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異世界で配信してたら神々がスパチャしてきた  作者: default


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13/17

13. 暗殺


夜だった。


王都は、あまりにも静かだ。


戦争の傷跡も、政治の緊張も――

夜の闇は、すべてを等しく覆い隠す。


カナトは、王城の一室で眠っていた。


配信は、切れている。

神も魔王も、見ていない。


ただの人間としての時間。




屋根の上。


月明かりの届かない位置で、

“それ”は息を潜めていた。


黒装束。

気配遮断。

存在希薄化。


――賢王会が金で雇った、人間最強格の暗殺者。


名は、ない。

必要ない。


仕事を終え、生き残った者だけが“名を持つ”。


標的:灰原カナト

難易度:S

備考:神性干渉あり(ただし非観測時)


「……今だ」


結界の“揺らぎ”を見逃さなかった。


神と魔王が離れ、

世界が油断する一瞬。


影は、滑るように窓へ――



その前に。


「――そこまでだ」


低い声。


影が、凍りつく。


月光の下、屋根の縁に立つ女。


銀ではない。

黒でもない。


騎士の青。


エイリンだった。


剣は、抜いていない。

だが、間合いは完全に奪っている。


「……なぜ、ここに」


「あなたが来る気配がしたからです」


暗殺者は、即座に理解した。


――この女、ただの騎士ではない。


「どけ」


「できません」


短いやり取り。


次の瞬間。




剣が、閃いた。


正確無比な一撃。

人間の急所を、完璧に捉う。


――だが。


金属音。


エイリンは、抜刀すらせずに受け止めていた。


「……!」


暗殺者が距離を取る。


(重い……この女、戦場の人間だ)


魔法は使えない。

音が出る。


毒も使えない。

風向きが悪い。


純粋な、技量勝負。


「あなたは、強い」


エイリンが言った。


「ですが――」


一歩、踏み込む。


「この人を殺すには」


「覚悟が、足りません」


剣が、抜かれた。




エイリンの剣は、美しかった。


派手さはない。

だが、一切の無駄がない。


暗殺者の動きを読み、

逃げ道を潰し、

“生き残る選択肢”を削っていく。


(……まずい)


暗殺者は悟った。


この女は、

“守るために人を斬れる”騎士だ。


それは、最も厄介な種類。


「……賢王会に、雇われたな」


エイリンの声は、冷静だった。


「ふん...お前が誰かを守るために斬れるなら...」


暗殺者はカナトが眠る部屋の窓に向かって刃を投げる。


「誰かを守るために死ねるよなぁ!?」




エイリンは迷わずに刃めがけて飛び込んだ。





静寂の中に血が滴り落ちる。


「――撤退しなさい」


エイリンは、告げた。


暗殺者は、目を見開く。


「……なぜ、殺さない」


喉元寸前で、剣が止まっていた。


「あなたは」


一拍。


「この人を“狙った”だけです」


「“傷つけた”わけではない」


剣を、引く。


「甘いな」


暗殺者の膝がエイリンの腹部に入り、鈍い音が静寂に響いた。



エイリンは膝から崩れ落ちる


が、


暗殺者を睨みつけたまま静かに言う。


「....退け」




「....そうさせてもらう。」


その言葉だけ残し、

暗殺者は闇へ消えた。


エイリンの右腕には刃が深く刺さっていた。




朝。


カナトは、普通に目を覚ました。


「……よく寝た」


窓の外、王都は平和。


何も、起きていない。


その廊下の先で。


エイリンは、鎧の隙間に残る血を拭っていた。



カナトが廊下に出る。


「あ、おはようございます」


「……おはようございます」


一瞬、目が合う。


何か、言いかけて――

エイリンは、いつもの表情に戻った。


「今日は、何も予定はありません」


「平和ですね」


「……そうですね」


カナトは、気づかない。


昨夜、

自分が“世界で一番無防備な瞬間”に

誰かが、命を懸けていたことを。



その頃。


《賢王会・内部》


『暗殺、失敗』


『原因:不明』


『対象周辺に、想定外戦力あり』


リュミエールは、報告書を閉じた。


「……なるほど」


微笑む。


「やはり――」


「彼を守っているのは、神でも魔王でもない」


窓の外を見る。


「“人間”ですね」



王都は、今日も平和だ。



(第十三話・完)


次回もお楽しみに!

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