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Interest:4 誘い水をかける

第4話となります。

誤字脱字、ご意見ご感想などお待ちしております。

その日からラスルは三日ほど家から出なかった。


アブローズの言う通りにしたつもりはなかった。


ただ、気まぐれで行くのを止めてしまっただけだった。


それが周囲にどんな影響を波及させてしまったなど知りよしもなかった。


ラスルは一人、自室に入るとアンドレアスの手紙を手にすると目を通す日々を続けた。


改めてアンドレアスの手紙を読むと彼がずっと傷ついていたのがわかる。




アンドレアスはサマーアイル家に次男として生まれた。


すでにサマーアイル家には長男であるラモーバンが生まれており、アンドレアスは幼い頃から両親に蔑ろにされていた。


いつ、どんな時も彼はラモーバンと比べられた。


容姿から始まり、勉強も剣術もどの分野に置いてもアンドレアスは両親からラモーバンに劣っていると指摘された。


彼が両親から褒めされたことは一度もなかった。


兄であるラモーバンもアンドレアスを見下した。


そんな彼にある日、マリエラ・エクランドと婚約をすることになる。


エクランド家は跡取りがおらず、サマーアイル家の次男であるアンドレアスを婿養子として迎えることにしたのだ。


だが、兄であるラモーバンよりも早く婚約したことがアンドレアスに影を落とすことになる。


ラモーバンは自分より劣る弟が先に婚約したことが許せなかった。


それは顔を合わせるたびに本人から言われた。


アンドレアスは申し訳なく謝罪を続けた。


だが、ラモーバンはアンドレアスに対して酷い仕打ちを行った。


マリエラ・エクランドとの不貞。


そのことにアンドレアスが気付いた時には、二人の中は彼が入るこむ余地がなかった。


そればかりか、ラモーバンはアンドレアスが不貞に気付いていないと思いマリエラと一緒になって笑っていたところも見てしまう。


二人はアンドレアスが見ていることに気付くことなく密通を続けた。


「俺と弟、どっちがいい?」


「もちろん、ラモーバンよ」


これで完全にアンドレアスの心は折れてしまった。


だから、この事実を残したまま自死の道を選ぶことにした。




手紙にはその内容を余すことなく詳細に書かれていた。


・・・人は変わっている。


家族なのにどうして傷つけることを厭わないのか。


実際、アンドレアスの両親はあの後、公園にも来ていない。


どこまでのアンドレアスに冷たいまま。


兄のラモーバンは自分の不貞が発覚するのを恐れている。


マリエラもマリエラ。


アンドレアスの婚約者になのに、彼の実の兄であるラモーバンと不貞行為をしている。


それなのに、アンドレアスが眠り続けると悲劇のヒロインのように振舞う。


この胸のもやもやを初めて味わうラスルの気持ちは正直だ。


ラスルは思う。


自分がアンドレアスの辛そうな姿じゃなくて、あくまでも自分本位のサマーアイル家やマリエラたちに不快だと。


おそらくこれを多くの人々に見せれば、サマーアイル家もマリエラも終わりになるだろう。


ラスルにもそれくらいのことはわかる。


これがアンドレアスの復讐と言うなら、自分は彼に手を貸したことになる。


ただ、アンドレアスの気持ちは他のところにあるのではと思ってしまう。


あの日の姿を見れば、あの時のアンドレアスはただ自暴自棄になっただけ。


偶然にも自分に会ったから、<眠り姫(ᛋᛚᛖᛖᛈᛁᚾᚵ ᛒᛖᚪᚢᛏᚤ)>を飲む決意をした。


そう、この時に初めて家族や婚約者に抵抗をしようとした。


だからこそ、ラスルはアンドレアスに心を寄せてしまっていた。


これが人の姿の一つなのだと。




