2. 炎上
魔物が倒れたまま動かなくなっているのを確認して、俺はその場にへたり込んだ。
「……はぁ……生きてる……」
心臓がまだバクバク言っている。
スマホを見ると、配信は続いていた。
同時視聴者数:84
さっきより、明らかに増えている。
『落ち着け』
『よく生き残ったな』
『凡人なのに面白い反応をする』
「凡人で悪かったな……」
思わずツッコミを入れると、コメント欄が少し賑やかになる。
『自覚があるのは良い』
『そのままでいけ』
『盛るな、素でいい』
どうやら神々は、俺がビビってるのも含めて楽しんでいるらしい。
……趣味悪くない?
⸻
森を抜けてしばらく歩くと、遠くに石の城壁が見えた。
「街……だよな?」
近づくにつれて、人の気配、話し声、馬の鳴き声が聞こえてくる。
間違いない。ここは人の住む場所だ。
同時視聴者数:156
『ほう、都市か』
『文明レベルは中世程度だな』
『ここからが本番だ』
「本番って……」
街の門の前には、槍を持った門番が二人立っていた。
俺の格好を見るなり、眉をひそめる。
「止まれ。貴様、どこの者だ」
言葉は通じているが、どこか微妙に噛み合わない。
「あ、えっと……旅の者、です」
『曖昧すぎる』
『もう少し盛れ』
『仕方ない、補助しよう』
【スーパーチャット ¥10,000】
《全知の神オルメギア》
『簡易言語補正を付与』
急に、頭がスッと冴えた。
「東の辺境から来ました。街で物資を補給したくて」
門番はしばらく俺を観察し――やがて肩をすくめた。
「……まあいい。妙な魔道具は持ち込むなよ」
「はい!」
……通った。
『今のは上手かった』
『神の力なしでは無理だったな』
『自覚しておけ』
自覚は、してる。
⸻
街の中は活気に満ちていた。
露店、商人、鎧姿の冒険者。
ただ一つ問題がある。
――視線が、全部俺に向いている。
「……なんか、見られてない?」
『見られているな』
『不審者だから仕方ない』
『完全に浮いている』
確かに、俺だけ現代日本の服装だ。
ヒソヒソと聞こえてくる声。
(街の人々)
「なんだ、あの板は……」
「魔道具か?」
「怪しいな……」
嫌な空気が広がっていく。
その時。
「そこの貴様」
凛とした声が響いた。
振り返ると、銀色の鎧に身を包んだ女騎士が立っていた。
金髪を後ろで束ね、鋭い目で俺を見ている。
うん、可愛い。タイプです。
「騎士団だ。その手に持っている物を見せろ」
……詰んだ?
同時視聴者数:312
『来たな』
『最初の炎上案件だ』
『ここが踏ん張りどころ』
「えっと、これは……」
言葉に詰まる俺に、女騎士は一歩近づく。
「答えろ。貴様、その魔道具で何をしている」
心臓が嫌な音を立てる。
その瞬間。
【スーパーチャット ¥50,000】
《戦神バルド》
『度胸を貸してやる』
胸の奥が、熱くなった。
「……配信、です」
「……は?」
「俺は、見られています。この世界の――外から」
女騎士の目が、細くなる。
「戯言を。……貴様、私を侮辱する気か?」
街の空気が、一気に張り詰めた。
同時視聴者数:600
『いいぞ』
『炎上してきたな』
『ここから無双の準備だ』
俺は、スマホを握り直した。
――逃げられない。
なら、見せるしかない。
「次、どうすればいい?」
カメラに向かって、小さく問いかける。
コメントが、滝のように流れ始めた。
(第二話・完)
次回もお楽しみに!




