3. 公開尋問
「――貴様、神を騙った罪で騎士団詰所まで来てもらう」
女騎士の宣告に、街の空気が一変した。
周囲の人間がざわつき、視線が突き刺さる。
(街の人々)
「神を騙る……?」
「やっぱり怪しい奴だったか」
「処刑されるぞ……」
俺は、思わずスマホを握りしめた。
「ちょ、ちょっと待ってください! 俺は別に――」
「黙れ。言い訳は後で聞く」
有無を言わさぬ口調。
これは……逃げ場がない。
同時視聴者数:1,024
四桁いってるんだけど。
『来たな』
『裁判配信だ』
『この世界、娯楽が少ないからな。人が集まる』
「娯楽扱いすんな……」
⸻
詰所の前に設けられた石畳の広場。
俺は衆人環視の中、台の中央に立たされた。
女騎士が名乗る。
「私は王国騎士団団長、エイリン・ノクティエル。
今より、被疑者灰原カナトの公開尋問を行う」
……公開って言ったよね?
「貴様は先ほど、“神々と通信している”と発言したな」
「……はい」
「証拠は?」
一斉に向けられる視線。
喉が、からからに乾く。
同時視聴者数:2,300
『証明してやるとするか』
『派手にいこう』
『神々、準備はいいか?』
俺は、小さく息を吸った。
「……視聴者の皆さん。
ちょっと、力を貸してほしいです」
一瞬の沈黙。
次の瞬間――
【スーパーチャット ¥1,000,000】
《戦神バルド》
『見せてやれ』
【スーパーチャット ¥800,000】
《全知の神オルメギア》
『可視化しよう』
【スーパーチャット ¥1,200,000】
《運命の女神リラ》
『盛り上げますね』
空気が、震えた。
⸻
突如、俺の背後に巨大な光の紋章が浮かび上がる。
「なっ……!?」
観衆が息を呑む。
空に、文字が刻まれていく。
《現在の視聴神数:37柱》
《総スパチャ額:¥3,000,000》
「……読める……?」
「空に、文字が……」
エイリンの顔色が変わった。
「こ、これは……高位神術……?」
『まだ序盤だ』
『もっとやるか?』
『一度“理解”させてやろう』
【スーパーチャット ¥5,000,000】
《神々の総意》
「世界法則・一時改変」
瞬間――
重力が、消えた。
人々が浮き上がり、悲鳴を上げる。
だが俺の足元だけは、しっかりと地に着いている。
「な、何が起きている……!?」
エイリンが膝をつく。
俺は、震える声で言った。
「俺は……神を名乗ってません」
空に、最後の文字が浮かぶ。
《この配信者は「事実」を述べています》
重力が、元に戻った。
⸻
広場は、沈黙に包まれていた。
エイリンは、ゆっくりと頭を下げた。
「……非礼を詫びる。
灰原カナト殿。
貴殿は――神に選ばれし観測者だ」
どよめきが、歓声に変わる。
「本物だ……!」
「神が、認めた……!」
「すげぇ……!」
同時視聴者数:10,000
『無双開始だな』
『ここからは楽だ』
『次は何を壊す?』
俺は、乾いた笑いを漏らした。
「……壊す前提なの?」
だが、理解していた。
――もう、後戻りはできない。
神々のスパチャという最強の武器を持ってしまった以上、
この世界は、俺を放ってはおかない。
「……次の配信も、よろしくお願いしまーす」
その時だった。
《???》
『よぉ……人間』
コメント欄に、見慣れない名前が流れた。
「……ん?」
俺は画面を見て首をかしげる。
「新規さん? 初見いらっしゃい」
《魔王ゼル=ヴァルド》
「人間よ。貴様は何者だ」
……え?
同時視聴者数:10,001
(第三話・完)
次回もお楽しみに!




