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決着

「新・生徒会長は――」


体育館に緊張が走る。

僕たち候補者は壇上に立ち、生徒たちは固唾を飲んで見守っていた。


霧崎生徒会長は、特有の飄々とした笑みを浮かべながら、静かに結果を読み上げる。


「当選者は――神代悠真!!!」


歓声と敗北の実感

「やっぱり神代先輩か!」

「順当な結果だな!」

「でも三崎先輩もよくやったよ!」


体育館が拍手と歓声に包まれる。

生徒たちは納得しているように見えた。

でも――僕の中には、ぐっと何かが込み上げてきていた。


(……負けた、のか)


ここまで必死にやってきた。

“モブ”なりに、僕にしかできないやり方で戦ってきた。


でも――


それでも、勝てなかった。


視界がぼやける。


悔しい。


悔しくて、仕方がなかった。


そんな中、悠真が静かに僕の前に立ち、手を差し出した。


「……いい戦いだったよ、悠斗」


僕はその手を見つめる。


握り返すべきだ。


でも、どうしても手が動かなかった。


「……ああ」


ようやく出てきた声は、驚くほど弱々しかった。


なんとか手を伸ばし、悠真の手を握る。


彼の手は、僕よりもずっとしっかりとした力強さを持っていた。


「負けたよ、僕は」


それだけ言うのが精一杯だった。


悠真は、何も言わずに静かに頷いた。


仲間たちの言葉と、埋まらない悔しさ

壇上から降りると、すぐに仲間たちが駆け寄ってきた。


「悠斗……」

一条さんが、いつもの余裕のある笑みを消し、心配そうに僕を見つめる。


「本当に、よく頑張ったわ」


「三崎先輩……」

彩花ちゃんは目を潤ませながら、言葉を探していた。


「私、先輩が勝つって信じてたから……」


「お前、よくやったじゃねぇか」

遼が豪快に僕の背中を叩く。


「結果は結果だが、お前がここまで来たこと自体がすげえよ」


「……確かにな。お前は最後までやり切った」

村瀬は静かに頷く。


「負けたことを誇れとは言わないが……この経験が無駄だったとは思わない方がいい」


僕はみんなの顔を見渡す。


優しい言葉をかけてくれる。


励ましてくれる。


でも――


この悔しさは、僕にしか分からない。


その後、霧崎生徒会長に正式に呼び出された。


「三崎悠斗」


彼は飄々とした笑みを浮かべながら、僕に言った。


「負けた気分はどうだ?」


「……最悪ですよ」


僕は正直に答えた。


霧崎先輩は、クスッと笑う。


「そうか。でもな、選挙に負けたからといって、すべてが終わるわけじゃない」


「……?」


「悠真くんが生徒会長になったが、学校を支えるのは彼一人じゃない。お前のように、“生徒のそばにいるタイプ”が組織にいた方が、バランスが取れる」


「つまり……俺に生徒会に入れってことですか?」


「そういうことだ」


霧崎先輩は軽く肩をすくめる。


「負けてもなお、学校のために動き続ける。そういう“敗者の強さ”もあるんじゃないか?」


「……すみません」


僕は、ゆっくりと頭を下げた。


「俺は、生徒会には入りません」


霧崎先輩の表情が僅かに変わる。


「ほう?」


「僕は、負けました」


「……そうだな」


「それを受け入れて、次のステップに進むことも大事なのかもしれません。でも、今の僕は――」


(まだ、この敗北を受け入れられない)


「このまま“負けても良かった”みたいな形で生徒会に入るのは……違うと思うんです」


「……なるほどな」


霧崎先輩は、どこか満足そうに頷いた。


「まあ、お前ならそう言うだろうな」


「……すみません」


「謝る必要はないさ。負けて悔しがるのは、何よりも大切なことだからな」


彼はそう言い残し、僕の肩を軽く叩いて去っていった。

放課後、僕はひとり、誰もいなくなった教室に座っていた。

窓からは夕日が差し込み、床を柔らかく照らしている。


(……悔しいな)


