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看板娘の花言葉 ~緑の乙女は家族とのんびり暮らしたい~  作者: 芽生 1/15『裏庭のドア』3巻・コミックス1巻発売!


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第10話 母の想い、子の想い 2

読んでくださり、ありがとうございます。



 父ジョセフの許可はすんなり下りた。

 母を思う姉弟の気持ちを考慮したためである。ただし、あくまで一時的なサポートであり、難しいことを行わせないという条件付きだ。

 その回答にエイミーもルークも喜びを隠せない様子だが、むしろ自分のすることが増えたのではないかとアルフィーは思い始めている。


「よかったじゃない。アルフィーもお母様の心配をする必要がなくなったでしょう?」

「そ、それはそうなのですが……」


 エイミーの母グレースは家のことをし始めたのだが、あまりに不慣れで却ってアルフィーの仕事は増えていた。心配で目が離せず、他の仕事に支障が出るため、アルフィーも頭を悩ませていたのだ。

 そこに現れたのが姉弟であるベルとコリンだ。


「お父様を失くされて、お母様お一人で働いているそうよ。お母様にお花を贈りたい――そんな二人の気持ちに感銘を受けたウチのお母様は、もうすっかり二人を可愛がっているわ」

「……そうですね。お嬢様が正しかった、ということにしておきましょう」

「そうよ、あたしとそして優しいルークの心が正しかったのよ!」


 姉であるベルがエイミーの母と共に家事をこなし、その補助を弟のコリンが行う――という形なのだが、ほぼベルが一人でこなしている。

 コリンはベルを手伝いつつ、グレースとにこやかに会話を交わす。

 ときおり、手を出そうとするグレースをベルが止めるため、以前より格段にアルフィーの仕事は減っているのだ。


「そのうえ、手の空いた時間はルークと一緒に遊んでくれているのよ! お友達が……! ルークにお友達ができたのよ‼」


 うきうきと浮かれた様子で歩くエイミーに少々呆れるアルフィーだが、たしかに彼女の判断は正しいものであったと思っている。

 ベルとコリンは出会ったときの想像以上に、上手くこの家の人々に溶けこんでいる。ルークやグレースとの関係も良好で、二人の笑顔も増えているのだ。


「それに……なんだか二人を見てると昔のことを思い出しちゃうのよね」


 前世で彼女はベル達と似た状況にあった。

 母の帰りを待ちつつ、毎日夕食を作ったものだ。

 日に焼けた母は快活に笑う。その笑顔を待つ時間は決して苦ではなかった。

 片付けをしたり、母の日々は小遣いを貯めて花を贈った。

 仕事が忙しい母がテーブルの上に残すメモとイラスト、たしかな幸せがそこにはあったのだ。

 しかし、この世界では福祉が充実していない。

 ベルやコリン、まだ会ったことのないその母の苦労も多いことだろうとエイミーは胸を痛めるのだった。



「そこまでおめぇが肩入れする必要はねぇんじゃねぇか?」


 夜、自室で寝る支度をするエイミーにクロウがぼやくように言う。

 ブラシで髪を整えていたエイミーがむっと口を尖らせた。


「だって、ほうっておけないし! なにより、ルークにお友達が出来たのよ!」

「おめぇ、そればっかりじゃねぇか! いいか? おめぇは他のやつと少しばかり違ぇんだぞ? もう少しおとなしくしとけねぇのかよ!」


 バサバサと羽をはばたかせ、力説するクロウをじっとエイミーは見つめる。


「……意外と堅実な道を選ぶわよね、クロウ」

「うるせぇ! お前からもなんとか言え! おい、ルディ!」

「わふぅ……」


 先にベッドに潜り込んだルディはもう半分夢の中にいるらしい。

 特殊な力を持つとクロウが言うルディだが、エイミーからすると犬でしかない。

 前世の記憶の中に、小さい頃に図書室で読み込んだ犬の本がある。そのなかで紹介されていた犬にルディはよく似ている。


「あぁ、あれだ。オールド・イングリッシュ・シープドッグ!」

「なんだそりゃ? 呪文かなんかか?」

「ううん、ルディの犬種。牧羊犬で聡明なんだって!」

「……こいつがか?」


 耳をすませば、ぐぅぐぅといびきが聞こえる。ルディからである。

 クロウの言葉にぐっと言葉につまったエイミーだが、話がそれていることに気付く。エイミーがあの姉弟を気にかけるにはそれなりに理由があるのだ。

 

「あたしには、前世の記憶があるでしょ? そのときはお母さんと二人っきりで過ごしてた。二人で助け合ってたけど、気付かないうちに周りの人や国の制度が助けてくれてたんだよ」

