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ライバル登場

ねえ、三崎くん。今度の体育祭でクラスの応援リーダーをやらない?」

 一条さんが放課後の教室でそう切り出してきたとき、僕は絶句した。

「……はあっ!?」

思わず声が大きくなり、周りにいた数人のクラスメイトたちがこちらを振り向いた。一条さんは全く動じずに、にっこり微笑む。

「クラス全体をまとめる存在になれば、三崎くんの魅力がもっと引き出されるわ! これはヒロインの私が保証する!」

「いやいやいや、無理だよそんなの! 僕にリーダーなんて絶対無理!」

「そんなことないわよ。むしろ三崎くんだからできるの!」

自信満々に言い切る一条さんの言葉に、僕はただ頭を抱えるしかなかった。その横から、いつものように天城遼が口を挟む。

「いいじゃねえか、悠斗。お前がリーダーになったら、俺が全力でサポートしてやるよ!」

「ちょっと待て、勝手に話を進めないで!」

僕の抗議はあっさりと無視され、二人の勢いだけで話が進んでいく。


「ねえ三崎くん、考えてみてよ。今のクラス、ちょっとバラバラじゃない?」

一条さんは真剣な表情で僕を見つめた。その顔を見ていると、なんだか逆らいにくくなる。

「それは……まあ、そうかもしれないけど」

「でしょ? だから、誰かが中心になってクラスを一つにまとめないといけないの。天城くんでもいいけど、それだといつもと変わらないじゃない?」

「いや、むしろ遼がやったほうが……」

「違うのよ! 三崎くんみたいな、普段は静かな人がやるからこそ、みんなが注目してくれるの!」

「いや、それただのいじめじゃ……」

「そんなことないわ。私が保証する!」

一条さんの熱意に圧倒されて、僕は返す言葉を失った。その時、遼がニヤニヤしながら肩を叩いてきた。

「悠斗、ここは腹をくくれ。お前がやらないと俺らが困るだろ?」

「……なんで遼までそんなこと言うんだよ」

「だってさ、ヒロインがここまで言うんだぞ? これ、完全にフラグじゃねえか!」

「……意味わからない……」


翌日、一条さんの言葉を受けて、僕が体育祭の応援リーダーをやることがクラスに発表された。もちろん、僕自身は全く乗り気じゃなかったけれど、一条さんと遼に押し切られる形で無理やり決まってしまったのだ。

「え、三崎が応援リーダー? 本気?」

「なんでまた……でも、ちょっと面白そうじゃない?」

クラスメイトたちは驚きつつも興味津々な様子だった。その反応に、僕は胃がキリキリと痛むのを感じた。

(……これ、絶対に失敗するやつだ)

そんな風に思っている僕を横目に、一条さんはクラスメイトたちに笑顔で呼びかけていた。

「みんな、三崎くんを応援してあげてね! 私たちのクラスが一番になるためには、団結力が必要なんだから!」

その姿は堂々としていて、まるで本当に「ヒロイン」みたいだった。


放課後、遼が僕の隣にやってきた。

「なあ悠斗、俺にいいアイデアがあるんだけどさ」

「……嫌な予感しかしないんだけど」

「まあまあ聞けって。どうせお前、みんなの前で何を言えばいいか分かんねえだろ?」

「それは……そうだけど」

「だったら、俺が考えてやるよ! クラスのみんなのテンションが上がるようなスピーチをな!」

遼が自信満々に言うのを聞いて、僕はため息をついた。嫌な予感はするけれど、この状況では彼の力を借りるしかない。


その日の帰り道、一条さんがふいに僕に話しかけてきた。

「三崎くん、どう? 少しはやる気出てきた?」

「いや……まだ全然。正直、怖いよ」

「大丈夫。三崎くんならできるって、私が保証するもの」

「……その保証、信用していいのかな」

一条さんは少しだけ笑って、それからこう言った。

「だって、私はヒロインだもの。ヒロインは、いつだって主人公を支えるんだから」

その言葉を聞いたとき、胸の奥に何かが引っかかった気がした。一条さんの「ヒロイン」という言葉には、どこか強い信念が込められているように感じたからだ。

(……一条さんって、本当は何を考えてるんだろう)

