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私がヒロイン

由梨さんの「だって、私がヒロインだからよ!」という言葉を思い出しながら、私はその日の帰り道を歩いていた。隣にはもちろん天城遼。

「で、悠斗。由梨さんに何か言われたのか?」

「別に……普通に頑張って言われただけ」

「そっちな、そんなんじゃ話が進まねえぞ!ガツンと行けよ。『ありがとう、君がヒロインで助かったよ』とか言ってとけ!」

「そんな、死んでも言いたくないよ……」

遼は肩をすくめて、「悠斗はちょっと地味だな」と笑い飛ばした。その明るさがちょっと羨ましくもあるけど、正直疲れる。

(由梨さんも遼も、なんであんなに自信満々なんだろう)

僕はふと、そんな疑問を抱いた。でも、次の瞬間にそれを考えるのが当然だと思う。


翌日、朝のホームルームが終わる頃に、由梨さんが僕の机まで見せた。 教室中の不安がこっちに集まっているのを感じて、僕は心臓が跳ねるのを抑えられなかった。

「三崎くん、今日も一緒に頑張ろうね!」

「え、今日も……?」

「もちろんよ! ヒロインとしての使命は続くものなの!」

使命ってなんだよ、とツッコミたいな気持ちを抑えつつ、僕はため息をついた。これ以上のは嫌だ。でも、彼女の勢いに逆らうのも難しい。

そこで、待ってましたと言わんばかりに同盟者が割り込んできた。

「おい由梨さん、今日は俺も一緒にやるぜ!」

「天城くん! 心強いわ!」

「? 俺に任せてって! 悠斗の面倒見るのは得意なんだよ!」

「いや、別に面倒見てほしいなんて頼んでない……」

僕が小さな声で言うを、遼も由梨さんも完全に無視して話を進めていた。


昼休み、また由梨さんの「ヒロイン活動」が始まりました。今日は「ペアで質問ゲームをして仲を深める」という企画らしい。

「三崎くん、私はあなたとペアになってあげるからね!」

「……あげる、って……」

由梨さんはそうに微笑む、僕はただの罰ゲームにしか感じられなかった。

「おーい、悠斗! しっかりしろよ! ヒロインとペアだぞ!」

遠くから視線が集まってくる。

(……本当に、こんなことになってどうしよう)

僕が内心で泣きそうになりながらゲームに参加していると、クラスの中心グループの一人、村瀬が返答してきた。

「あの三崎、最近よく由梨さんと一緒にいるけど、どういう関係なんだ?」

「えっ、いや、別に……」

「別に?でも、あんな美人と仲いいなんて、ちょっと羨ましいよ」

(やっぱりそうなるよな……)

結局僕の目立たない日常は、徐々に壊れてしまった。


その日の放課後、活動の片付けを手渡されている僕に、由梨さんがぽつりと話しかけてきた。

「三崎くん、最近どうしたの? 楽しくなってきた?」

「楽しいっていうか……疲れただけなんだけど」

「そっか。でもね、私は信じてるの」

「……何?」

「モブキャラだって、きっかけがあれば変われるってこと」

彼女の言葉には不思議な説得力があった。 まるで、自分がその「きっかけ」になることに使命感を感じているみたいだった。

「三崎くんも、変われると思うよ。私が保証する!」

由梨さんはそう言って笑った。その笑顔を見て、私は続ける気力を我慢した。


帰り道、遼が僕の肩を叩きながら言った。

「なあ悠斗、お前気付いてるか?」

「何を?」

「お前、けっこう面白い人生になってきてるぞ。これ、完全にラノベだろ!」

「……そんなわけないだろ」

僕は呆れたように返したけど、遼の言葉は止まらなかった。

「いやいや、マジでそうだって。ほら、ヒロインの転校生が現れて、お前の平凡な日常が崩されていく……これって序章だろ。絶対、何か大きなことが待ってるぜ」

「大きなことって、例えば?」

「例えば……そうだな、クラスでの立ち位置が変わるとか、誰かに必要とされる存在になるとか。お前が主人公になる日が来るってことだよ!」

「……僕が主人公?」

その言葉に、僕は思わず立ち止まった。主人公なんて柄じゃない。僕は目立たないモブキャラのまま、何も変わらず生きていくと思っていた。

「まあ、最初は信じなくていいさ。でもな、悠斗。俺が言いたいのはこういうことだ――人生ってのは、時々とんでもない展開があるから楽しいんだよ」

遼の言葉はいつもの調子で軽いものだったけど、不思議と胸に引っかかった。


翌朝、いつもと違うクラスの空気に気付いた。教室のあちこちでヒソヒソと話し合う声が聞こえる。ちらちらとこちらを見ている視線も気になる。

「な、なんだろう……」

僕が居心地悪く椅子に座っていると、由梨さんが明るい声で話しかけてきた。

「三崎くん、大人気ね!」

「は? 何の話?」

「ほら、昨日の質問ゲームで、三崎くんがいっぱい答えたからじゃない?」

僕はその言葉に呆然とする。昨日の「質問ゲーム」は一条さんの無理やりな押しで、僕が不本意ながらクラスメイトと何度も会話させられたイベントだ。

「そんなことで……?」

「そんなこと、なんて言っちゃダメよ! モブキャラが目立つきっかけって、こういう小さいことの積み重ねなんだから!」

一条さんは胸を張ってそう言い切った。

「それにね、私の計画はまだまだこれからよ! 三崎くんが、クラスで一番目立つ存在になるまで頑張るから!」

(いや、そんなこと望んでないんだけど……)

僕は心の中でツッコミを入れるのが精一杯だった。


昼休みになると、遼がにやにやしながら僕のところにやってきた。

「なあ悠斗、聞いたか?」

「何を?」

「お前、昨日のゲームで『隠れた人気者』だって噂になってるらしいぞ!」

「はあ? 何それ……」

僕は困惑するしかなかった。そんな話、聞いたこともない。

「まあ、由梨さんが頑張ったおかげだな。お前、マジで人生の主人公ルートに乗ったかもな!」

「だから、そんなわけないだろ……」

遼は僕の言葉をまるで気にせず、さらにこう言った。

「でもさ、悠斗。お前って実はさ、誰かの“キーパーソン”かもしれないよな」

「……何それ、また適当なこと言ってるだけだろ」

「いや、マジでそう思うぜ。ラノベとかでもさ、モブキャラっぽいやつが実は物語の重要な鍵を握ってたりするだろ? お前もそんな感じじゃないか?」

遼の言葉は軽い冗談のように聞こえたけれど、妙に現実味を帯びていた。その時はまだ、僕自身も気づいていなかった――この言葉が、僕自身の立場や関係性に大きな意味を持つようになるなんて。


その日の放課後、由梨さんが「次のステップ」として提案したのは、クラス全員を巻き込むイベントだった。彼女はこう言った。

「ねえ、三崎くん。今度の体育祭でクラスの応援リーダーをやらない?」

「……はあっ!?」

思わず大声を出してしまう僕に、由梨さんは得意げに笑う。

「クラス全体をまとめる存在になれば、三崎くんの魅力がもっと引き出されるわ! これはヒロインの私が保証する!」

「いやいやいや、無理だよそんなの!」

「無理じゃないわよ。天城くんも協力してくれるって言ってたし!」

「俺? ああ、もちろんだ! 悠斗がクラスの顔になるなら、俺が全力でサポートするぜ!」

「ちょっと待って、勝手に話を進めないで!」

僕の抗議は完全に無視され、気付けば二人の勢いだけで話が決まっていった。

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