一条由梨の実力
選挙戦の前座として、「候補者陣営のスピーチコンテスト」が認められることになった。
「生徒たちの前で演説する機会、これは逃せないわね!」
一条さんはやる気に満ち溢れていた。
「由梨先輩、もしかしてスピーチするつもりですか?」
彩花ちゃんが問いかけると、一条さんはニコッと笑い返した。
「もちろんだよ!だって、三崎くんの魅力を生徒のみんなに伝えるのが、私の役目だから!」
(……僕の選挙戦なのに、なんか「一条さんの舞台」になりそうな予感がするぞ)
体育館に集まった生徒たちの前で、まずは神代悠真陣営のスピーチが行われた。
彼らは生徒会の改革案を熱心に語り、論理的に悠真のビジョンを支持した。
「悠真くんのリーダーシップは、本物です!」
「彼なら、この学校をより良く変えてくれるでしょう!」
会場からは納得の拍手が送られる。
(やっぱり、悠真の陣営は堅実だな……)
そして、僕達の番がきた。
「次は、三崎悠斗陣営のスピーチです!」
僕がマイクを持った瞬間――
「三崎悠斗の魅力を語るなら、私に任せてくれる?」
一条さんが、すっと一歩前に出てた。
会場の空気が、一瞬にして変わる。
一条さんがマイクを持ったことに気づき、生徒たちの視線が彼女に集中した。
「皆さん、こんにちは! 2年C組の一条由梨です!」
演劇部で鍛えられたその幻想的な姿は、完全に「主人公」だった。
「今日、私は皆さんにとっておきのお話をします!」
彼女はゆっくりと歩きながら、観客と目を合わせた。
「この学校には、すでに完璧なリーダーがいます。それが、神代悠真くんです!」
会場がざわつく。
(え、悠真を褒めるのか!?)
悠真も驚いたように眉をひそめた。
「彼は優秀で、頼りになって、完璧な人間。でも――完璧な人って、遠く感じませんか?」
「……!」
生徒たちの表情が変わる。
「私は思います。だって、人は『完璧』なものじゃなくて、『身近に感じるもの』に惹かれるから!」
そして、彼女は僕を指差しました。
「だから、私は三崎悠斗を推します!!」
会場が、息を呑んだように静まり返る。
「彼は、みんなと同じ普通の生徒です!でも、だからこそ、みんなの声をちゃんと聞いて、一緒に動くことができる!」
「完璧なリーダーじゃなくて、みんなと同じ目線で立てるリーダーが必要だと思いませんか!?」
「私は、彼のそばで見てきました! 彼は、諦めない人です!」
「だから、私は彼を“主人公”にしたい!!!」
(いや、俺の選挙戦なのに、完全に「ヒロインの告白」になるのか!?)
生徒たちは、一条さんの熱量に圧倒され、気づけば体育館には盛り上がっていた。
悠真の陣営が「理論」で攻めるなら、一条さんは「感情」で生徒たちを動かしたのだ。
(……ああ、やっぱり一条さん、君は最強のヒロインだわ)
スピーチ後、悠真が動く
「……驚いたよ」
スピーチコンテストが終わった後、悠真が僕のもとへ歩み寄ってきた。
「君の陣営には、すごい“カリスマ”があるね」
「いや、僕も思ったよ……」
「それでも、僕は“感情”には負けない。選出は、結局“結果”で決まるからだ。」
悠真は、静かに言い残して去っていった。




