11. 雑談配信
配信タイトル:
【雑談】戦争の翌日なので、ゆるく話します【王都】
……誰が信じるんだ、これ。
王城の一室。
豪華すぎるソファ。
豪華すぎる茶器。
豪華すぎる護衛(騎士団フル装備)。
「……場違い感すごくない?」
同時視聴者数:215,000
『背景が雑談のそれじゃない』
『護衛が多すぎる』
『命の重みが違う』
やめて、緊張する。
⸻
「えー……じゃあ、雑談回ということで」
スマホを軽く持ち上げる。
「質問とか、あります?」
一瞬の静寂。
次の瞬間、コメント欄が爆発した。
『神と魔王どっちが強い?』
『世界公認って給料出る?』
『昨日のあれ、夢じゃないよな?』
『次どこ行くの?』
『命狙われる?』
「多い多い多い!」
「さばけるかっ!」
同時視聴者数:230,000
⸻
そのとき、
画面に、新しいUIが浮かび上がる。
《天輪評議会・公式機能》
【世界質問箱:開放】
「……なにこれ」
《天輪評議会・観測官》
『世界各層からの質問だ』
『公平に答えよ』
同時視聴者数:250,000
最初の質問が、表示された。
【Q:あなたは、世界をどうしたい?】
……重すぎ。
俺は、少し考えてから答えた。
「どうもしません」
「壊す気も、支配する気もないです」
「ただ――」
「面白いところは、ちゃんと映したい」
静寂。
⸻
次の質問。
【Q:神と魔王、どちらが好き?】
「最悪の質問来たな」
コメントが荒れる。
『踏み絵』
『世界最大級の地雷』
『終わった』
俺は、即答した。
「どっちも厄介」
一拍置いて。
「でも――」
「推してくれる存在は、嫌いじゃないです」
《魔王ゼル=ヴァルド》
『ふん』
《戦神バルド》
『正直で良い』
《運命の女神リラ》
『合格です』
《精霊王イリシア》
『“揺らぎ”ですね』
基準が分からない。
⸻
部屋の隅で待機していたエイリンが、小声で囁く。
「……カナト殿」
「はい?」
「今、何が起きているのですか?」
……ですよね。
「えーと……」
「世界の上位存在が、雑談してます」
エイリンは、三秒固まったあと。
「……理解しました」
理解した!?
「理解できるの!?」
「いえ。ですが――」
彼女は、少しだけ微笑った。
「あなたが中心にいる。それだけは、分かります」
……やめて、重い。
⸻
その時。
コメント欄に、見慣れない表示が現れた。
《システム通知》
【世界公認・観測配信者への通達】
同時視聴者数:260,000
『システム来た』
『嫌なやつだ』
『絶対ロクな話じゃない』
《通達内容》
・配信は、世界法則の影響を受けにくくなります
・同時に、世界からの“干渉”も増大します
・安全保証:なし
「……最後」
「さらっと一番大事なの書いてない?」
《全知の神オルメギア》
『要約すると』
『狙われる』
即答やめて。
《魔王ゼル=ヴァルド》
『当然だ』
《戦神バルド》
『力の中心は、常に争いを呼ぶ』
《運命の女神リラ》
『でも……』
『皆、あなたが好きですから』
フォローになってない。
⸻
その瞬間。
配信画面の端が、わずかに歪んだ。
「……?」
ノイズ。
一瞬だけ、別の“視線”を感じる。
《???》
『……観測、確認』
同時視聴者数:280,000
『今の何?』
『空気変わった』
『新キャラ?』
《全知の神オルメギア》
『……注意』
《戦神バルド》
『来るか』
《魔王ゼル=ヴァルド》
『面倒だな』
「ちょっと待って」
「雑談回だよ!? 今日!」
《???》
『世界が一つ、傾いた』
『原因を、見に来ただけだ』
画面が、元に戻る。
何事もなかったかのように。
同時視聴者数:300,000
『来訪者確定』
『世界の外側っぽい』
『次回ヤバそう』
俺は、深く息を吸った。
「……なるほど」
「視聴者層、また広がった感じですか」
『適応力お化け』
『この男、強すぎる』
『メンタルSランク』
俺は、カメラを見て笑った。
「まあ、いいや」
「見たいなら、見てってください」
「ただし――」
「荒らしは、ブロックします」
一瞬の間。
《???》
『……面白い』
その一言だけ残して、気配が消えた。
⸻
俺は、深く息を吐いた。
「……というわけで」
「今日は、この辺で終わります」
「雑談、難しすぎました」
コメントが流れる。
『おつかれ』
『命が重い雑談だった』
『次も見る』
配信終了ボタンに、指を伸ばす。
その直前。
《運命の女神リラ》
『カナトさん』
『今日は……ちゃんと休んでください』
珍しく、弱い声だった。
「……了解です」
配信終了。
⸻
スマホを置いた瞬間、どっと疲れが押し寄せた。
戦争より、雑談の方が疲れるって何。
窓の外、王都は平和だ。
だが俺は、はっきりと感じていた。
――この世界はもう、
「配信を見ていない存在」の方が、少ない。
次に来るのは、敵か。
観測者か。
それとも――世界そのものか。
(第十一話・完)
次回もお楽しみに!




