25. 世界大戦
王都アルディアは、騒がしかった。
扉がある。
歪みがある。
そして――敵が、来る。
西門が、最初に燃えた。
ギルティア軍。
黒鉄の鎧、実戦を前提にした隊列。
「討伐」の名を借りた、完全な殲滅部隊。
「王都アルディアに告ぐ!!」
拡声魔法が、空気を震わせる。
「世界の安定を乱す異物――
灰原カナトを、引き渡せ!!」
配信画面のコメントが、一気に荒れた。
《いきなり戦争》
《いや世界規模で草》
《国連かよ》
その直後――
南門が、崩れた。
ヘヴンヘルズ聖国。
白と金の装甲。
掲げるのは、正義と神罰。
「歪みは罪である!」
「罪を生む者は、裁かれねばならない!」
東からは、金属音。
シューラガン。
人形兵、魔導機械、整然とした無感情の進軍。
北――
クライノート。
10メートル以上ある巨人が並ぶ。
最も合理的に、最も荒々しく
“処理対象”を排除しに来た。
王都は、完全包囲された。
《完全に詰んでね?》
《世界中敵で草》
《でもカナトだぞ》
カナトは、椅子から立ち上がらなかった。
両脇を騎士と参謀で固めている。
ただ、マイクに向かって言う。
「――確認」
「全方位、敵性国家。
交渉、なしでいい?」
コメント欄が、一瞬で埋まる。
《いい》
《無理》
《無双見せろ》
そのとき。
《戦神バルド》
『面倒な話だ』
画面が、赤く染まった。
【スーパーチャット ¥50,000,000】
「神の散歩」
『叩き潰そう』
西門前。
ギルティア軍が、突撃を開始した瞬間――
地面が、裂けた。
いや、違う。
戦神が、踏み込んだ。
空間が圧縮され、
衝撃波が城壁を越えて広がる。
鎧が、武器が、隊列が――
まとめて、吹き飛んだ。
「……は?」
ギルティア軍の指揮官が言葉を失った次の瞬間、
画面が一瞬、暗転する。
南門。
《精霊王イリシア》
『"揺らぎ"だよね♪』
聖騎士団が詠唱を始めた瞬間、
風が裏切った。
炎は燃えず、
光は屈折し、
祈りは――精霊に拒絶された。
「な……精霊が応答しない!?」
《精霊王イリシア》
『勝手に使わないでほしいな~』
『私の精霊ちゃんたち』
一陣の風。
気づいたときには、
聖騎士団は全員、地面に伏していた。
殺してはいない。
戦えるだけの“状態”を、消しただけだ。
東。
シューラガンの機械兵が、一斉に照準を合わせる。
魔導回路が唸り、演算音が空を満たした。
そのとき。
《魔王ゼル=ヴァルド》
『……ふん』
画面に、黒い文字が浮かぶ。
《魔王ゼル=ヴァルド》
『無駄に整った構造だ』
『だからこそ――
壊れ方も、決まっている』
次の瞬間。
機械兵の内部で、同時多発的に異常が発生した。
【スーパーチャット ¥50,000,000】
「自死自傷」
出力過剰。
制御ループ破綻。
優先演算の自己衝突。
「なっ……!?
命令が――戻らない!?」
魔王の介入は、攻撃ですらない。
“破壊を選ばせた”だけだ。
魔導機械は、
自らの最適解を求めた結果――
自壊した。
瓦礫が崩れ落ち、
シューラガン軍は立ち尽くす。
《魔王ゼル=ヴァルド》
『形あるものは、
いずれ自分の重さに耐えられなくなる』
『それだけの話だ』
北――クライノート。
巨人達は前進する。
その瞬間。
画面に、新しい文字が浮かんだ。
【スーパーチャット ¥70,000,000】
「世界樹と若木」
《創造神ラグニエル》
『介入する』
世界が、止まる。
時間ではない。
因果が、固定された。
《創造神ラグニエル》
『この戦争は、成立しない』
《創造神ラグニエル》
『世界の歪みを理由に、
個体を排除する行為を――
私は認めない』
次の瞬間。
クライノート軍は、
“進軍していなかった”ことになった。
最初から、いなかった。
配信画面が、爆発する。
《やば》
《神々フル稼働》
《世界側、瞬殺》
カナトは、カメラを見る。
「――はい」
「世界大戦、終了」
そのとき。
コン
まただ。
今度は、はっきり聞こえた。
扉の、向こう側。
コン、コン、コン
一定のリズム。
『……』
《創造神ラグニエル》
『……回数が、増えている』
「……うるさいな」
カナトは、空を見上げる。
「順番、待ってろ」
扉は、答えない。
ただ――
ノックだけが、続いていた。
その時
カナトの画面に、
また解読不能なコメントが流れた。
《▇▇ ▇▇▇ ▇▇▇▇▇》
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25話 完
次回もお楽しみに!




