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第一の死

俺「天道一馬」

母「天道静香」

父「天道悟」

姉「天道風花」

支援員「花田実」

(なんだ?身体が…熱い?まずい!なにかまずい!)

オギャアオギャア!

姉「あぁ泣いてる可愛い〜」

看護師が走っている音が聞こえる。

(死ぬ!誰か…いないのか…)

......

............

(ん?目が覚めた?なんだ?体が熱い…あぁ可愛いな、この人…)

手術室で麻酔を打たれて眠りに落ちていく中、看護師の声が聞こえる。

看護師A「大丈夫!大丈夫だからね!」

看護師B「あぁ!

まずいよどうしようどうしよう!

このままじゃ死んじゃう!」

......

............

月日は流れ、俺は2歳になった。

担任「ほら、起きて、起きなさい!」

(随分と荒々しい真似してくれるじゃねえか。ちくしょう。)

「起きました!」

「遅いわよ!」

支援員(花田)「あとは私がやっときますから、先生は他の子の面倒を見といてください。」

「しっかりやりなさいよ!」

「おはようございます、先生。」

「おはよう一馬くん。ほらみんなも起きる時間だから、一馬くんも起きようね。」

「はい。」

「素直でいい子だね〜。」

頭を撫でてくる。優しい手つきだった。いつか先生と結婚したいとさえ思っていた。

帰りの時間になる。

母「あぁ!どうもどうもいつも一馬がお世話になっております〜!」

支援員(花田)「いえいえ。私の方なんて一馬くんに支えてもらってばっかりで!」

「あら、そうなんですか?ハハハハハ。」

(つまらない会話だ。早く帰りたい。)

担任「あ、天道さん。いつもわざわざ来ていただきありがとうございます〜。一馬君もね、1人で帰れるようになればいいんですけどね〜。」

(ふざけているのか?正気で言ってるなら知能の低さにがっかりする。とっと違う保育園に通いたいものだな。)

母「えぇ、一馬も今自立に向けてね、リハビリ頑張ってるんですよ!」

担任「あぁ、そうなんですか。」

「ねぇもう帰りたいんだけど。」

支援員「あぁごめんね長かったよね。ほらママのところ行こうね〜。」

母「アハハハハ。失礼します〜。」

車に入る。

母「失礼します。」

俺「先生、さようなら!」


家に帰る途中。

母「家に帰りたいとか言うなよ。甘えてるって思われたら舐められるんだよ。」

車の鏡越しに俺の目を見る。

俺「話が長かったからトイレに行きたくなっちゃって。」

母「あぁ、そうなの?まぁちょっと長かったよね。ごめんね。」

俺「うぅん!ママは悪くないよ!」

母「いい子に育ってるわよね〜一馬。」

(嬉しい。ママ大好き。)


家に帰った。俺は生後4日で重い病気にかかり、その後遺症で両下肢重度後遺症、右上半身重度後遺症、左上半身軽度後遺症、体幹機能全廃をもっている。親に自分の障害のことを聞いても上手くはぐらかされてしまうためあまり聞き出せなかったが、この時点でわかっていたことは、歩けず、右手・腕・肩が動かしにくいということだけだった。

父は消防隊のため3日に1回は家にいない日がある。この日は母が面倒を見てくれる。この日も同じように父がいなかったため母が面倒を見てくれた。


母が学校で先生をしているため、朝早くに家を出なければならない。そのためいつも送りはヘルパーをつけることになっているのだ。今日もヘルパーである中村さんが車を運転してくれていた。

「一馬くんお母さんに怒られたりしないの?」

「怒られることはありますが、それは自分のことを思ってくれてのことなので、悪く思うことはありませんよ。」

「一馬くんってほんとに立派よね〜。私の娘なんてそんなこと絶対に言わなかったわ。…一馬くん何か嫌なことがあったらお母さんでも私でもいいから言うのよ?分かった?」

「はい。ありがとうございます。」

(何かに勘づかれたか?やはり優秀だな。私も感じている。あそこの保育園の連中は何かがおかしい。)

もっとも、比較対象が無い分何がおかしいのかすらも分からなかったのだが。

(あの車の鏡の角度が毎回私の目線と一致するようになっている。家から出た時に会えて体を曲げてこちら側の座席に向かう時に運びにくくしたはずだが…わざとこの座席につかせたんだな。監視されている。面倒だな…障害者の人生というのは。自由が欲しい。)


