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異世界で配信してたら神々がスパチャしてきた  作者: default


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10/17

10. 窓


王都は、生きていた。


昨日まで地獄だった城壁の外には、まだ焦げ跡とクレーターが残っている。

だが街の中は――異様なほど、平和だった。


「……おかしくない?」


俺は王城のバルコニーから、王都を見下ろしていた。


人々は働き、笑い、酒場は朝から開いている。

まるで昨日の戦争が、夢だったかのように。


同時視聴者数:112,000


『人間って切り替え早いよな』

『神話の翌日に通常営業』

『これが文明』


文明、強すぎだろ。




「カナト殿」


背後から声をかけてきたのは、エイリンだった。

鎧ではなく、簡素な正装姿だ。

なぜか少し頬を赤らめている。


「国王陛下がお呼びです。……また、正式な場で」


「またか……」


昨日から、これで何度目だ。


王都防衛の英雄。

神と魔王を繋いだ観測者。

神話の中心人物。


――正直、荷が重すぎる。


『逃げられないぞ』

『立派な祭り上げ枠』

『政治利用確定』


やめて、現実を突きつけないで。




謁見の間。


国王は、玉座ではなく、階段の途中に立っていた。

昨日よりも、ずっと疲れた顔をしている。


「……灰原カナト」


「はい」


「余は、恐れている」


直球だった。


「神と魔王が、同時に肩入れする人間が現れたことを」


場が、静まる。


同時視聴者数:115,000


『王、正論』

『そりゃ怖い』

『でも手放せない』


「王都は救われた。国も救われた」


王は、俺を真っ直ぐ見た。


「だが、世界は――まだだ」


その瞬間。


スマホが、震えた。




コメント欄が、急激に流れ始める。


《海神ネレウス》

《砂漠王アシュ=ラーム》

《天輪評議会・観測官》

《精霊王イリシア》


……名前が、重い。


「ちょっと待って」


「視聴者層、急に変わってない?」


同時視聴者数:130,000


『世界級存在、続々』

『格が違う』

『もはや神様の寄り合い所』


《海神ネレウス》

『陸の戦、実に見事だった』


《精霊王イリシア》

『あなたが“揺らぎ”ですね』


《天輪評議会・観測官》

『正式に確認したい。あなたは中立か?』


空気が、重くなる。


国王も、エイリンも、何も見えていない。

この会話は、俺と世界の上位存在だけのものだ。


「……中立って?」


俺は、正直に聞いた。


《天輪評議会・観測官》

『神にも、魔王にも、属さぬ立場だ』


『……選べ』


同時視聴者数:150,000


コメントが、荒れる。


『来たな選択肢』

『ここで陣営選ばせるやつ』

『でも選ばないのがカナト』


俺は、スマホを持つ手を、少しだけ強く握った。


「……俺は」


一拍。


「配信者です」


静寂。


「どっちの味方かとか、よく分かんないです」


「でも――」


カメラを、正面に向けた。


「俺が死んだら、皆さん困るでしょ?」


コメントが、止まる。


次の瞬間。




《戦神バルド》

『困る』


《魔王ゼル=ヴァルド》

『非常に困る』


《全知の神オルメギア》

『観測不能になる』


《運命の女神リラ》

『絶対に嫌です』


《天輪評議会・観測官》

『……』


《天輪評議会・観測官》

『了解した』


《天輪評議会・観測官》

『あなたを――』


《天輪評議会・観測官》

『「世界公認・観測配信者」と認定する』


「……何それ」


同時視聴者数:180,000


『称号きた』

『世界公式配信者』

『もう戻れない』




王が、ゆっくりと口を開いた。


「……余には分からぬ会話だ」


「だが一つだけ、確信している」


王は、深く頭を下げた。


「この国は、そなたを守る」


エイリンも、膝をついた。


「騎士団は、あなたの盾です」


……重い。


重すぎる。


俺は、スマホを見て、ため息をついた。


「……えーと」


「次の配信なんですけど」


「戦争はちょっと疲れたので――」


「しばらく、雑談回にしません?」


同時視聴者数:200,000


『草』

『世界救った後の雑談』

『逆に見る』


《魔王ゼル=ヴァルド》

『許す』


《戦神バルド》

『酒を用意しろ』


《運命の女神リラ》

『ゆっくりしましょう』


王都の空は、穏やかだった。


だが俺は、理解していた。


――もう、この配信は

世界を映す“窓”になってしまったのだと。


(第十話・完)


次回もお楽しみに!

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