その疑問は、これからの僕の日常をさらに大きく揺るがすきっかけとなる――。

体育館での練習会議で、1年生リーダーとして紹介されたのは、1年B組の朝倉隼人だった。 彼は少しおどおどしながら自己紹介をしていましたが、その様子を見た一条さんが僕に興奮気味に囁かれ続けた。

「ほら、三崎くん!あの子、間違いなく『地味だけど芯のあるタイプ』よ!」

「いや、それはただの地味な人なんだよ……」

「違うわ! 1年生で応援リーダーをしているなんて、絶対何かあるに決まってる!」

僕が冷静にツッコミを入れる間もなく、天城遼がさらに調子に乗り始めた。

「悠斗、これは完全に運命だな! 君と同じくモブキャラの殻を破ろうとしているんだ! ライバルって奴だ!」

「だから、競争なんかしないってば……」

自分のデフォルトはいつも無視され、話がどんどん進んでいく。こうして、1年生の朝倉隼人が「ライバル」として勝手に認定されることになった。


翌日の昼休み、体育館の前で偶然朝倉隼人と話した。 彼は僕を見ながら、少しだけ緊張した様子で声をかけてきた。

「えっと……三崎先輩、ですよね?」

「……あ、うん。そうだけど」

「この間の会議で、同じ応援リーダーだって聞いて……その、よろしくお願いします!」

その様子が妙に恐縮しているのを見て、私は何と言えばいいのか分からない。

「よろしく……って、僕もそんな大事なことはしないけど」

「僕もです!とりあえず、みんなから勝手に推された感じで……こういうの、得意じゃないんです」

「……わかりる。それ、すごくわかるよ。」

僕と朝倉くんの間は、なんだか親近感が流れた。


こんなに穏やかな会話をしている前に、天城遼と一条さんが勢い良く現れた。

「悠斗、早速ライバルと接触してたのか!」

「すごいわ、三崎くん! バチバチに火花散ってたんじゃない!」

「……いや、全然そんなことないけど」

僕が訂正しようとするも、二人の熱意には勝てない。 遼はニヤニヤしながら朝倉くんに手を差し出した。

「お前が朝倉隼人だな! 俺たちの、悠斗のライバルってわけだ!」

「え、えっと……ライバルって?」

朝倉くんは戸惑いながら僕を見ている。 僕は「いやいや、違うから」と迷って否定する。

「遼が勝手に言ってるだけで、別に……」

「いいや、悠斗。こういうのは大事なんだよ!」 遼が肩を叩きながら続ける。

「それ、完全に君が盛り上がりたいだけだろ……」

「まあ、それは大丈夫として!」一条さんが話を引き取るように声を上げた。

「えっ……ありがとうございます?」

朝倉くんは無理した表情をやめていたが、これ以上のことはやめて、しばらく一緒に話を進めることになった。


その後、体育祭に向けた練習が本格化していく中で、朝倉くんの存在は意外と大きな影響を与え始めた。

1年生みんな「朝倉リーダーが頑張ってるから!」と興奮する様子を見て、僕は少しだけ焦りを感じた。

(……僕も、もっとちゃんとやらないとダメなのか)

そして、天城遼と一条さんは、僕と朝倉くんを勝手に競わせようと、ますます騒がしくなるのだった。

「悠斗、次は絶対に朝倉に負けるなよ!」

「三崎くん、一緒に頑張ろうね! 私がヒロインとして全力で応援するから!」

二人の勢いに巻き込まれつつも、僕は「地味中の応援リーダー」という立場で、少しずつ前に進んでいることになる――。


体育祭の練習が本格化する中、僕と朝倉くんは、それぞれ自分のクラスでリーダーらしく舞おうと頑張っていた――というより、押し流されていたと言った方が正しいかもしれない。