ある日家で夕飯を食べている時に母が話始めた。どうやらヘルパーがあの保育園はおかしいと言い始めたらしい。

(前々から気づいていたのに今まで言ってなかったんだな。ということは今回、その証拠を掴んだんだな。)

案の定母の口から飛び出した言葉は俺の予想通りだった。


この保育園は2~5歳の子に与えるべき栄養素をちゃんと摂らせていない。しかも教師に逆らった生徒はお昼休みの時間に別の部屋に連れ込まれ、そこで暗い中一人で寝ることになる


ということだった。

(やっとこの保育園から抜け出せるのか!)

俺は期待と同時に今まで束縛されてきた屈辱から開放されるという喜びを感じた。

しかし!

事は簡単には終結しなかった。

光がカーテンを突きぬけ、今まさに清廉潔白な幼児のまぶたに当たろうとするときだった。俺はふと目を覚ました。玄関の前に支援員が立っており、母の泣いている声が聞こえる。

母「どうして???一馬が、一馬が何かしたって言うんですか?あの子はいつも保育園に行きたくないって言いながらすごく頑張ってるんですよ!?」

支援員「はい、それは私もよく分かっています。」

「じゃあどうしてこんなことになるんですか!?私花田さんは大丈夫だ、何か変に思ったこともあったけど花田さんがいるから大丈夫かなって思ってたんですよ!?……どうしてこんなことになっちゃったんですかね。一馬が…一馬が悪いんですか?」

「いえ、それは違…それは違います。私の責任です。」

「私のって…でも花田さんもそれって被害者ってことなんじゃないんですか?はぁもういいです。一馬起きてるのかな。一馬ぁ?一馬起きてる?」

(今起きていく訳には行かないな。わざわざ勤務時間外に支援員が動くとは考えにくい。ここに来ているのは支援員としてではなく、花田実としてここに、私の家に来ているんだな。まして、母が人前で泣いているのだから、両者ともにこの状況は望んでいなかったということだろう。ならば何も知らない無邪気な私を見て、支援員はひどく後悔し、母は母親としての責務、つまり子供を安心させようと自分の感情を押し殺すことになる。今ここでそれをすれば、両者ともに一生消えない心の傷を残すことになるだろう。だから俺は寝ていることにする。)

どうやら終わったようだ。俺はそっと間を開けてからドアを開ける。

「おはよう〜。」

できる限りいつもの雰囲気を醸し出す。

「あ、一馬…聞いてた?さっきの話?」

「ん?なんのこと?」

「一馬、お母さんがいるから大丈夫だからね。」

真剣な眼差しでこちらを見ているのを確認し、俺はできる限り期待していない雰囲気で返事をする。

「うん。」

母が駆け寄り俺に抱きついてきた。今思えば、抱きついたと言うよりかはしがみついてきたのかもしれない。その時俺は、ちゃんと期待していない雰囲気を出せていなかったのかもしれないという焦りとともに、何かわからない悲しみが込み上げてくるのを感じた。


後日話を聞いた。

どうやら支援員が自分の子供を抱いた時に出来た腰痛を、私を抱いた時に出来た腰痛だと偽り、違法に補助金を手に入れたらしい。しかも、支援員が園長に腰痛でしばらく休むと連絡を入れた際に、園長から

「一馬くんを抱いてそうなったって言いなさい。そうすれば補助金が出るから。」

と言われ、支援員は断ったが園長に睨まれたのが怖くて引き受けたらしい。

俺は悲しみと同時に、大人、特に教師というものが嫌いなった。ただそばにいた者が、昨日まで私をあやして寝かしつけてくれた、あの優しいて付きで私の頭を撫でてくれた者が突然消えることが嫌で仕方がなかったのだ。もっとも、この事件が起きたのは4日前であったから、私の頭を撫でてくれた直近の3日間は既に実行に及んだ後であった。私は人が信用出来なくなった。それと同時に、金なんぞという、所詮、人が人を支配するために作った金属ごときに踊らされる大人が大嫌いになった。数ヶ月も付き合ってきた人間関係を金や法律によって引き裂くことに。


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