33. 力
戦場は、まだ保たれていた。
神々の干渉によって、
一万を超えていた禍々しいものは半数以下に減っている。
だが――
減っているだけだ。
終わらない。
《全知神オルメギア》
『異常』
『敵性存在、自己最適化を確認』
《戦神バルド》
『……学習してやがるな』
その通りだった。
形ある王は、玉座に座ったまま、戦場を眺めている。
だがその視線は、さきほどまでとは明らかに違う。
興味を持っていた。
「なるほど」
禍々しいものが、
精霊の拘束を避ける。
魔王の破滅衝動に触れた個体は、
壊れる前に自壊することで影響を最小化する。
世界蛇神の輪環には、
“輪廻しない形”が混ざり始めていた。
《精霊王イリシア》
『……まずいわね』
《魔王ゼル=ヴァルド》
『模倣じゃない』
『適応だ』
形ある王は、ゆっくりと指を立てる。
今度は、鳴らさない。
ただ、空間をなぞるだけだ。
その瞬間――
神々の攻撃が、歪んだ。
命中したはずの一撃が、
途中で「意味」を失い、霧散する。
《海神ネレウス》
『……海が、命令を聞かん』
《砂漠王アシュ=ラーム》
『砂が、形を保てぬ』
形ある王は、静かに言った。
「神の力とは」
「事象に、意味を与えること」
「ならば」
「意味を、先に壊せばいい」
空間が、ひび割れる。
そこから生まれた禍々しいものは、
もはや“ただの数”ではなかった。
神々の力を、
避ける形をしている。
《笑う神チョケ》
『あれ〜?
笑えなくなってきたかも』
《天輪評議会・観測官》
『警告』
『神格干渉率、低下』
『世界側が――耐えきれなくなっている』
カナトは、歯を食いしばる。
(神々が弱くなってるわけじゃない)
(世界が……)
ラグニエルが、静かに口を開いた。
『……限界が、近い』
その声は、
これまで一度もなかったほど、重い。
『扉を閉じ続けるために』
『私は、余力を注いでいる』
『それももはや――』
一瞬、空が軋んだ。
《全知神オルメギア》
『まずい....!』
《戦神バルド》
『おい...!』
《魔王ゼル=ヴァルド》
『まさか……』
形ある王が
カナトの前に立っていた。
そして
カナトを、正面から見て言う。
「君が、要か」
「面白いな」
「なら」
形ある王は、微笑む。
「君を壊せば」
「世界は、もっと面白くなる」
次の瞬間。
禍々しいものの進路が、
すべて、カナトへ向いた。
《精霊王イリシア》
『カナト!』
《戦神バルド》
『そこから離れろ!』
だが、カナトは動かなかった。
同時視聴者数:20,000,000
画面の向こうで、
コメントが荒れる。
《詰んだ》
《やばい》
《エイリンは?》
カナトは、小さく呟く。
「……まだだ」
《精霊王イリシア》
『え?』
「お前ら舐めてんの?」
《戦神バルド》
『.....お前ら?』
「お前らだよ...」
「アホ視聴者ども」
《.....え!?》
《ワイら!?》
《!!!!》
《ただ見てるだけですけどw》
「ただ見てるだけ....?」
「それが問題だろーが」
《.......》
《なんかすいません...》
《どーゆこと?》
「なんだよ同接20,000,000人って」
「こんな世界の危機に」
「しかもその根源が配信者の
目の前にいるんだぞ?」
《.....たしかに》
《俺らもどこか他人事だったわ...》
《とはいえどうすれば?》
「俺は」
「同接1億いくまでは」
「煮ろうが焼かれようが何もしない」
《.....えww》
《それは困るww》
《とりあえずSNSで拡散しろ!》
《全知神オルメギア》
『命よりも数字の方が大事か?』
「当たり前だろ」
「数字は」
「配信者の力だ」
⸻
33話 完




