30. 新たなる王
世界は、悲鳴を上げていた。
王が死んだ。
ただそれだけで、
世界はここまで簡単に壊れるのか――と
誰もが思った。
だが、現実はもっと残酷だった。
壊れたのは、
「王がいなくなったこと」ではない。
王が“交代した”ことだ。
⸻
王都アルディア。
かつてカーン王が座っていた玉座に、
それは座っていた。
背筋を伸ばし、
足を組み、
まるで――
最初からそこにいたかのように。
「形あるもの」は、
王冠を必要としなかった。
玉座そのものが、
“王の形”に適応していた。
城内は静まり返っている。
死体は、もう動かない。
泣く者も、叫ぶ者もいない。
“終わった”からだ。
「……理解した」
形ある王が、呟く。
声は低く、
男でも女でもなく、
老いも若さも含まない。
「この座は、
世界が“従う”ための装置だ」
玉座が、わずかに軋む。
それは、肯定だった。
⸻
同時刻。
世界各地で、
奇妙な現象が起き始めていた。
ある国では、
王城の壁に亀裂が走り、
その形が“王座”を模した。
ある国では、
王の遺体が急速に腐敗し、
代わりに玉座だけが残った。
《新たなる王が現れた》
《世界は選び直された》
《形ある王に、忠誠を》
――そう言い出す者たちが、現れた。
最初は少数だった。
だが、恐怖は伝染する。
理解できないものを前にしたとき、
人は“従う理由”を探す。
「神ではない」
「だが、王である」
「世界が、従っている」
それで、十分だった。
⸻
やがて――
軍が、動き出す。
旗が掲げられる。
それは、
どの国のものでもない。
“形”を模した、
歪んだ紋章。
新たなる王に従うため、
各国の軍が、
王都アルディアへ向かって進軍を始めた。
《やばくね?》
《敵が一つじゃない》
《世界、分裂してる》
配信画面は、荒れていた。
同時視聴者数:5,700,000
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王都アルディア。
カナトは、
モニター越しに世界を見ていた。
「……信仰、早いな」
隣で、リュミエールが静かに言う。
「ええ。
“王”という概念は、
思考を放棄するのに最適です」
「神より簡単だしな」
そのとき。
画面が、急に騒がしくなる。
《神きた》
《またスパチャえぐい》
《何柱いるんだよ》
空が、歪んだ。
《戦神バルド》
『今度は遊びじゃ済まん』
【スーパーチャット ¥80,000,000】
「全域殲滅構え」
《精霊王イリシア》
『皆さすがに"揺らぎ"すぎだよ』
【スーパーチャット ¥60,000,000】
「世界調和・一時停止」
《魔王ゼル=ヴァルド》
『王を名乗るには、
随分と軽い』
【スーパーチャット ¥70,000,000】
「概念圧縮」
さらに。
《???》
『あはは』
画面に、歪んだ文字。
《笑う神チョケ》
『面白いねえ』
【スーパーチャット ¥30,000,000】
「観測のみ」
《世界蛇神》
『見てられん』
【スーパーチャット ¥66,600,000】
「絶対零度」
空気が、ざわつく。
リュミエールが、眉をひそめた。
「……いろんな神が来ましたね」
「しかも、性質が悪そうだ」
カナトは、玉座に座る“王”を見る。
あれは、まだ動いていない。
戦争も、
信仰も、
神々の介入も――
ただ、
観察しているだけだ。
「……なあ」
カナトが呟く。
「まだ、暴れてないよな」
リュミエールは、
ゆっくり頷いた。
「ええ」
「だからこそ、厄介です」
空の上。
扉が、静かに軋んだ。
ギィ……
ほんの、わずか。
誰も気づかないほどの、
隙間。
だが――
世界は、確実に
次の段階へ進んでいた。
⸻
30話 完
次回もお楽しみに!




