18. 無限増殖(ウイルス)
第一章もいよいよクライマックス!
王都アルディアは、異様なほど忙しかった。
「……報告が止まりません」
執務室で、エイリン・ノクティエルが額に汗を浮かべていた。
鎧姿のまま、次々と届けられる書類を処理している。
「西門、魔獣群出現。数、推定三百――いえ、四百に増加」
「南の平原、ドラゴン二体……三体に増えました」
「地下水路、正体不明の魔導士集団、殲滅後も再出現」
灰原カナトは、椅子に深く腰掛けたまま、無言で聞いていた。
同時視聴者数:420,000
『多方面すぎない?』
『昨日まで平和だったよな?』
『最終章感ある』
「……多すぎる」
カナトは、ぽつりと呟いた。
「戦争じゃない。侵攻でもない。
なのに――全部、同時に起きてる」
⸻
そこへ、ノックもなく扉が開いた。
「失礼します」
入ってきたのは、リュミエールだった。
もはや王城内で彼女を止める者はいない。
「状況は把握しています」
彼女は、机の上に地図を広げた。
赤い印が、王都を中心に円状に広がっている。
「……包囲されてる」
エイリンが眉をひそめる。
「包囲、ではありません」
リュミエールは静かに否定した。
「包囲なら、戦線ができます。
ですがこれは――」
一拍。
「湧いている」
その言葉に、空気が変わった。
⸻
「湧いてる、って……」
カナトが視聴者をちらりと見てから聞き返す。
「敵って、普通はどこかから来るよな?」
「ええ」
リュミエールは頷いた。
「補給線、召喚点、転移門。
ですが今回は、それが存在しません」
彼女は指を鳴らす。
「討伐された数と、増加数が釣り合っていない」
「……無限湧き?」
『嫌な言葉』
『ゲームで一番ダメなやつ』
『バランス崩壊』
「しかも質が悪い」
リュミエールは淡々と続ける。
「魔獣、ドラゴン、魔導士――
本来、同時に現れない存在が混在している」
「……世界観、壊れてない?」
カナトの一言に、誰も笑わなかった。
⸻
そのとき。
《戦神バルド》
『おかしいな』
画面に文字が浮かぶ。
《魔王ゼル=ヴァルド》
『戦争の匂いではない』
《全知の神オルメギア》
『因果が雑音にまみれている』
《精霊王イリシア》
『“揺らぎ”ですね』
同時視聴者数:500,000
『神も困惑』
『珍しい』
『これヤバいやつ』
「神様たちでも、分からない?」
カナトが尋ねる。
《全知の神オルメギア》
『戦場なら、計算できる』
『だがこれは――』
『“数”そのものが異常だ』
⸻
王都の外。
騎士団が、必死に迎撃している。
倒しても倒しても、敵は減らない。
むしろ、少しずつ増えている。
「……エイリン」
カナトが、真剣な声で呼んだ。
「はい」
「これ、長引くとまずいよな」
エイリンは、一瞬だけ視線を伏せた。
「はい。
士気も、街も、先に壊れます」
リュミエールが補足する。
「そして――」
彼女は、カナトを見た。
「あなたが狙われます」
「……俺?」
「ええ。これは、あなたを中心に発生している異常です」
同時視聴者数:540,000
『やっぱり』
『カナト中心』
『世界が歪んでる』
⸻
その瞬間。
配信画面の数字が、一瞬だけ跳ねた。
540,000 → 999,999 → 412,000
「……今の、何?」
コメントが一斉に流れる。
『数字バグった?』
『一瞬おかしかった』
『俺だけじゃないよな?』
リュミエールが、目を細めた。
「……兆候ですね」
「何の?」
彼女は、はっきりと言った。
「システム負荷です」
神々が、沈黙する。
その沈黙が、答えだった。
⸻
王都の空には、まだ何も起きていない。
だが、確実に何かが――
増えすぎている。
カナトは、深く息を吸った。
「……参謀」
「はい」
「これ、止められる?」
リュミエールは、即答しなかった。
数秒考え、静かに言う。
「正面からは、無理です」
「ですが――」
微笑む。
「“耐える”ことはできます」
その言葉を聞いて、
エイリンが一歩、前に出た。
剣を握る手に、迷いはない。
「……盾は、私です」
王都は、まだ持ちこたえている。
だがこれは――
戦争ではない。
世界の処理限界との戦いの、始まりだった。
⸻
(第十八話・完)
次回もお楽しみに!




