32. 禍々しいもの
玉座に座るそれは、退屈そうだった。
王都アルディア。
崩壊寸前の城。
混乱の只中にある世界。
だが――
形ある王にとっては、どれも刺激にならない。
「……なるほど」
その声は、静かだった。
怒りでも、憎しみでもない。
純粋な思いつき。
形ある王は、片手を上げた。
そして――
指を鳴らした。
パチン。
音は、小さい。
だが次の瞬間。
世界各地で、
同時に“崩壊”が起きた。
北の大国の城塞が、
内部から裂ける。
海上国家の王都が、
一瞬で“腐敗”する。
山岳国家は、
“存在していた事実”ごと、
削り取られた。
同時視聴者数:11,500,000
《なにが起きてる》
《国が……消えた?》
《指鳴らしただけだぞ》
世界は、
理解が追いつく前に壊れた。
形ある王は、首を傾げる。
「ほう」
「形があると、壊れるな」
次の瞬間。
玉座の周囲に、
黒い亀裂が無数に走る。
そこから――
「禍々しいもの」が溢れ出した。
一体、十体、百体。
いや――
一万を超える。
形を持つが、定義を持たない。
生き物のようで、生きていない。
形ある王の思いつきの実験
同時視聴者数:12,570,800
《化け物増えすぎ》
《軍勢どころじゃない》
《これ無理だろ》
騎士団が迎撃に出るが、
数が違いすぎる。
世界は、
完全な殲滅フェーズに入った。
その時。
カナトが、マイクに向かって言った。
「――全神格」
一拍。
「干渉許可を、要請する」
コメント欄が、
爆発する。
《来た》
《全神参戦》
《神々のスパチャ合戦》
《創造神ラグニエル》
『承認する』
空が、
割れた。
オーロラのようなカーテンが王都を包み込む
⸻
《全知神オルメギア》
『敵性存在、数一万三千七百二』
『世界滅亡までの予測時間――
七分三十秒』
《戦神バルド》
『……やれやれだな毎回毎回』
【スーパーチャット ¥100,000,000】
「神の進軍」
戦場に、
“踏み込み”そのものが降りる。
禍々しいものたちは、
衝撃だけで粉砕された。
《精霊王イリシア》
『精霊ちゃんたち、総動員ね』
【スーパーチャット ¥80,000,000】
「全精霊契約・一時解放」
風が裂き、
水が縛り、
大地が押し潰す。
事象と事象が、
真正面から衝突する。
《魔王ゼル=ヴァルド》
『数で押す気か』
【スーパーチャット ¥120,000,000】
「影の裏切り」
禍々しいものたちの
影が動き、自身を食べ始めた。
《全知神オルメギア》
『敵性存在、残存数――七千』
『減少率、想定以上』
《笑う神チョケ》
『あはははは!
これは楽しいねぇ!』
【スーパーチャット ¥80,000,000】
「愉悦拡散」
禍々しいものの一部が、
突然、互いを攻撃し始める。
混沌が、
混沌を食う。
《世界蛇神》
『輪廻を越える存在か……』
【スーパーチャット ¥90,000,000】
「世界拘束・輪環」
巨大な蛇影が、
戦場を囲む。
《海神ネレウス》
『陸に出るのは好かんがな』
【スーパーチャット ¥70,000,000】
「大潮」
海が、
王都の外周まで押し寄せ、
禍々しいものを飲み込む。
《砂漠王アシュ=ラーム》
『砂に還れ』
【スーパーチャット ¥60,000,000】
「風砂王権」
《天輪評議会・観測官》
『観測開始』
『……記録する価値がある』
神々が、
一斉に戦場へ介入する。
空間は裂け、
事象は衝突し、
世界は必死に耐えていた。
だが。
形ある王は、
その様子を眺めながら――
笑った。
「なるほど」
「神とは、こういう形か」
玉座から立ち上がり、
ゆっくりと歩き出す。
「私は――」
「すべての形を破壊した先にあるものを、知りたい」
神々の動きが、
一瞬、止まる。
「形を壊し」
「概念を壊し」
「役割を壊し」
そして――
「その先に」
「“唯一”があるなら」
形ある王は、
空を見上げた。
「それを、神と呼ぶのだろう?」
沈黙。
カナトは、
小さく息を吐いた。
(……こいつ)
(神に、なろうとしてる)
同時視聴者数:15,900,000
この存在は、
災厄ではない。
侵略者でもない。
――「進化」だ。
⸻
32話 完
次回もお楽しみに!




