文化祭
劇の準備が進む中、遼と村瀬が劇のリハーサルについて話をしているのを、僕は横でぼんやりと眺めていた。
「おい、翔太! ここの適当、もっと感情込めたほうがいいんじゃないか?」
遼が指示を出す。
「……そうか?またやってみるけど」
村瀬君はちょっと淡々と答えた。
それを聞いていた僕は、内心で驚いていた。
(そういえば、村瀬の名前、翔太だったんだ……)
劇のリハーサルが進む中、王子(僕)、魔法使い(遼)、冒険の仲間(村瀬)との慎重な行動が問題の場面に差し抜けた。たとえでも。
「……王子、あなたのその瞳に映る未来を、僕は守りたいです」
遼が真剣そうな表情で言う。
「お前、それ重すぎるって!」
僕は訂正を試みるが、遼は真顔で続けた。
「悠斗、違うだろ。このセリフは、俺が王子に全幅の信頼を表してるんだよ。ここは感情を込めるところだろ!」
「いや、感情を込めすぎて……」
さらに、村瀬君とのシーンではこんなことが盛んに行われていました。
冒険の途中で、仲間である村瀬が王子(僕)に向かって感情を吐露するシーン。村瀬君は、普段のクールな口調そのままに適当に読み始めた。
「王子……私はずっと、あなたの背中を見てきた」
「いや、ちょっと危なくない?」
僕が離れて小さな声で呟くが、村瀬君は待ち続けている。
「お前が困難にぶつかっても、その姿は俺の道しるべだったんだ。だから……これからも俺に、お前の隣に居るを許してほしい」
「いやいやいや、完全に告白じゃん!」
僕が声を荒げるが、周囲は誰も気に留めていない。
さらに、遼と村瀬が劇中で絡むシーンでは、こんな感じが。
「あなた……王子のこと、どう思いますか?」
遼(魔法使い)が村瀬(仲間)に真剣な顔で尋ねる。
「どう、って……王子は私にとって特別だ」
村瀬君は台本通りに淡々と退屈。
「特別って、どういう意味だ?」
「お前に話す必要はない。王子がどう思うかだ」
僕はその場で悩んだ。
「いやいやいや、何この空気……完全に変な方向に行ってない?」
リハーサルが終わり、僕が呆然としている中、遼と村瀬が話しかけてきた。
「悠斗、もっと感情込めたほうが良いか?」
「いや、もう十分過剰だったけど……」
「翔太、お前もいい感じだったな。仲間として王子への歓迎がちゃんとしたぞ!」
遼が村瀬を褒める。
「そうか。まあ、俺は台本通りにやっただけだけど」
二人は全く気づいていない。
「……ねえ、二人とも、ちょっと変だと思わない?」
「?」
遼と村瀬が同時に首をかしげる。
「……いや、何でもない」
(これ、どうしようもないんだよ……)
リハーサルを見ていた一条と松浦さんは、どこか楽しそうに笑いながら話していた。
「ねえ由梨先輩、やっぱりちょっと“そういう空気”になってますよね?」
「そうだね。でも、二人とも気づかないから、随分新鮮でいいんじゃない?」
「そうです! 女子にはウケそうです!」
「彩花ちゃん、これ、絶対に大成功するわよ!」
一条さんたちが「予想通り」とばかりに聞こえてきそうな中、僕は考えてもおかしくなかった。
文化祭本番の日がやってきた。劇の準備は万全とは言えないもの、リハーでの練習量は十分だったので、出演者はそれなりに自信を持っていた。
「悠斗、今日はお前が主役だ。失敗したら俺たちの努力が全部台無しになるからな!」
遼がいつものようにニヤニヤしながら肩を叩く。
「……プレッシャーかけないでくれよ」
「三崎先輩、大丈夫です! 私が全力でサポートしますから!」
松浦さんは、王女役のドレスを揺らしながら元気に言う。
「いや、サポートって具体的に何を……」
そんな中、一条さんがキャスト全員に向かって声を上げました。
「みんな、今日の舞台は最高のステージよ! 主役は全員だから、自信を持って頑張ろう!」
「おー!」
クラスメイトと1年女子たちから大きな声が上がる。僕もつられて気合いを入れざるを得なかった。
王子と魔法使い、仲間の感情が交錯する
劇が始まると、観客席はすぐに静まり返り、物語に引き込まれていった。
だが、問題のシーン――魔法使い(遼)が王子(僕)に感情を慌てるシーンになると、観客席の雰囲気が変わり始めた。
「王子……僕は、あなたのそばにいられるだけで幸せなんです」
遼が熱のこもった勢いを吐く。
「遼、それ本気で言ってるのか?」
僕は心の中でツッコミを入れつつ、なんとなく続けている。
「ありがとう、君の力がなければ、僕はここまで来られなかった」
観客席から微かなざわめきが聞こえた。その中に、女子たちの「キャー!」という声が混ざっていた。
さらに、仲間役の村瀬が感情を露わにするシーンでは、観客席の熱気を一層感じた。
「王子……お前が俺を信じてくれたから、俺はここまで強くなれた」
村瀬の静かな音色が逆に印象だったのか、観客の女子たちがさらに盛り上がる。
「俺はお前と共に歩むことが、何よりの誇りだ」
その特有に、僕は台本通りの反応を返しながら、内心で討論していました。
(いや、これ、もう完全に告白じゃん……!)
ヒロインである松浦さんの登場シーンも印象的だったけど、おそらく観客の注目は「王子と魔法使い」「王子と仲間」の関係性に向いているらしい。
舞台袖で一条さんが笑顔でアドバイスします。
「やっぱり彩花ちゃんの台本修正がたまらなかったわね」
「由梨先輩、女子ウケ抜群ですね! この感じ、文化祭で一番話題になりますよ!」
二人が満足そうに言ってきているのを見て、僕は何も言えなかった。
劇のクライマックスでは、王子が仲間たちの力を借りて敵を倒し、主人公を救うシーンが描かれた。劇自体は王道ハッピーエンドで幕を閉じたが――。
観客席では女子たちの熱い声援を送り、感動が響きやまなかった。
「王子と魔法使い、すごく良かった!」
「仲間役の村瀬くん、あの、ヤバい……!」
「もう一回見たい!」
「その要素」が受けているのを感じた僕は、内心で大きなため息をついた。
(これ、僕のせいじゃないよな……?)
劇が終わったあと、制御室で遼と村瀬が話しているのが聞こえた。
「いやー、今日の観客、めちゃ反応めっちゃ良かったな!」
遼が満足げに言う。
「まあ、俺の演技が評価されていることだろ」
村瀬も平然としている。
「……お前ら、本当にわかってないのか?」
僕は思わず呟いてしまいました。
「分ってない?何を?」
遼が不思議そうに首をかしげる。
「いや、何でもない……」
僕はもう何も言う気が起きなかった。
1年B組と2年C組の合同劇は文化祭の目玉として大成功を収めた。 でも、それ以上に話題になったのは「王子と魔法使い、そして仲間の関係性」だった。
その日以降、僕たちは文化祭での劇をきっかけに、女子たちから「妙な注目」をされるようになってしまった。