「…………おぅ」

「でもさ、あの子達にはそういうのがない。あたしにできることがあるなら、してもいいんじゃないかな」

「…………」


 エイミーの言葉にクロウはなんと言っていいのか迷う。

 甘いといえば甘い彼女の優しさに、クロウもまた救われた一人、いや一羽なのだ。エイミーの考えを知ったクロウは深いため息を溢す。

 そんなクロウの様子を心配そうにエイミーがのぞき込んだ。

 

「大丈夫! ありがとね、クロウ」

「なんだよ! 俺はなんにも言ってねぇぞ!」

「いやいや、わかってるって! クロウは心配性なんだよね」


 そう言って笑うエイミーにむっとしたクロウは抗議する。


「ちげぇよ! 俺はな、苦労性なんだよ。おめぇといるからいろんな厄介事にまきこまれんだろ! こら、聞いてんのか!」

「わふっ! わふっ!」

「うるせぇ、ルディ! ……なんか、必死に脚動かしてんな」


 夢を見るルディはわふわふと吠えながら、脚をバタバタと動かす。

 なんとも必死なその姿だが、エイミーとクロウからするとユーモラスに見えてしまう。

 顔を見合わせ、笑った二人はそのまましばらく昔話に花を咲かせるのだった。

 


*****


 新居の納屋を利用して、エイミーは苗や道具の管理をしている。

 兄のエドワードに貰った収納袋にも大量の苗や種が入っているのだが、魔道具を持っていることは家族以外の者に見せないようにとアルフィーに注意を受けたのだ。

 今日も手や服を汚して、植物の管理をするエイミーに、アルフィーが内心呆れつつ声をかける。


「お嬢様、お客様がいらっしゃいました」

「あ! いらっしゃいませ。ベルとコリンのお母様ですね」


 泥だらけの手で汗を拭ったエイミーの頬には、当然泥がつく。

 慌てて、アルフィーが白いハンカチでそっと綺麗に整える。


「あ、あの……! 娘と息子がお世話になっております。母のクレアです……!」

 

 そう言って頭を下げる女性の後ろに、ベルとコリンが緊張ぎみに立っている。

 母のクレアもまたそれ以上に緊張しているのだろう。

 そんな三人の姿にエイミーは嬉しそうににこりと笑う。


「お待ちしていました。このような服装で失礼します」

「い、いえ……」


 エイミーの今日の服装は白いフリルのブラウスに、パンツという乗馬服にも似たものだ。土を触るのに白というのはどうかとエイミー自身は思っているのだが、つい先日までは商家の娘であったため、このような服装しか持っていないのだ。

 

「ルークがお子さん達との約束の品を用意していたんです」


 そう言ったエイミーの視線の先には少し恥じらった様子のルークがいる。

 その腕の中には可愛らしい花束が抱えられていた。

 大きな花束ではないのだが、しっかりと抱え、ルークはコリンに手渡した。

 

「はい。これ、頑張ったベルとコリンに」

「い、いいの?」

「もちろん。だって、約束したでしょう? ねぇ、お姉さま」


 同意を求めるルークに、エイミーも微笑んで頷く。


「えぇ、そうよね。それに先に約束を守ってくれたのはベルとコリンでしょう?」


 そう、この花束はベルとコリンが約束を守り、スタンリー家で働いてくれたお礼でもあるのだ。

 姉弟の母クレアはまだ困惑した表情だが、ベルとコリンの表情はぱっと明るいもへと変わる。

 

「ありがとうございます!」

「ありがとうございます……! よかったね、コリン」

「うん、すっごく綺麗! 花がフリルっていうのみたいだね!」


 コリンの腕の中の花束は赤とピンクの花を使ったものだ。

 赤とピンクのフリルのような花弁を持つ花、そうカーネーションである。

 花束を受け取ったコリンは、姉のベルと視線を交わすとその花束を持って母のクレアの前に立つ。

 

「はい。お母さん! これ、姉ちゃんと俺から……!」


 はにかんだ表情のコリンの後ろでベルも嬉しそうに笑う。

 そんな姉妹を見るエイミーやルークはもちろん、アルフィーの眼差しもどこか優しいものだ。


「どうぞ、受け取ってあげてください」


 エイミーの言葉に促され、まだどこか不安そうなクレアだが、息子の花束にそっと手を伸ばす。


「……ありがとう、コリン。ありがとう、ベル。とっても綺麗なお花ね。こんな素敵なお花、お母さん初めてよ」

「ふふ、本当?」

「よかったね、コリン」


 母のクレアは花束をそっと抱きしめつつ、ベルとコリンのことも抱き寄せる。

 ベルとコリンも照れくさそうな表情だが、その口元は緩み、幸福そうである。

 穏やかな母子のひとときに、エイミーもまた微笑むのだった。


 

 

 

 

オールド・イングリッシュ・シープドッグ

もふもふした大型犬です。

クロウはカラスのイメージです(そのまんまですね)。

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