後日談
王都アルディアは、今日も平和だった。
平和すぎて、うるさい。
「だから! それは“配信映え”しないって言ってるでしょ!」
「いや、するだろ。猫耳は正義だ」
「騎士団長が猫耳つける世界がどこにあるのよ!」
通りの真ん中で言い争っている二人組を見て、
市民たちは目を逸らした。
見慣れた光景だからだ。
灰原カナト。
そして――エイリン。
世界を救った英雄と、元騎士団のエース。
今はというと。
「ほら、これ持って」
エイリンが、買い物袋を無理やり押し付ける。
「なんで俺が荷物持ちなんだよ」
「維持神(仮)でしょ?」
「そのいじり方やめろ」
二人は、並んで歩く。
剣も、鎧もない。
あるのは、夕飯の材料と、どうでもいい口論だけ。
「……なあ」
ふと、カナトが言う。
「怖くないのか?」
「何が?」
「俺」
エイリンは、一瞬だけ足を止める。
そして、ため息。
「怖いに決まってるでしょ」
「世界壊しかけた男なんて」
カナトは黙る。
エイリンは、続けた。
「でもね」
「それ以上に――」
ぐい、とカナトの服の裾を掴む。
「一人で全部背負って消えそうになる方が、よっぽど怖い」
カナトは、苦笑した。
「……重いな」
「知ってる」
「じゃあ、放せよ」
「やだ」
そのまま、また歩き出す。
空は青い。
扉はない。
ノックもない。
ただ、パン屋の呼び声と、子供の笑い声。
「そういえば」
エイリンが思い出したように言う。
「今日、配信しないの?」
「しない」
「珍しいわね」
「休暇」
「何それ」
「維持神にも休みは必要なんだよ」
エイリンは笑った。
心から。
「……じゃあさ」
「今日は“世界”じゃなくて」
「私の相手、しなさい」
カナトは、少し考えてから言う。
「それ、世界より難易度高くない?」
「文句ある?」
「ないです」
即答だった。
二人は、夕焼けの中を歩いていく。
破壊も、事象も、神々もいない。
あるのは、
ちょっと不器用で、やかましい日常。
それでいい。
世界はもう、
ちゃんと回っている。
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おわり(でも日常は続く)