私は天城遼と一条さんに背中を押され続け、朝倉くんは1年生たちの期待に応えようと必死になっている。


放課後、体育館で練習の打ち合わせをしていると、クラスメイトの一人、村瀬が僕に話してくれた。

「あの、三崎。案外リーダー向いてるんじゃないの?」

「えっ……何でそう思うの?」

「いや、意外とみんな、あんたの指示ちゃんと聞いてるしさ。それで、あなたが頑張ってると、他の奴らもやる気になるみたいぞ」

「……そうなの?」

僕は信じられない気持ちで周囲を見回した。

(……これ、一条さんと遼が前向きな僕を前に出してから、なのかな)

心の中で少しだけただひたすらに感謝しながら、僕は覚悟を決めた。


いつかの昼休み、僕は買ってパンを買った帰りに、体育館の前で朝倉くんとばったり会った。 彼は手にバスケットボールを持って、少し疲れた顔をしている。

「あ、三崎先輩……こんにちは」

「朝倉くん、練習してたの?」

「はい。何かしてると、1年生たちは僕を頼ってくれるのに応えれていない気がして……」

彼の言葉には責任感と少しの不安が滲んでいた。その気持ちが痛いほどわかっている僕は、思わず言葉をかけた。

「無理……無理でもいいんじゃないか。僕も同じだけど、気負わなくても、みんな勝手について来てくれよ。たぶん」

「そうですね……でも、三崎先輩ってすごいですよね。同じ2年生でも、他のクラスの人たちとも話題になってますよ」

「……僕が?」

朝倉くんの言葉に驚いていると、彼は続けた。

「僕も、ああいう風になったら……」

「いやいや、僕なんてそんな大したことないよ!」

全力で否定しようとした僕を、一条さんの声が遮られた。

「それは違うわ、三崎くん!」

突然現れた一条さんが、いつもの勢いで僕と朝倉くんの間に割り込みました。



「いい? 三崎くんも朝倉くんも、それぞれのクラスを引っ張るリーダーなんだから、自信を持たなきゃダメだよ!」

「そうだぞ、悠斗! お前と朝倉がぶつかり合うことで、さらにクラス全体が盛り上がるんだからな!」

「……だから、ぶつかり合うってなんだよ」

「だって、体育祭の本番で、どっちのクラスが勝つか競うなんて熱いじゃねえか!」 遼が拳を突き上げて叫ぶ。

「いや、ただの体育祭だから……」

一条さんはさらに畳みかけるように言います。

「でもね、三崎くんと朝倉くんの勝負が注目されるのは間違いないわ! これをきっかけに、もっと大きなステージに立つ準備をしなきゃ!」

「大きなステージって何……?」

私が頑張っている間に、遼と一条さんは勝手に「モブキャラ同士の熱い戦い」をクラス全体に広める計算フェーズを始めていた。


ちなみに、僕と朝倉くんは、遼と一条さんの暴走に巻き込まれる形で「モブキャラリーダー同士の対決」をクラスや学年全体に知られることになってしまった。

「さあ、これからどうしようかな……」

帰り道、僕は朝倉くんと歩きながらつぶやいた。

「わかりませんけど……まあ先輩なら、なんとかなる気はします」

その言葉を聞いて、私も少しだけ笑った。

(……確かに、どうなるかわからないけど、ここまで来たらやるしかないよな)

体育祭本番の日が待ち構えている中、色々な騒ぎが楽しい日々は、さらに大きな展開を迎えようとしていた。

 体育祭当日、校庭は朝から熱気に包まれていた。青空の下、各クラスが色とりどりのユニフォームや応援旗をしっかりと、競技への興奮を見せている。

一条さんが中心になって作った応援グッズや横断幕は派手で、天城遼が考えた応援コールはクラス全員がすぐに珍しいぐらい簡単でノリが良かった。

「よし! 2年C組、いっちょやってやろうぜ!」

遼が大きな声でついでに、クラスメイトたちから「おー!」と声が上がる。

「三崎くん、今日こそ主人公らしく頑張りましょうね!」

「……いや、主人公って言われても」

一条さんの期待に押されながらも、僕はなんとなく気を奮い立った。


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