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Interest:3 秘密を話す。

第3話となります。

今回はアブローズの視線が多くあります。

誤字脱字、ご意見ご感想などお待ちしております。

アプローズ・オヴェイションと言う人は魔導士の中でも優秀な一人だ。


その彼がラスルを創り出した錬金術師(ちち)と友人であることは人知れない秘密だった。


その理由はただ一つだけ。


ラスルはホルンクロス。


それも人と同じように肉体が齢を重ねるごとに成長を続ける珍しい変異型だった。


おそらくこの世で唯一の存在だろう。


アブローズとしてはラスルのパーソナルスペースに土足で踏み込むつもりはない。


人の心がわからないラスルに話がなかなか通じないのも理解していた。


だから、純粋無垢なラスルの動向を目を離すことができなかった。


今回のアンドレアスの件もアブローズにとっては捨てがたい出来事になっていた。


中央公園を出た後、強引に部屋に戻されたラスルを待っていたのはアブローズの詰問だった。


「何があった?」


普段から釣り上がり気味の瞳が特徴的なアブローズである。


すでに40を越えたアブローズだったが多くの悩みに向き合っていたのだろう、彼の髪には白いものが所々に垣間見れた。


「向こうから話しかけてきたから」


ラスルは珍しく目を伏せた。


その様子にアブローズは少し驚いたようで釣り目が柔らかくなり落ち着く。


「そうか」


アブローズの心配性はラスルが感情を持ち始めてから今日まで続いていた。


だが、今日ほど鼓動が乱れるのは初めてだった。


なにせ、ラスルが自らの意志で見ず知らずの他人と関わった。


ラスルの何かが変わったはずだ。


「どうして、サマーアイル家の二人がお前に興味を持った?」


「アブローズと話をしてたところを見られていた」


ラスルとしては彼らに話しかける必要などなかった。


何もせずとも彼らが悩む姿を観察できる。


それがどうして話しかけたのか。


思い浮かぶ理由は一つだけ。


きっと、アブローズと話しているところを見られたからだ。


「そうか・・・」


確かにラスルの理由に一理ある。


アブローズ自身、魔法局ではそれなりに地位をがある。


だから、貴族階級や騎士階級(経済階級)の彼らが自分のことを知っているのは当然のことだ。


アブローズとしては軽率な行為だったかもしれないと反省する。


「それで何を話したんだ?」


「アンドレアスのこと」


ラスルはそう答える。


「今江はなんて答えたんだ?」


「アンドレアスと知り合いだって言った」


ラスルにはこう答えるのみだった。


「うん?」


そこでアブローズはあることに気付いた。


・・・いつ、ラスルはアンドレアスと知り合った?


いや、ラスルがアンドレアスと関わりがあること自体がアブローズには驚きだった。


「お前・・・アンドレアスと関係があるのか?」


アブローズとしてはしっかりと聞かなければならない。


いつ?


どこで?


どうしてアンドレアスと出会ったのか?