何度心の中で呟いても、その悔しさは全然収まらなかった。

ため息をついていると、背後で小さく扉が開く音がした。


「……悠斗、少しいいか?」


振り返ると、そこには神代悠真が立っていた。


「悠真……」


彼は静かに歩み寄り、僕の前の席に腰掛ける。

ふたりの間に、少しだけ沈黙が流れた。


「……悔しいよな?」


先に沈黙を破ったのは、悠真だった。

僕は驚いて顔を上げる。


「……え?」


「俺だったら、絶対に悔しい。……だから聞いてるんだ」


悠真は真剣な目を僕に向けていた。


「……ああ、めちゃくちゃ悔しいよ」


僕は素直に答えた。


「そっか」


悠真は静かに頷くと、続けて口を開く。


「俺は、ずっと『完璧な生徒会長』になりたかった。誰にも負けないリーダーに」


「……」


「でも、お前を見ていて……正直、ちょっと怖かった」


「怖かった?」


意外な言葉に驚いて聞き返すと、悠真は小さく笑った。


「ああ。お前には俺にないものがある」


「俺にないもの……?」


悠真は頷きながら続ける。


「お前は、仲間が自然に集まってくる。お前が『モブ』だとか言っていても、皆お前のそばで生き生きと輝いている」


悠真の目は、どこか遠くを見るようだった。


「正直、羨ましかったよ。お前が持ってる『みんなと並んで一緒に進んでいける力』が」


悠真がこんな風に言葉をかけてくれるなんて、思ってもいなかった。


「俺は勝った。けどな、悠斗。俺は完全に『勝った』とは思ってない」


「……どういうことだ?」


「選挙に勝ったのは俺だ。でも、人として魅力的だったのは、お前だ」


悠真は小さく笑う。


「だからこそ、俺はお前に生徒会に来てほしい。『生徒と同じ目線で立てる人』が俺の隣にいたら、もっといい生徒会が作れる」


彼の真剣な誘いを聞き、僕はしばらく沈黙してしまった。

正直、彼の誘いに揺れなかったわけではない。


でも――


「……悠真、ありがとう。でも俺は、生徒会には入らない」


「……なぜだ?」


悠真は驚いて聞き返す。


「俺はまだ、この悔しさを消化できていない。そんな気持ちで生徒会に入ったら、絶対にうまくいかない気がするんだ」


悠真は黙って聞いている。僕は続ける。


「悠真はすごい。お前なら、きっといい生徒会長になれる。でも俺は、俺のやり方で、この学校をもっと良くしたいと思う」


悠真は小さくため息をついた後、静かに微笑んだ。


「……なるほどな」


「悪い」


「いや、いいんだ。お前ならそう言うと思っていた」


悠真は立ち上がる。


「じゃあ、俺は俺のやり方で頑張る。お前も、お前のやり方で頑張れ」


「……ああ」


悠真がドアに向かう。その背中に、僕は声をかけた。


「悠真!」


彼は立ち止まり、振り返る。


「……おめでとう」


悠真は一瞬だけ驚いた顔をして、そして満足そうに頷いた。


「ありがとう」


そうして彼は去っていった。


誰もいなくなった教室で、僕は静かに立ち上がった。

まだ胸は痛い。負けた悔しさが消えたわけではない。


だけど、悠真と話して、気づいたことがある。


(僕は、僕らしくやればいいんだな)


ゆっくりと夕日を浴びながら、教室を後にした。


さあ、新しい日々が、これから始まる。


教室を出ると、遼たちが廊下で待っていた。


「悠斗、話終わったか?」


「……ああ」


遼の顔を見て、僕はようやく素直に笑うことができた。


(これからまた、俺は俺の道を歩こう)


そう決意して、僕たちは校門へと向かっていった。


「悠斗、いいのか?」


帰り道、遼が隣で聞いてきた。


「生徒会に入らなくて」


「……ああ」


「……悔しい?」


「……めちゃくちゃ悔しいよ」


遼は僕の顔を見て、少しだけ笑った。


「なら、それでいいんじゃねぇの?」


「……え?」


「負けたのが悔しいなら、今はそれを噛み締める時間だろ」


遼の言葉に、一条さんや彩花ちゃん、村瀬も頷いた。


「悠斗くんは悠斗くんの道を進めばいいのよ」

「いつか、この悔しさを糧にできる時が来るはずです!」

「焦ることはない。お前はまだ“これから”なんだからな」


僕は、仲間たちの顔を見渡し、静かに笑った。


「……そうだな」


僕は“モブ”かもしれない。

でも、悔しさを知ったからこそ、次に進める道がある。


だから――


僕は、僕のやり方で、この学校を見守っていこう。


「……よし、帰ろうぜ!」


僕は仲間たちと並び、新しい日々へと歩き出した。



第1章これで終わりです!

選挙には惜しくも負けてしまった三崎悠斗が今後の主人公化計画によりどのように変わっていくのかお楽しみください!

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