36. 創造神と破壊神
――世界が、ねじれた。
純粋な破壊。
カナト=ダラは、地を蹴った。
次の瞬間には、もう“そこ”にいない。
形あるものの前腕が振り下ろされる。
「亀裂」
空が割れ、
世界が裂け目に引きずり込まれる。
だが――
裂ける“前”に、カナト=ダラが踏み込む。
拳が、振るわれる。
ただ、拳が通過した領域から「亀裂」という定義が破壊された。
裂け目は生まれず、
代わりに空が“何も起きなかったかのように”戻る。
形あるものが、即座に再構成を始める。
「腐敗」
大地が黒ずみ、
生命という前提が崩れる。
だが次の瞬間。
カナト=ダラは、地面を踏み砕いた。
腐敗が広がるための“時間”が壊れる。
腐敗は、進行できない。
進行できない腐敗は、
ただの色だ。
カナト=ダラは、跳ぶ。
空中で、形あるものの“首”を掴む。
いや、
首という形をしていた概念を――
まとめて引き裂く。
形あるものは、消えない。
崩れ、
ほどけ、
すぐに再生する。
だが、再生のたびに。
「再生の条件」が、ひとつずつ削られていく。
「形を保つ」
「意味を持つ」
「存在する」
それらが、
再生よりも先に壊されていく。
形あるものは、後退する。
――初めて。
「……追いつけない」
声は出る。
だが、震えている。
カナト=ダラは、答えない。
獣のように、地を踏み砕く。
一歩ごとに、
世界が“成立をやめる”。
形あるものは、最後の手段に出る。
空間を丸め、
事象を重ね、
自分自身を“世界”に擬態させる。
だが。
擬態した瞬間。
世界という概念ごと、殴り抜かれた。
轟音。
いや、
轟音すら、途中で壊れた。
形あるものは、再生しない。
再生という選択肢が、消えた。
⸻
その頃。
空では、
ラグニエルが、静かに両手を広げていた。
王都アルディア上空。
歪みは、もはや“穴”ではない。
無数の事象が渦巻く、
不定形の海。
ラグニエルは、目を閉じる。
『……今なら』
創造神の力は、100%引き出せる。
破壊神を縛る鎖は、
すべてカナトに委ねられている。
『扉よ』
歪みが、反応する。
『閉じろ』
空間が、球体を描き始める。
事象が、逃げようと暴れる。
だが、
逃げるという方向性そのものが封じられる。
圧縮。
歪みは、丸くなる。
さらに圧縮。
事象同士が、軋み、悲鳴を上げる。
『……耐えろ』
ラグニエルの声は、震えていない。
ただ、淡々と。
『これは、世界の後始末だ』
球体は、家ほどの大きさになる。
さらに。
塔ほど。
家。
人。
拳。
――飴玉。
その瞬間。
地上で。
形あるものが、完全に“未定義”になった。
存在しない。
消えたのでもない。
定義できない。
カナト=ダラは、立ち止まる。
破壊する対象が、なくなったからだ。
空を見上げる。
そこには、
小さな球体と、
それを支えるラグニエル。
世界は、静かだった。
――だが、まだ終わっていない。
それを、
誰よりもカナト自身が知っていた。
⸻
36話 完
次回はいよいよ最終回!