その内容によってはラスルは確実にアンドレアスの件と密接に関わっている。


「うん」


「いつからだ?」


「二週間前かな」


ラスルはアブローズがどうしてそんなことを聞くのかわかっていない。


彼は理解及ばずに首を傾げている。


「どこで会った?」


「いつもの塔」


・・・あの塔か。


そこがラスルの秘密の場所だともちろんアブローズは知っている。


そこにどうしてアンドレアスがいたのか理解に苦しむ。


「そこでアンドレアスは何をしていた?」


「飛び降りようとしていた」


そこでようやくアブローズはすべてを察した。


どうして、ラスルがアンドレアスと関わったのかを。


偶然、ラスルが自死しようとしたアブローズと関わってしまい、彼からその理由を聞いてしまった。


その時、ラスルはその話を聞いてアンドレアスに興味を持ってしまった。


人が目の前で自死しようとしていた。


何故と疑問に思うのはホルンクロスでなくても言うまでもない。


ラスルを見れば、何かおかしなことをしたのかと不安そうな顔をしている。


人に興味を持つのは構わない。


問題はその後だ。


ラスルは一体、アンドレアスと何を話したのか。


それを知らなければならない。


「アンドレアスはどうして飛び降りようとした?」


「言えない」


ラスルはすぐに拒んだ。


それはアブローズの知る中ではほぼ初めてのことだった。


「どうしてだ?」


「アンドレアスの頼みだから」


頑なに拒むラスルの表情は変わらない。


ただ、アブローズにはわかる。


無表情だがそこから読み取れるのは拒絶ではない。


何か不安があるようだ。


「怒らないから」


「本当?」


ラスルがアブローズに怒られるのを極端に怖がっていた。


アブローズに嫌われるのを恐れていた。


「ああ。お前が悪い訳ではないからな」


「わかった」


やっと、ラスルの心が解放された。


ラスルはアブローズに塔であった事をすべて話した。


その内容は衝撃的なものばかりだった。


家族との関係性と婚約者であるマリエラ・エクランドの不貞。


しかも、相手は血の繋がった兄。


これほど辛いことはない。


自死を望むのは当然だとアブローズには理解できた。


ただ、解せないことがある。


ラスルの行為だ。


「だから、魔術薬ウィザーディング・ ポーションを渡した」


ラスルはアンドレアスに魔法を見せてしまったことをきっかけに、彼に頼まれて魔術薬ウィザーディング・ ポーションを作った。


これまでのラスルには有り得ない行為だ。


「どうしてそんなことをしたんだ?断れたはずだ?」


「人を観察したくなった」


「それだけか?」


いや、他にも理由があるとアブローズは察する。


「なんか・・・許せなかった」


「誰を?」


「アンドレアスの家族と婚約者が・・・」


ラスルが顔を俯かせてしまった。


「そうか」


アブローズは詰め寄り過ぎたと後悔した。


「ラスル、お前は公園に行くな」


「駄目」


ラスルが話を聞くと驚いて顔を上げる。


また、これまでと違う反応にアブローズは目を大きくしてしまう。


「どうしてそこまでアンドレアスに拘る?」


「行かないと彼が可哀想だから」


そう話すラスルを見てアンドレアスは彼の頭を撫でて落ち着かせる。


・・・人に同情するまでに感情が豊かになった。


それは嬉しいことだった。


ただ、今はそうはいかない。


アンドレアスの件は今後、何が起こるかわからないからだ。


すでに王都では悪い噂が流れている。


王都に黒魔術師が暗躍しており、アンドレアスはその犠牲者になった。


もしラスルの存在が悪い噂に加味されれば彼がどうなるか目に見えている。


それだけは避けなければならない。


「アンドレアスはいつ目を覚ます?」


「わからない」


確かに<眠り姫(ᛋᛚᛖᛖᛈᛁᚾᚵ ᛒᛖᚪᚢᛏᚤ)>の効果は永遠に続く訳ではない。


ただ、アンドレアスが目を覚ましたいと願わない限りは<眠り姫(ᛋᛚᛖᛖᛈᛁᚾᚵ ᛒᛖᚪᚢᛏᚤ)>の影響は続く。


「だから彼が目を覚ますまで見ていたい」


ラスルがそう言うと立ち上がり、机の引き出しから<眠り姫(ᛋᛚᛖᛖᛈᛁᚾᚵ ᛒᛖᚪᚢᛏᚤ)>のレシピを取り出した。


「これを渡しておくね」


そこにはラスルの覚悟があった。


「いいだろう」


アブローズはレシピを受け取ると、ラスルの意志を尊重することにした。


「中和剤を作るまでは公園にいていい」


「ありがとう」


「もし何かあればちゃんと報告するんだぞ」


「うん」


ラスルはいつものように素直に頷いた。



その夜、ラスルは塔にいた。


上階からアンドレアスが眠る中央公園を見つめる。


今日のアブローズの姿が今も印象に残っていた。


・・・怒られなかった。


ラスルはそう思いながら、明日のことも考え始める。


きっと、明日もサマーアイル家の二人はいるだろう。


そして、アンドレアスのことを尋ねてくるはず。


・・・明日は行くの止めよう。


それが意地悪な行為だとラスルにはわからなかった。


なんとなく思ったことを実行したくなっただけ。


だが、その事が思いもよらぬことになるとは今のラスルには予想もつかなかった。


第4話ではハプニングが起こります。


〇主な登場人物


ラスル・レミニセンス

・・・主人公。ホムンクルスで錬金術を操る魔導士。アンドレアスの頼みで「眠り姫(ᛋᛚᛖᛖᛈᛁᚾᚵ ᛒᛖᚪᚢᛏᚤ)」と呼ばれる眠り薬=魔術薬ウィザーディング・ ポーションを作る。アンドレアスの共犯者となっているが、ホムンクルスのため人の感情があまりわからない。


アンドレアス・サマーアイル

・・・今回の騒動を起こした令息。ラスルの眠り薬を飲んだ後、中央公園で宙に浮いた状態で眠りにつく。その理由はラスルのみが知っている。


アプローズ・オヴェイション

・・・魔法局に勤める魔導士。ラスルを秘密を唯一知る人物であり、今のラスルの保護者的な存在です。

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