19. 処理限界(オーバーフロー)
王都アルディアの空は、まだ青かった。
だが――
その下で起きている光景は、もはや“災害”だった。
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西門。
騎士団第三部隊が、膝をついていた。
「くそ……」
「また、湧いた……!」
倒したはずの魔獣が、
同じ個体番号、同じ傷跡のまま立ち上がる。
首を落としたドラゴンが、
数分後には“別の角度”から再出現する。
「……再生じゃない」
「複製だ……!」
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同時視聴者数:580,000
『無限復活バグ』
『同一個体って言った?』
『完全にシステム壊れてる』
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王城・指揮室。
リュミエールは、地図から目を離さずに言った。
「敵は、増えていません」
「……は?」
エイリンが聞き返す。
「正確には――
“増えたことにされている”」
カナトが、ゆっくりと瞬きをした。
「それ……どういう意味だ?」
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リュミエールは、指を鳴らした。
地図の赤点が、一瞬だけ揺らぐ。
「世界は今、
存在判定の処理が追いついていません」
「本来なら、
討伐 → 削除 → 空き領域確保
という流れがある」
「ですが――」
彼女は、はっきりと言った。
「削除が失敗している」
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《全知の神オルメギア》
『……なるほど』
文字が浮かぶ。
『消えたはずの“存在情報”が』
『回収されずに残留している』
《戦神バルド》
『だから、斬っても終わらんわけだ』
《魔王ゼル=ヴァルド》
『面倒な真似を』
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同時視聴者数:620,000
『神が普通にシステム用語』
『世界=サーバー確定』
『怖すぎる』
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「じゃあ……」
カナトは、低く言った。
「誰かが、わざと――
世界を重くしてる?」
リュミエールは、頷いた。
「はい」
「目的は単純です」
彼女は、カナトを見た。
「鯖落ちを起こすこと」
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その瞬間。
配信画面が、わずかに歪んだ。
音声が、一拍遅れる。
同時視聴者数:
620,000 → 610,000 → 590,000
『今ちょっとラグった』
『音ズレした』
『俺の環境じゃない』
⸻
「……来てるな」
カナトは、静かに言った。
「DoS攻撃、ってやつか」
リュミエールは、少しだけ目を見開いた。
「その単語……どこで?」
「前の世界」
肩をすくめる。
「アクセス集中させて、
正常な動作を潰すやつ」
⸻
《全知の神オルメギア》
『的確だ』
『この世界は』
『存在するだけで、計算を必要とする』
『無限増殖は』
『“計算を浪費させる”最悪の方法だ』
⸻
王都上空。
突然、巨大な魔法陣が出現した。
いや――
魔法陣ですらない。
ただ、
“召喚予定地の残骸”のような歪み。
そこから――
ドラゴンが、落ちてくる。
一体、二体、三体。
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「来た……!」
エイリンが剣を抜く。
その背後で、
リュミエールが小さく息を吸った。
「……では、参謀として提案します」
カナトが頷く。
「聞こう」
⸻
「迎撃では、負けます」
「殲滅でも、意味がありません」
彼女は、静かに続けた。
「なら――」
「存在を“処理しない”戦い方をします」
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同時視聴者数:650,000
『???』
『処理しない?』
『どういうこと』
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リュミエールは、微笑んだ。
「削除できないなら」
「保持したまま、固定する」
「神々の力で、上書きします」
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《精霊王イリシア》
『揺らがせないってことですね♪』
《戦神バルド》
『封印戦か』
《魔王ゼル=ヴァルド》
『面白い』
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空が、震えた。
精霊が地を縫い、
戦神の刻印が空間を縛り、
魔王の影が“逃げ場”を消す。
倒さない。
消さない。
ただ、動けなくする。
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「……重いな」
カナトは、呟いた。
配信画面が、また一瞬だけ乱れる。
同時視聴者数:
650,000 → 640,000
⸻
リュミエールが、低く言った。
「ですが、これは――」
「時間稼ぎです」
「敵は、
“もっと直接的な手”を使ってきます」
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エイリンが、剣を構え直す。
「……カナト殿」
「はい」
「次は、あなた自身が狙われます」
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王都は、まだ立っている。
神々も、仲間も、健在だ。
だが――
世界は確実に、重くなっていた。
これは、前哨戦。
本当の“負荷”は、これから来る。
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(第十九話・完)
次回もお楽しみに!




