合同の出し物
文化祭の準備が佳境に入り、クラス全体で計画が具体的に変わっていく中で、僕はふと気になったことを松浦さんに聞いてみた。
「ところで松浦さん、君のクラスは何をするの?」
松浦さんは胸を張りながら自信満々に答えました。
「1年B組は展示をやる予定なんですけど、準備は男子にお任せしました!」
「え、任せて……みんなはどこにいるの?」
「はい! 私たち女子の数名で2年C組を全力でサポートしようと思ってます!」
そのあまりにあんまりな宣言に、僕の思考は止まった。
「いいわね、彩花ちゃん!その情熱、素晴らしいわ!」
「ありがとうございます、由梨先輩!」
「いやいやいや、君のクラスは大丈夫なのか?」
僕は恐る恐る尋ねると、松浦は笑顔で答えた。
「大丈夫です! 男子たちも私が頼んだら『女子が手伝いに行くなら、俺たちがやってやる』って快く引き受けてくれると思うので!」
「……それ、本当に大丈夫なの?」
数日後、松浦さんの言う通り、1年B組の女子数名が僕らのクラスに手伝いに来た。
「あの、村瀬先輩、これどうしたらいいですか?」
「あ、天城先輩! これ、ちょっと教えてくれませんか?」
1年女子たちは完全に村瀬君と遼に集中していた。 考えるてみればこうなるのは当然の流れなのだ。
「おい悠斗、これ何とかしてくれよ!」
遼が何か言っている気がしたが気にせずに作業に取り組むことにした。
村瀬君には申し訳ないが適材適所というやつだ
その結果、1年女子の面倒はほとんど村瀬と遼に丸投げされ、2年C組の他のメンバーは自分らの作業に取り掛かることにしていた。
そんな混乱の中、生徒会から「文化祭における1年生と2年生の合同出しの推奨」という新たな方針が伝えられた。
「1年生と2年生が協力して出し物を行うことで、学年を超えた絆が生まれる。それで、文化祭がより盛り上がるでしょ?」
生徒会室でそう説明する先輩の言葉に、僕は思わず口を挟んだ。
「それでも、それだと準備が余計に大変になりますよね?お互いの意見がぶつかったりとか……」
「それも学びだよ、三崎くん。どんな困難にも立ち向かっていく経験が、君たちの成長につながるのだよ」
またまた「学び」の一言で片付けられる。
生徒会の方針その後、1年B組と2年C組が合同で出し物を行う話が急いで進められた。 そして合同案を進める中心メンバーとして、僕と松浦さんが選ばれた。
「やっぱり三崎くんがリーダーになるべきよ!」
「松浦も一緒にやってくれるなら大丈夫だろ?」
遼は肩で笑っている。
「いやいや、無理だって……」
それでどうにかしようとした僕の言葉を隠すように、松浦さんがキラキラした瞳で言った。
「三崎先輩! 一緒に最高の出し物を作りましょう! 私、全力でサポートします!」
「……分かったよ...」
まず、私は暫定的に強制的に合同出し物のリーダーとなり、松浦さんとの共同作業が始まった。
文化祭の合同出し物として、1年B組と2年C組で劇を行うことが決定した。 テーマは「王子と魔法使いの冒険譚」という、シンプルな物語だ。作るといえば、早くも火種が生まれ始めていた。
「主役の王子先輩は、三崎先輩が適任だと思います!」
そう提案したのは、松浦さんだ
「えっ、僕が?」
突然のことに、僕は戸惑うばかり。
「当然よ!」
松浦さんは熱心に続けた。
「いや、僕そんなんじゃないけど……」
その時、1年B組の女子たちが口を開いた。
「ちょっと待って! 王子役は、村瀬先輩か天城先輩じゃない? どう考えても!」
1年女子たちは、声を認めて主張する。
「村瀬先輩はサッカー部のエースで超カッコいいし、王子役にはぴったりだよね!」
「天城先輩だって、あの明るいさと存在感で絶対に映えるし!」
その言葉に、松浦さんが即座に言った。
