31. 更新
最初に起きたのは、
音だった。
ズ……ン
低く、重い。
雷でも地鳴りでもない。
“世界が位置をずらした音”。
王都アルディアの玉座で、
形ある王が――
初めて、立ち上がった。
「……確認」
声は静かだった。
だが、
その瞬間。
王城の床に、
無数の亀裂が走った。
ただ割れたのではない。
“意味を持って”裂けた。
一直線に、
王都の外壁へ向かって。
⸻
「来るぞ!!」
騎士団副団長、ベアレインが叫ぶ。
重装騎士たちが盾を構え、
魔導兵が後方で展開。
その中央に――
エイリンがいた。
「大丈夫」
剣を握る手は震えていない。
「王都は、守る」
次の瞬間。
亀裂から、
“何か”が噴き出した。
いや、
噴き出したのは――
腐敗だった。
金属が赤錆に変わる。
石畳が崩れ、
空気が濁る。
「防御魔法――!!」
間に合わなかった。
魔法陣が完成する前に、
術式そのものが腐った。
「な、何が……!」
形ある王が、
指を一本、動かす。
それだけで、
事象が切り替わる。
「“腐敗”は、
防御より先に適用される」
理解ではない。
仕様だった。
⸻
「前進!!」
ベアレインが突っ込む。
剣撃。
衝撃。
確かな手応え。
――だが。
刃が、
途中で折れた。
正確には、
“剣であるという性質”を失った。
「な……!」
次の瞬間、
ベアレインの頭が吹き飛ばされる。
「破裂」が、
彼の頭部に“選ばれた”だけだ。
エイリンが走る。
「下がって!!」
剣を振るう。
光が走る。
斬った――はずだった。
だが、
形ある王の体は、
“斬られた形”を取らなかった。
「……」
形ある王は、首を傾げる。
「攻撃、という概念は理解した」
「だが――」
一歩、踏み出す。
その瞬間。
エイリンの背後に、
亀裂が生まれた。
「っ……!」
避けた。
だが、
完全ではない。
肩が、腐り始める。
「エイリン!!」
⸻
王城の上空。
配信画面は、凍りついていた。
同時視聴者数:8,777,000
《無理》
《防御できてない》
《これ今までと違う》
《戦神バルド》
『……力押しが通らん』
《精霊王イリシア》
『精霊が、
“命令”を受け付けてない』
《魔王ゼル=ヴァルド》
『壊す前に、
壊れ直す……か』
形ある王は、
彼らを見上げもしない。
「神々」
その一言で、
空気が沈む。
「お前たちは、
“干渉”だ」
「だが私は――」
玉座の前に立ち、
世界を見渡す。
「"現象"そのものだ」
⸻
カナトは、歯を食いしばった。
「……やばいな」
リュミエールが、
低く言う。
「ええ」
「これは戦争ではありません」
「更新です」
そのとき。
世界のどこかで、
何かが――
軋んだ。
誰にも見えない場所。
さびなきの鎖が、
一つ――
きし、と音を立てた。
⸻
形ある王は、
ゆっくりと笑った。
初めての、
感情表現。
「面白い」
「この世界はまだ」
「何か隠しているな」
⸻
31話 完
次回もお楽しみに!




