し出す。

 静かに手を伸ばしたブリジットはボタンを受け取るとその花に見入る。

 

「――この花のように生きられるように、そう思います」


 そう微笑んだブリジットの表情は柔らかくも凛としたものだ。

 自らが選んだ花、ボタンはやはり彼女によく似合うとエイミーは微笑みを返すのだった。


 


「ブリジットさまに喜んで頂けてよかったわ! うん、花屋としてお客さまのお好み見抜く力が養われてきている気がする……!」


 ボタンの花はブーケにしてブリジットに持たせた。

 この家に訪れたときとは、まったく異なる柔らかな表情で帰っていたブリジットを思い出し、エイミーは得意げだ。


「……おい、エイミー。お前は本当に覚えていないんだな?」

「なんのこと?」


 クロウが訝しげに尋ねるが、エイミーは不思議そうに首を傾げる。

 お茶を飲みつつ、答えるエイミーの側に控えるアルフィーもクロウと同じように疑問を抱いているようだ。


「ブリジットっていうあのお嬢ちゃんだよ。何度か王城で見かけたことがあったが……どうやら向こうもお前さんを覚えている口ぶりだったぞ。なにか覚えていることはないのか?」


 そう、ブリジットととの先程の会話でアルフィーもクロウも気になったことがある。それはどうもブリジットの中にはエイミーと接した記憶が強く残っているようなのだ。

 また、あなたの言葉に救われた――ブリジットの言葉は以前にもエイミーとなにかあったことを感じさせるものだ。


「……でもさ、クロウ。あたし、あんまり他の令嬢の方とは関わっていなかったじゃない? なんていうか……浮いてた気がするんだよね」

「それは気のせいじゃねぇな。まぁ、正確にいうなら、かなり浮いていただな」


 アルフィーの眉間には深い皺が寄る。

 『緑の乙女』候補の令嬢は貴族、そして教会育ちの者に分かれる。

 身分の高い者か、教会で聖女候補として教育を受けた者しかいない中、商家の少女がいるのだ。ある意味でかなり目立っていたことだろう。

 おまけに緑色の瞳は植物魔法に長けている証でもあるのだ。


「じゃあ、そんなあたしをブリジットさまは覚えていてくれたってことなのかな?」

「いや、いや、このあいだは鋭い眼光でお前を見てたんだって! なぁ、アルフィー!」


 クロウの言葉にアルフィーも同意するように頷いた。


「えぇ、クロウの言うとおりです。ですが、たとえお嬢さまが覚えていらっしゃらずとも、あちらになにか強い印象を残している可能性もあります。今後とも用心なさらねばなりませんよ」

「……そうね。気をつけるわ」


 少ししゅんとした様子のエイミーに、近くでルディと遊んでいた弟のルークが話題を変えるかのように尋ねる。


「そういえば、あのボタンという花の花言葉ってなんですか?」

「お、そうだな。あのお嬢ちゃんも花は気に入っていたけど、いつもの花言葉ってのは聞いてねぇな」


 そう、今回エイミーはブリジットにボタンの花の花言葉を伝えていない。

 いつもは必ず伝える花言葉、それを伝えなかった理由をルークだけではなく、アルフィーやクロウも気になってはいたのだ。

 二人と一羽の視線に気付いたエイミーは少し微笑んで理由を口にする。


「ボタンの花言葉は風格、高貴よ」

「あー、そりゃあのお嬢ちゃんに似合うな。なんつうか、こう存在感っていうか目立つ雰囲気だったもんなぁ」


 豊かな赤い髪にペリドットのような瞳、整った顔立ちだが同時に近寄りがたさも感じるブリジットは猫のようでもある。

 アルフィーとクロウが彼女の視線を鋭いと感じた理由の一つがそれだ。

 しかし、エイミーはそんなクロウの反応にまだなにか隠しているような笑みを溢す。


「それと、人見知り」

「……お嬢さまはそう感じられたのですか?」


 アルフィーの問いかけにエイミーは頷く。

 気の強そうな容姿をしたブリジット、しかし、その視線や仕草からエイミーは彼女の本質は違うのではと感じたのだ。

 

「本当に彼女がどんな人なのかは、これから知っていけばいいと思うしね」

「わふっ!」


 それまで寛いでいた犬のルディが同意するように鳴く。

 暢気なルディにルークもエイミーもくすくすと笑い、呆れたようにクロウは軽く睨む。アルフィーは人の好いスタンリー家の人々を守らねばと内心で思うのだった。




 自室に飾った赤いボタンの花を帰宅してから、何度となくブリジットは見つめている。赤い大輪を咲かせるボタンは優雅であり、凛とした美しさがある。

 そんなボタンがブリジットに似合う花だとエイミーが言ってくれたのだ。


「――ねぇ、マリー。あなたに聞きたいことがあるんだけど」


 初めて名を呼ばれたメイドのマリーははっとする。

 この屋敷に来てからブリジットに名を呼ばれたのは初めてなのだ。

 

「どうぞ、なんなりとお尋ねください」


 マリーの言葉を聞いたブリジットは鏡越しにメイドを見つめる。

 鏡に映るブリジットの赤い髪はゆるやかにウェーブし、華やかだ。

 チェストの上に飾られた赤いボタンと似た美しい少女はマリーの言葉に微笑む。

 今まで見たことがないブリジットの笑みに、マリーは安堵する想いだ。


「私とエイミーさまはお友達になれると思う?」


 気品に満ちたブリジットから出たのは可愛らしい質問だ。


「えぇ、きっと。これから少しずつお互いを知っていけば良い関係を築けるかと思います」

 

 マリーの言葉に安心したようにブリジットは微笑む。

 令嬢として十分な風格を持ち、高貴な印象を与えるブリジットだが、育ってきた環境もあり、人と関わるのに苦手意識が強くある。

 そんな彼女にとって、エイミーは特別な少女なのだ。


「――そうね。そうなれるといいのだけれど」


 飾られた赤いボタンのように高貴な印象を与える少女ブリジットは、どこか不安そうにそう呟くのだった。

 

 

 


読んでくださり、ありがとうございます。

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