その日も中央公園に行こうかどうかラスルは二の足を踏んでいたのだが、窓の外に魔法で飛ばされてきた紙の燕が止まっていることに気付いた。


主はアブローズからだった。


ラスルは紙の燕を回収すると、中の文章に目を通す。


そこにはアブローズからこう書かれていた。



<マリエラとラモーバンがお前を探している>



その内容にラスルは理解が及ばない。


どうして二人が自分を探しているのか。


自分を探してもアンドレアスがどうかなる訳でもない。


むしろ、二人ともアンドレアスに目を覚まして欲しくないのに何を望んでいるのか。


矛盾としか言いようのないマリエラとラモーバンの態度にラスルは純粋に嫌な気持ちになる。


だから、ラスルは今日も中央公園に行くのを止めた。


これが人から見れば<嫌がらせ>や<拒絶>と類と勘繰られる行為だが、ラスルは所詮、ホムンクルスだから人の気持ちなど知るよしもなかった。




結局、ラスルはその翌日も中央公園に足を運ばなかった。


ラスルはマリエラとラモーバンに合わせる必要などないと思った。


だから、公園を訪れた際に真っ先に二人が声をかけてきたのには驚くしかなった。


「君と話がしたかった」


話をしてきたラモーバンの様子は神経が乱れており、落ち着きが失われる様子だった。


後ろにいるマリエラも気分の変調や体調の不調が見られており疲れ目になっていた。


「何?」


いつものようにラスルは淡々と返事をする。


「君は弟と知り合いだと聞いている」


「うん」


「弟から何か聞いていないか?」


「前に話した通りだけど」


ラスルとしてはそれ以上の事はなかった。


もっとも、アンドレアスから預かった<あるもの>は渡すつもりはない。


「<家族に蔑ろにされ、大切な人に傷つけられた>と話したそうだが、それは本当か?」


「そうだよ」


また同じ話だ。


「信じられない」


「どうして?」


「アンドレアスはそんなことを言ったとは思えない」


「そうかな。彼は俺に素直に話したよ。<家族に蔑ろにされ、大切な人に傷つけられた>と」


どうしてその話を繰り返したいのかわからない。


「それなら他にも何か話していたはずだ」


ラモーバンがラスルに詰め寄る。


焦りの中に何か後ろめたいことがあるようだ。


「何でもいい。教えてくれ」


「いいの?」


もう次のステップに進んでもいいとラスルは確信する。


「アンドレアスは死ぬつもりだった」


あの日、塔から飛び降りようとしたアンドレアス。


嘘はついていない。


だから、教えた。


どんな反応があるのか知りたくなって。


「死ぬつもりだったと・・・」


ラモーバンは自分の予想と違ったようで冷や水を浴びせられたように顔色を失う。


後ろにいるマリエラは口元を両手で覆いながら体中が震えている。


「だから止めた」


今でもアンドレアスを止めた理由はわからない。


憩いの場を汚して欲しくなかったことは事実だがそれは一つのきっかけ。


「り、理由を教えてくれないか」


ラモーバンの声が焦りからかより震えている。


「知らないよ」


ラスルはあっさりと撥ね付ける。


自分たちが一番の理由なのにどうしてそこから目を背けるのか理解できない。


矛盾がさらに矛盾を呼ぶからラスルは話す気持ちが失せてしまう。


「俺はただアンドレアスを止めただけ」


「じゃあ、どうして<家族に蔑ろにされ、大切な人に傷つけられた>と君に話したんだ?」


「そうだな・・・アンドレアスから聞いたことはこれがすべてだし・・・」


どこまで話そうかとラスルは少し悩む。


「きっと言えなかったことを言いたかったんじゃないかな」


今度はどんな反応するのか。


ラスルはラモーバンとマリエラを冷ややかに見る。


やはりと言うべきか、二人はお互いを見やりながら「そんな・・・」とか「やはり、知っていたのか・・・」など小さく呟いていた。


