28. 声
ギィ……
扉は、開いたままだった。
大きくはない。
指一本、通るかどうか。
それでも――
世界は、確実に変わった。
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「……音、変わった?」
カナトが呟いた、その直後。
――…………
ノイズのような、
風のような、
意味を持たない“揺れ”。
そして。
「……それ、なに?」
声だった。
《え?》
《今しゃべった?》
《誰?》
男でも、女でもない。
感情の起伏も、年齢もない。
ただ、問いだけがあった。
カナトは、一瞬だけ目を細める。
「俺?」
「それとも、この世界?」
沈黙。
だが、扉の向こうは引かなかった。
「……世界?」
その言葉を、
なぞるように繰り返す。
《創造神ラグニエル》
『応答するな』
『だが、遮断もしない』
『観測する』
オルメギアの文字が、震える。
《全知神オルメギア》
『……この“声”』
『知性ではない』
『記録でもない』
『質問という行為だけが、存在している』
リュミエールが低く言う。
「人格以前ですね……」
「うん」
カナトは、マイクに向かって話す。
「なあ」
「君さ」
「ここ、初めて?」
一拍。
「……初めて」
「ここ、って」
「“ここ”って、なに?」
コメント欄が、ざわつく。
《哲学始まった》
《怖い怖い》
《でも会話成立してる》
カナトは、少しだけ笑った。
「場所だよ」
「空間」
「あと――」
指で、自分の体を指す。
「形」
沈黙。
その後、
声は、ゆっくりと言った。
「……かたち」
「それは、いる?」
「ある?」
《創造神ラグニエル》
『……』
初めて、
ラグニエルが言葉に詰まった。
「あるよ」
カナトは、即答した。
「俺も」
「この城も」
「扉も」
「全部、“形”がある」
「……全部?」
「全部」
声は、
何かを理解したようだった。
「……不便そう」
「制限が、多い」
リュミエールの背筋が、冷える。
「学習、早すぎる……」
「でも便利でもある」
カナトは続ける。
「触れる」
「壊せる」
「守れる」
「……壊せる」
その単語だけが、
少し、強く反響した。
《創造神ラグニエル》
『やめろ』
『それ以上の説明は不要だ』
『君は、まだ――』
だが、遅かった。
扉の隙間。
“何か”が、
内側から滲み出した。
光ではない。
闇でもない。
輪郭。
ただの線。
意味を持たない、境界。
「……見える?」
カナトが言う。
《見える》
《線?》
《バグ?》
声が、静かに言った。
「これが……」
「“形”?」
次の瞬間。
輪郭が、
自己を保ち始めた。
崩れない。
溶けない。
消えない。
存在が、確定する。
《創造神ラグニエル》
『――まずい』
オルメギアが、初めて断定する。
《全知神オルメギア》
『“形あるもの”が』
『向こう側で、発生した』
空が、軋む。
扉の向こうで、
“それ”は、まだ動かない。
ただ――
在る。
カナトは、画面を見つめたまま言った。
「……つまり」
「どのくらいまずい?」
ラグニエルの文字が、重く浮かぶ。
《創造神ラグニエル》
『人間でも理解できるように言うと』
『彼女と一緒に動画見てたら』
「......」
『元カノからの通知が表示されて』
「......ごくり」
『部屋が静寂に包まれたくらい』
「それはまずいな....」
扉の向こう側で。
“形あるもの”は、
確かに――
こちらを、見ていた。
同時視聴者数:250,666
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28話 完
次回もお楽しみに!




