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学校中の噂

神代拓海が「悪役を買って出る」と宣言した翌日から、学校内の空気が少しずつ変わり始めた。


まず最初に気づいたのは、僕たちの「主人公計画」が妙に話題になっていることだった。

休み時間、廊下を歩いていると、どこからともなく生徒たちの会話が耳に入ってくる。


「ねえねえ、聞いた? 三崎先輩って、学校の“ヒーロー”になろうとしてるんでしょ?」

「しかも、天城先輩や村瀬先輩と一緒に“友情計画”とかやってるらしいよ!」

「いや、それより気になるのは、新しく現れた“悪役”の存在じゃない?」

「えっ、悪役? それってどういうこと?」


僕は立ち止まり、横にいた遼と村瀬を見た。


「……遼、村瀬。お前ら、また何か余計なことした?」

僕が疑いの目を向けると、遼は笑いながら肩をすくめる。


「いや、今回はマジで何もしてねえぞ! 俺たちはいつも通り悠斗を主人公にする計画を考えてるだけだって!」


「……ってことは、神代か」


村瀬が淡々と結論を出した。


(やっぱり、あいつが何か仕掛けてる……)


「三崎くん! 大変よ!」

一条さんが興奮気味に駆け寄ってきた。


「大変って、何かあったの?」


「どうやら、神代くんが“新たな計画”を始めたみたいなの!」


「……なんで一条さんがそれを知ってるんだよ」


「うふふ、ちょっと情報収集したのよ!」

一条さんは得意げに笑いながら続ける。


「なんでも、彼は『悠斗くんがヒーローになるなら、俺が悪役になってやる』って宣言して、生徒たちに妙な期待を抱かせてるらしいわ!」


「えぇ……」


横では彩花ちゃんが不安そうな顔をしていた。


「悠斗先輩、大丈夫なんですか? もし本当に神代さんが“悪役”になるつもりだったら……」


「いやいや、そもそも“悪役”って何をするつもりなんだよ……」


昼休み、僕はついに神代と直接話す機会を得た。

彼は中庭のベンチに座り、スマホをいじりながらくつろいでいた。


「おい、神代!」

遼が強めの口調で声をかける。


「おや、君たちか。何か用か?」

神代は落ち着いた様子で僕たちを見上げる。


「……お前、なんで“悪役”なんて名乗ったんだよ」

僕が率直に問いかけると、彼はニヤリと笑った。


「だって面白そうだろ?」


「いや、それだけでこんな騒ぎを起こすなよ!」


「まあまあ、落ち着けよ。俺は別に、お前を困らせたいわけじゃない。ただ、物語には“対立”が必要だと思わないか?」


「対立……?」


「そう。悠斗、お前はこの学校の“ヒーロー”になろうとしてるんだろ? なら、俺はそれに“試練”を与える側になるのが筋ってもんだ」


(……こいつ、完全に遊んでるな)


そんな騒動の最中、生徒会副会長の西園寺咲先輩が僕たちのもとへ歩み寄ってきた。


「三崎くん、少しお話ししてもいいかしら?」


「えっ? あ、はい」


僕が返事をすると、先輩は静かに微笑んで言った。


「最近、あなたの“主人公計画”が学校中で話題になっているわね」


「……まあ、そうみたいですね」


「それ自体は悪いことじゃないわ。むしろ、生徒会としても、あなたの影響力は評価しているの」


「影響力、ですか?」


「でも、神代拓海くんの動きには少し注意したほうがいいわ。彼の狙いが何なのか、まだはっきりしていないから」


(……やっぱり、生徒会も神代のことを警戒してるんだな)


「三崎くん、もし神代くんが選挙活動に影響を与えるようなことをするなら、それもリーダーとしてどう対処するかを考えないといけないわ」


「対処……」


(つまり、僕が神代をどう扱うかによって、学校全体の空気が変わるってことか……)


その日の放課後、僕たちは再び神代と遭遇した。

彼は校門の前で待っていたようで、僕たちが近づくと軽く手を振った。


「よう、ヒーローさん。今日もいい動きしてたみたいだな」


「……お前、本当に何がしたいんだよ」


「簡単な話さ。お前がどこまでの“主人公”になれるのか、俺が試してやるってこと」


「試す……?」


神代は意味深に笑いながらこう言った。


「例えばさ、俺が“お前の対立候補”として生徒会長選挙に出馬したら、どうする?」


「……えっ?」


その瞬間、僕たち全員が固まった。


「いや、それって……!」


「いいじゃん、面白そうだろ? ヒーローと悪役の戦いって感じでさ」


(……冗談じゃない。生徒会長選挙にまで巻き込まれるなんて!)


しかし、神代の表情は冗談を言っているようには見えなかった。


「さあ、どうする? 俺が“悪役”として動いたら、お前はどう対応するんだ?」


僕は神代の問いかけに答えることができなかった――。

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