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桜が咲くころには

4月が嫌いだ。

いつの頃からかは覚えていない。

きっと新しい生活をスタートさせる人たちを目にすることが増えるからだろう。

体に馴染んでいない学生服やスーツ姿の人を見るたび、

自分にもあったはずの初々しい姿がキラキラしていて眩しい。

人生これから! それが羨ましくて嫉妬してしまう。


私の人生、この先どうなるのかはある程度想像がつく。

家の事、仕事の事。

淡々と過ぎていく日々。

職場の空気が悪くて、どんどん人が減っていき仕事量は増すばかり。

親の急速な老化に伴い、病院の付き添いで終わる休日。

年齢を重ねるごとに一人で抱えるものが多くなり過ぎた。

それを誰かと分け合うこともできない。

なにかを手放したい。

でも、手放してしまった後始末は誰がするのだろう?


自由になりたい。でも、不安定にはなりたくない。

不自由だけど安定した毎日を選んでしまっている自分に嫌気がさす。

誰かに「助けてほしい」と素直に言えたらどんなに楽だろう。

そんなことをグルグルと考えては、闇に飲まれ心をすり減らす夜。

眠りにつく前に「どうか朝がきませんように」と願っても、

私の願い一つで地球が動きを止めることはない。

また朝が来て会社へ向かう車の中、泣き叫びたくなる衝動をぐっと堪え、深呼吸をする。


今日、私の前をパトカーが走っていた。

その後ろについて車を走らせていると、横断歩道で黄色い帽子を被った小学生たちが信号待ちをしているのが見えた。

そのうちの1人が通り過ぎるパトカーに気付き、敬礼をした。

背筋をピンっと伸ばし、満面の笑みを浮かべて。

その姿に胸がぎゅっとなる。


情緒不安定…。

暖かくなったと思ったら雪が降るほど寒い日もある3月に身体と心が上手く馴染めていないのだろう。

もうすぐ桜が咲いて、一時の淡いピンク色の世界を目にすれば少しは落ち着くかもしれない。

もう少し、あと少し…。

ここを乗り越えれば、きっと大丈夫。


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