悪役登場
「ヒーローには悪役がつきもの」という言葉を残して去った他校の男子生徒。 その意味深な発言は、中には妙な不安感を植え付けていた。
その日の帰り道、遼と村瀬、一条さん、彩花ちゃんと一緒に歩きながら、僕はため息をついた。
「……あの『悪役』って、どういう意味だったの?」
「悠斗、考えすぎだろ!」
遼が笑い飛ばすように言う。
「でも、わざわざ『ヒーロー』とか『悪役』とか言うのって、ただのジョークじゃない気がする」
村瀬が冷静に指摘する。
「由梨先輩、どう思いますか?」
彩花ちゃんが一条さんに聞いている。
「そうね……確かに、何かの伏線っぽい気がするわね。でも、それを恐れるよりも、どう生きかすか考えたほうがいいんじゃない?」一条さんはどこかそう楽しそうに微笑む。
「どう生きかすかと、またそんなこと言って……」
僕は頭を抱えた。
翌日、学校の上昇口に行って、1枚のポスターが貼られているのを見つけました。それは生徒会長選挙に関する告知だった。
「いよいよ選挙活動が本格化したんだな」
村瀬がそれを見て呟く。
「悠斗、準備は大丈夫?」
遼が僕を振り返る。
「いや、まだ心の準備が……」
選挙活動がいよいよ始まるという緊張感の中で、妙な違和感を覚えていた。いつもなら誰もいないはずの上昇口の隅に、見覚えのある映像があった。
あの男子生徒――前日に「ヒーローには悪役がつきもの」と言って去っていた彼が、壁にもたれかかってこちらを見ていた。
「よ、また会ったな」
彼は肩の力を抜けた感じで、軽く手を上げて挨拶してくる。
「……何の用だよ?」
僕が少し警戒しながら言うと、彼は笑いながら言った。
「別に用事ってほどじゃないさ。ただ、ちょっと気になってな」
「気になるって、?」
「お前たちがどこまでやるつもりなのか、ってところをね」
彼は最後の「主人公計画」を完全に理解している様子だった。
「ちなみに、僕の名前は**神代拓海**だ」
「……神代拓海?」
その名前を聞いて、遼がすぐに反応した。
「聞いたことあるぞ! 白陽の生徒会に所属してるって噂だ!」
「正解だ。俺は隣町の白陽高校の生徒会にいる。……ま、今はちょっと“お暇”を頂いているけどな」
「お暇って……何だよそれ」
「細かいことは気になるなよ。俺はただ、面白そうなことを見つけたら首をつっこみたくなる性分なだけだ」
そう言うと、神代はまた意味深いな笑みを浮かべた。
「それで、悠斗――君が『ヒーロー』になろうとしてるって聞いたから、ちょっと興味が湧いてさ」
「いや、僕はヒーローになろうなんて思ってないんだけど……」
「そうか?でも、周りの奴らはそう思ってるみたいだけどな」
神代の論点は、隣にいる遼や村瀬、一条さん、彩花ちゃんを見据えていた。
「えー、それで君はなにを企んでいるんだ?」
僕が率直に言ってみると、神代は少し間を置いてこう言った。
「俺はただ、“悪役”を買って出ようとしてだけさ」
「悪役……?」
「そうだ。ヒーローには悪役が必要だろ?お前らの『主人公計画』をさらに盛り上げるには、俺みたいなのがいるのが一番手っ取り早いって話だ」
その言葉に、一条さんの目が輝いた。
「いいじゃない! 確かに、ヒーローには悪役が必要よ! 神代くん、協力してくれるなら大歓迎だわ!」
「ちょっと待って、一条さん、本気で言ってるの?」
「だって、物語にスパイスをきかせてくれるのよ?面白いんじゃない?」
彩花ちゃんも興奮しながら言った。
「でも、『悪役』ってどういう意味ですか……?」
神代は彩花ちゃんの言葉に軽く肩をすくめた。
「それはこれからのお楽しみだ。俺が動くことで、お前がどう成長するのか見せてもらう」
「……なんか、嫌な予感しかしないんだけど」
僕の不安をよそに、神代はにやりと笑いながら去っていた。