やはり、二人はやましいところがあると自覚していた。


・・・どこまでも自分が優先だとこうなるのか。


ラスルから見ればこの二人はアンドレアスを傷つけたと明確に分かる言葉よりも、自分が傷つく理由に知っている相手の言葉の方がもっとも注視してしまうのだろう。


彼らは自分を最優先し、相手の気持ちなど及びもしない。


だから、ラスルはアンドレアスから預かった<あるもの>の存在を匂わせることにした。


「それとアンドレアスからお礼の品をもらった」


ラモーバンとマリエラの時間が止まる。


二人はラスルに急激な眼差しを向ける。


「それは何なのですか?」


マリエラがラスルに近寄る。


「それは言わないって約束」


ラスルはさらに相手の反応を見るためにあえてそう返す。


「教えて下さい!」


マリエラの懇願が続く。


「アンドレアスの約束だから無理」


だが、ラスルは彼女の想いも拒絶する。


「お前!!」


ラモーバンがラスルの胸倉を掴む。


「彼女がこれほど頼んでいるんだぞ!!」


「それはそちらの勝手。俺はアンドレアスの気持ちを尊重するから」


そう言うとラスルはラモーバンの腕を掴んで強引に離した。


同時に聞こえないほどの小さな声で詠唱をする。


「ᚱᛖᛞ-ᛖᚤᛖᛋ(真紅の眼)」を唱えるとラモーバンの声が出なくなった。


その後、彼の全身の力が抜けていきその場に崩れ落ちた。


何が起きたのかマリエラはわからず、どのようにしたら良いのか落ち着かない。


「どんなことがあってもアンドレアスの約束は守るから」


ここで今日は話を終わらせよう。


ラスルはそれ以上は何も言わずにその場から立ち去る。


公園を出た後、後ろを見るとラモーバンとマリエラは追って来なかった。




その夜、アブローズからまた紙の燕が送られてきた。



<サマーアイル家がお前の居場所を探している>



自分の居場所を探していると言うことは<あるもの>が知りたいのだろう。


これでラモーバンもマリエラも<あるもの>の存在を強く認識してくれた。


後はただ<あるもの>をいつ彼らに見せるのか。


そのタイミングはラスルが考える間もなくあちら側から訪れた。

第5話ではラスルがラモーバンに対してある行動を起こします。


〇主な登場人物


ラスル・レミニセンス

・・・主人公。ホムンクルスで錬金術を操る魔導士。アンドレアスの頼みで「眠り姫(ᛋᛚᛖᛖᛈᛁᚾᚵ ᛒᛖᚪᚢᛏᚤ)」と呼ばれる眠り薬=魔術薬ウィザーディング・ ポーションを作る。アンドレアスの共犯者となっているが、ホムンクルスのため人の感情があまりわからないが昔よりも人の気持ちがわかるようになっており、マリエラやラモーバンが不愉快に感じている。


アンドレアス・サマーアイル

・・・今回の騒動を起こした令息。ラスルの眠り薬を飲んだ後、中央公園で宙に浮いた状態で眠りにつく。その理由は家族から冷遇されたことと兄ラモーバンと婚約者のマリエラの不貞。真相の書かれた手紙をラスルに渡している。


マリエラ・エクランド

・・・アンドレアスの婚約者。アンドレアスを眠りにつかせた原因の一人。ラスルがアンドレアスの眠る理由をしっていると思っており、彼と接触を図る。


ラモーパン・サマーアイル

・・・アンドレアスの兄。アンドレアスを眠りにつかせた原因の一人。ラスルがアンドレアスの眠る理由をしっていると思っており、彼と接触を図る。その結果、ラスルに対して事を起こそうとする。


アプローズ・オヴェイション

・・・魔法局に勤める魔導士。ラスルを秘密を知る唯一の存在。ラスルが人の感情を知ろうとするのが嬉しいものの、アンドレアスの事件に関わっていることに苦慮しており彼を心配している。


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