イベントの準備
遼と村瀬が提案した「友情をテーマにしたチャリティーイベント」は、校内で瞬く間に話題になった。サッカー大会という身近で参加しやすい内容と、集めた参加費を学校備品の購入に充てるという目的が評価され、生徒たちから賛同の声が集まった。
「悠斗、俺たちの計画、大成功しそうだぞ!」
遼が目を輝かせながらポスターを教室に貼る。
「まあ、盛り上がるのはいいけど……何で僕が運営の責任者になってるんだよ」
僕がスケジュール管理の書類を見ながら呟く。
「だってお前がいないと、みんながまとまらないじゃん! だからリーダーシップ取るのはお前しかいないんだよ!」
「いや、勝手にリーダーにするな……」
村瀬も冷静に言った。
「俺たちはプレイヤーとして参加するから、悠斗が裏方を仕切るのは妥当だろう」
「……そういう考え方、やめてくれないかな」
一条さんと彩花ちゃんも、このチャリティーイベントに大いに賛同し、運営に協力してくれることになった。特に、一条さんは「応援チーム」のリーダーを買って出た。
「三崎くん、チャリティーイベントってただサッカーをするだけじゃダメよ! 応援で盛り上げるのも私たちの役目だから!」
一条さんが豪快に宣言する。
「由梨先輩、私もお手伝いします! それに、三崎先輩を応援する準備も頑張ります!」
彩花ちゃんもやる気満々だ。
「……僕、選手じゃなくて運営側なんだけどな」
チャリティーイベントの準備が進む中で、松浦さんが僕に近づいてきた。いつものように、熱心に仕事を手伝ってくれる彼女だが、今日は少しだけ様子が違った。
「三崎先輩、ちょっとお話があるんですけど……いいですか?」
「ああ、どうしたの?」
僕が作業の手を止めて彼女を見ると、彩花ちゃんは少し頬を赤らめながら言った。
「その……私のこと、“松浦さん”って呼ぶの、やめてくれませんか?」
「えっ? 松浦さんって呼んじゃダメなの?」
「ダメってわけじゃないんですけど……なんか、距離がある感じがして……」
松浦さんは少しだけ視線をそらした。
「えっと……じゃあ、どう呼べばいいの?」
「由梨先輩みたいに、“彩花ちゃん”って呼んでほしいです!」
その言葉に僕は一瞬固まった。
「彩花ちゃん……?」
「はい! その方が、もっと私たちが仲良くなれる気がするんです!」
彼女の目は真剣そのもので、僕は断ることができなかった。
「……分かった。じゃあ、これからは“彩花ちゃん”で呼ぶようにするよ」
「ありがとうございます!」
彩花ちゃんは満面の笑みを浮かべた。
そして、いよいよイベント前日。準備が進む中、彩花ちゃんが何か書類を持って僕のところに走り寄ってきた。
「三崎先輩、この書類にサインが必要です!」
「ああ、ありがとう……えっと、彩花ちゃん」
僕が意を決して彼女をそう呼ぶと、彩花ちゃんは一瞬驚いたような表情を浮かべた後、すぐに嬉しそうに微笑んだ。
「はいっ! やっと呼んでくれましたね!」
「いや、慣れなくてさ……でも、これでいいのかな?」
「もちろんです! 私、ずっと待ってたんですよ!」
彩花ちゃんはそう言いながら嬉しそうに跳ねるような仕草を見せた。
その様子を見ていた一条さんがニヤニヤしながら近づいてくる。
「三崎くん、ついに“彩花ちゃん”呼びを始めたのね! 素晴らしいわ!」
「いや、なんで一条さんがそれを知ってるんだよ……」
「彩花ちゃんがずっと気にしてたのよ。だから私も、あなたが呼び方を変えるのを楽しみにしてたの!」
「……それ、最初から知ってたならもっと早く言ってくれよ」
「彩花ちゃん」と呼び始めた僕の様子を見て、天城遼と村瀬翔太が反応を見せたのは、その日の昼休みだった。
「おい悠斗、今日“彩花ちゃん”って呼んだよな?」
遼がニヤニヤしながら肩を叩いてくる。
「……まあ、そうだけど」
「お前さ、意外と女の子には優しいんだな! いやー、これでお前も少し主人公っぽくなったんじゃねえか?」
「なんでそれで主人公になるんだよ」
村瀬も淡々と口を開く。
「名前の呼び方ひとつで関係が変わることもある。案外、お前には合ってるんじゃないか?」
「いや、そういう分析いらないから……」
(これ、絶対また何かに巻き込まれるやつだよな……)




