27. ノックノッカー
王都アルディアは、奇妙な日常に戻っていた。
市場は開き、
子どもは走り、
兵士は配置につく。
そして――
空の扉は、そこにある。
同時視聴者数:72,418
「……相変わらず、邪魔だな」
カナトは欠伸まじりに空を見上げた。
コン
軽い音。
誰も振り返らない。
《また鳴った》
《最近デフォ音》
《BGM》
《創造神ラグニエル》
『問題ない』
即答だった。
『それは、私が作った“扉”に付随する現象だ』
『扉を定義すれば、
“叩かれる可能性”も同時に定義される』
『私はそれを、便宜上
"扉を叩くもの(ノックノッカー)"と呼んでいる』
リュミエールが頷く。
「副作用ですね」
『そうだ』
『深刻ではない』
コン
音は、いつも通りだった。
問題は――
別の場所にあった。
同時視聴者数:91,003
コメント欄の、さらに下。
突然、一行だけが流れる。
《▇▇▇ ▇▇▇▇ ▇▇》
「……あ?」
視聴者が気づくより早く、
ラグニエルの反応が来た。
《創造神ラグニエル》
『……それは、扉とは関係ない』
空気が、わずかに張る。
『これは――』
一拍。
『“私の管理外”だ』
コメント欄が、静まる。
《管理外って》
《創造神でも?》
ラグニエルは、初めて長く沈黙した。
そして、観念したように続ける。
《創造神ラグニエル》
『説明しよう』
『いずれ話さねばならない』
画面に、
見たことのない“鎖”の神紋が浮かんだ。
『破壊神=ダラ』
その名前だけで、
オルメギアの文字が一瞬、途切れた。
『彼は、神であり神ではない』
『概念でも、意思でもない』
『破壊という行為を、
永久に続ける存在だ』
『止まらない』
『止められない』
『だから――』
文字が、重くなる。
『私は、彼を封じている』
『さびなきの鎖で』
リュミエールが、息を呑む。
「……封印、ではなく」
『拘束だ』
『破壊が行われるたび、
鎖は砕かれる』
『私は常に、
新しい鎖を生成し続けている』
《え》
《無限労働じゃん》
ラグニエルは、淡々と告げた。
『現在』
『私の力の、およそ九割は』
『破壊神=ダラの拘束維持に使われている』
静寂。
『だから』
『この扉に割ける力は、
残りの一割に過ぎない』
『鍵は、永遠ではない』
『限界は――』
言葉が、そこで止まった。
ギィ……
音がした。
今までとは、違う。
叩く音ではない。
擦れる音。
誰もが、空を見上げた。
扉が――
ほんの、わずかに。
開いていた。
隙間の向こうは、暗い。
何も、見えない。
だが。
「……近いな」
カナトが、静かに言った。
ラグニエルの文字が、最後に浮かぶ。
《創造神ラグニエル》
『……扉の向こう側は――』
一拍。
『この世の道理が
一切通じない』
ギィ……
扉は、止まった。
だが――
閉じてもいなかった。
⸻
27話 完
次回もお楽しみに!