「でも、村瀬先輩や天城は『主人公』じゃありません! 主人公は三崎先輩です!」
「えー、どう見ても天城先輩の方が主人公っぽいじゃん!」
「それなら村瀬先輩の方が良いって!」
1年女子たちと松浦さんの間で言い争いが起こる中、教室は次第にざわつき始めた。
主役を決められそうになっている村瀬君と遼は、それぞれ異なる反応を見せていた。
「いやいや、俺、そういうの得意じゃない……」
村瀬は慎重に手を挙げて言うが、1年女子は意に介さない。
「大丈夫ですよ、村瀬先輩! 先輩がやるだけでみんな喜ぶから!」
一方、遼はニヤニヤしながら僕の肩を戦ってきた。
「悠斗、お前の人気が足りないのが原因なんだ! 一応、俺が主役やってるのもいいけどさ?」
「いや、そんなこと言ってる場合じゃないだろ!」
「でも、今回はどう考えても無理があるだろ?」
遼は残念そうに言い放った
「俺らの件で言い争ってるんだ今俺らが口出しても聞く耳もたないだろ」
その通だがこのままでは…
状況が収拾しない中、教室の中央で、一条さんが手を挙げた。
「ちょっとみんな、聞いて!」
その声に場が静まり返る。 一条さんは微笑みながら、落ち着いた口調で話し始めた。
「確かに、王子役は重要だよ。でも、この劇は“主役”が一人じゃないのがポイントじゃない?」
「……どういうこと?」
1年女子たちが疑問の声を上げる。
「この物語では、王子だけじゃなくて魔法使いの冒険を助ける仲間たちも主役やなの。だから、主役は全員だよ!」
「でも、やっぱり王子が一番重要じゃん!」
1年女子が反論するが、一条さんは冷静だった。
「たしかに王子役は単独で目立つけど魔法使い達の方は仲間の友情や絆が鍵になってくるの」
なんだか雲行きが怪しくなるの感じつつ僕らは見守る事しかできなかった
「つまり魔法使いたちの“仲の良さ”を劇を通して見ることができるのよ!」
その一言を境に1年女子たちはしばらく悩んでいた
「それでは、王子には三崎くん、魔法使いは天城くん、そして魔法使いの仲間に村瀬くん。この配役にするよ!」
「それって……」
「そうすれば、みんなが見たいものが見れるんじゃない?」
1年女子たちも「まあ、それなら……」と納得し始める。
結局僕らは見ていることしか出来なかったことも一条さんの「ヒロイン力」によって教室は再び落ち着きを取り戻した。
文化祭の出し物としてその趣旨をいれるのはどうかと思ったがこの場が治まったし気にしないでおこう
最終的に、主役の王子役は僕、魔法使い役は天城遼、冒険の仲間役は村瀬が担当することになった。 そして、劇のヒロインである「王女」役には松浦さんが立候補し、これはすんなり決まった。
「彩花ちゃん、ヒロインとして頑張ってね!」
一条さんが笑顔でエールを送った。
「はい、由梨先輩! 私、由梨先輩みたいな完璧なヒロインを目指します!」
その続きを横目で見ながら、僕はため息をついた。
「……これ、また振り回される未来しかないんだけど」
「悠斗、覚悟しと覚悟! 王子役なんだから、劇でも主人公ムーブ決めなきゃな!」
遼が肩を攻めてくる。
「主人公ムーブって何だよ……」
その日の放課後、生徒会副会長の西園寺先輩が、劇の準備を進めていく途中の様子を見に来ていた。 先輩は一通り状況を確認したあと、僕に近づいてきて意味深いな笑みを浮かべた。
「三崎くん、合同の出し物も上手く進んでいるみたいね。やっぱり、あなたにはリーダーの素質があるわ」
「いや、たのまとめは一条さんで……」
「謙虚半分。恥ずかしがらなくてもいいのよ。文化祭が終わったら、生徒会の活動にも少し顔を出してもらおうかな」
「えっ、生徒会……?」
「もちろん、まだ検討段階だけど。あなたの才能を活かせる場が広がるのは良いことよね?」
先輩の笑顔に、僕は何も言えなかった。