12. 賢王会
朝だった。
王都は平和。
俺は――眠い。
「……戦争より、謁見の方が疲れるんだけど」
同時視聴者数:190,000
※オフ配信(限定公開)
『分かる分かる』
『気ぃ使うよな』
『神魔より政治』
本当にそう。
⸻
玉座の間ではない。
今日は「円卓の間」。
各国の代表、重鎮、賢者、王族。
そして――
「初めまして、灰原カナト様」
声が、涼やかだった。
振り向くと、そこにいたのは――
銀髪の女性。
年齢は、エイリンより少し上か、同じくらい。
王族のような威圧感。
だが、騎士ではない。
少し眠たそうな目。
「ボクは賢王会代表、リュミエール=アル=セレファです」
同時視聴者数:200,000
『きた』
『絶対やばい女』
『ボク系女子かぁ』
エイリンが、俺の一歩前に立つ。
「……賢王会が、なぜここに」
「当然でしょう」
リュミエールは、穏やかに微笑んだ。
「“世界の中心”が生まれたのですから」
⸻
賢王会。
各国の賢王・大賢者・策略家だけで構成された、
武力を持たない最強組織。
王を操り、戦争を起こし、終わらせる。
――人間側の神。
「単刀直入に言いましょう」
リュミエールは、俺を見た。
「灰原カナト様」
「あなたは危険です」
即断言。
「……え?」
同時視聴者数:210,000
『言い切った』
『まあそう』
『正論パンチ』
「神と魔王が肩入れし、世界法則に干渉する存在」
「それが、どこの国にも属さず、誰の管理下にもない」
彼女は、静かに言った。
「――許容できません」
場が、凍る。
⸻
「そこで、提案です」
リュミエールは、一歩近づいた。
「あなたは――」
「賢王会に属してください」
同時視聴者数:230,000
『来たぞ囲い込み』
『人類のやり方』
『神より怖い』
「え、やだ」
即答。
エイリンが、安堵したように息を吐く。
だが――
「そういう意味ではありません」
リュミエールは、笑みを崩さない。
「あなたと、ボクが結婚するということです」
⸻
静寂。
エイリンの剣が、半分抜けた。
「……なっ」
同時視聴者数:260,000
『修羅場』
『戦争よりやばい』
『恋愛回きた』
俺は、固まった。
「……え?」
「形式的なものです」
「政治的拘束力のみ」
「あなたは自由です。配信も続けていい」
彼女は、真っ直ぐ俺を見る。
「ただし――」
「あなたの“最終的な生存”は、賢王会が保証します」
重い。
神よりも、現実的で、確実で――
逃げ場がない。
⸻
「……それは」
エイリンが、震える声で言った。
「本人の意思を、無視した話です」
「騎士団長エイリン様」
リュミエールは、視線を向ける。
「あなたは、彼を“守れる”のですか?」
「神でも魔王でもない人間として」
エイリンは、言葉に詰まった。
……きつい。
同時視聴者数:280,000
『正論の暴力』
『エイリン負けるな』
『カナト助けて』
俺は、一歩前に出た。
⸻
「……あの」
二人の視線が、俺に集まる。
「俺、まだ世界のこととか」
「政治とか」
「結婚とか」
「全然、分かんないんですけど」
一拍。
「でも――」
俺は、エイリンを見た。
「少なくとも」
「“条件付きの生存”を選ぶほど、追い詰められてはいません」
《戦神バルド》
『良い』
《魔王ゼル=ヴァルド》
『その通りだ』
《運命の女神リラ》
『……言えてよかった』
リュミエールは、少しだけ目を細めた。
「……なるほど」
「では」
「“今は”引きましょう」
同時視聴者数:300,000
『今は、が怖い』
『絶対諦めないやつ』
『第二ヒロイン強すぎ』
彼女は、踵を返す前に言った。
「覚えておいてください、灰原カナト様」
「神も魔王も――」
「人間社会までは、守ってくれません」
その言葉を残し、去っていった。
⸻
円卓の間を出た後。
エイリンは、しばらく無言だった。
「……エイリン?」
「……申し訳ありません」
彼女は、俯いた。
「私は、あなたを“騎士”として守れます」
「ですが――」
「“世界”からは、守れない」
……不器用すぎる。
俺は、苦笑した。
「大丈夫ですよ」
「俺、逃げる気ないんで」
エイリンは、顔を上げる。
その距離、近い。
同時視聴者数:310,000(無言増加)
『近い』
『これは』
『言え』
「……私は」
エイリンは、言いかけて、止まった。
代わりに、剣を持つ手を強く握る。
「……あなたの盾であり続けます」
……それで十分だ。
⸻
その夜。
《賢王会・内部通信》
『対象:灰原カナト』
『第一交渉:失敗』
『第二段階へ移行』
『――“人間の敵”を、用意する』
世界は、まだ平和だった。
だが俺は、確信していた。
次の戦いは、剣でも魔法でもない。
人の、思惑だ。
(第十二話・完)
次回もお楽しみに!




