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第2話となります。

誤字脱字、ご意見ご感想などお待ちしております。

翌日もラスルはアンドレアスの様子を見に中央公園を訪れていた。


すでに園内には魔法局の魔導士たちが出仕しており、本格的にアンドレアスの魔法を解除するために調査を始めていた。


彼らは魔道具マジックアイテムを駆使してその原因を突き止めようとしているが、誰もがまだ理解に追いついていない表情を浮かべていた。


その様子から彼らがまだラスルの魔術薬ウィザーディング・ ポーションの存在に気付いていないようだ。


・・・きっと、先に気付くのはアプローズ。


アプローズはラスルの創造主ちちを知る優秀な魔導士であり、ラスルの存在を知る唯一の人物。


いくらラスルが自分のマナをわからないようにしても、何かのきっかけがあればアブローズは必ず気付くはず。


だが、今日はアブローズの姿はない。


魔法局で何か別のことでもしているのだろう。


アプローズがいないことでラスルも今から事を起こしやすくなる。


ラスルは今日ここに来たのはアンドレアスの容態の確認のため。


彼が安定した状態でいればそれでよかった。


ラスルは宙に浮いているアンドレアスを見る。


今のラスルにはアンドレアスに対して感謝しかない。


なにせ人の感情を知る機会を与えてくれたのだ。


そして、格好のモデルケースが今日も公園に来ていた。


マリエラ・エクランド。


かの令嬢は宙に浮くアンドレアスの前で昨日と同じように悲しみに暮れていた。


だが、ラスルは知っている。


かの令嬢の裏の顔を。


それがアンドレアスの動機だと知ろうともしないでいる。


これほど滑稽なことなのに不愉快に思うのはどうしてだろう。


これも人の気持ちなのかもしれない。


そう自分自身で答えを出したラスルはアンドレアスに対する薬の効果は持続しているのを確認する。


胸元から蝶の姿をした紙を取り出すと密かに詠唱して息を吹きかける。


蝶は柔らかく飛び立つと前翅と後翅は一体となりそのまま空気の流れに乗ってアンドレアスの元へ向かう。


アンドレアスの元に辿り着いた蝶はその周囲を漂う中、ラスルの視覚に彼の姿が見えてくる。


アンドレアスは穏やかに眠っていた。


それだけで「眠り姫(ᛋᛚᛖᛖᛈᛁᚾᚵ ᛒᛖᚪᚢᛏᚤ)」の効果が十分に確認できた。


これがあとどれくらい続くのかはラスルも知らない。


すべてはアンドレアスの意志次第。


彼の心が求めるままに「眠り姫(ᛋᛚᛖᛖᛈᛁᚾᚵ ᛒᛖᚪᚢᛏᚤ)」の効果が続く。


さて、この事実を彼の家族やかの令嬢はいつ気付くだろう。


永遠に気付かないのならそれはそれでいいとラスルは思う。


すべての確認を終えたラスルは公園を去ろうとする。


その帰り際、ラスルはまたかの令嬢から視線を感じた。


ラルスはあえてかの令嬢と視線を合わせてやった。


まず、彼女の反応が見たくなった。


かの令嬢がラスルと目が合った瞬間、すぐに目を逸らせた。


予想通りの反応だ。


だから、ずっとかの令嬢を見続けてみると彼女はラスルの圧に耐えられなかったのかその場を離れていった。


もう少し反応があると思っていたが呆気ない態度に残念だとラスルが諦める。


しかしながらと思う。


いつ、かの令嬢は自分の存在に気付いたのか。


昨日見かけたのが初めてなのに、かの令嬢は自分の存在に気付いていた。


これも人ならではの感覚なのかもしれない。


では、明日もここに来ればもっと彼女の様子を知ることができるだろう。



翌日もラスルは公園を訪れた。


しかし、予想外なことにかの令嬢が来ていなかった。


もったいない。


そんな思いに駆られながら、その場を去ろうとしたラスルに誰かが声をかけてきた。


「あの」


声の方に顔を向けると驚いたことにかの令嬢=マリエラ・エクランドがいた。


「なんでしょうか?」


ラスルとしてはそう返すしかなかった。


まさか彼女から声をかけてくるとは思わなかったからだ。


「わたくし、マリエラ・エクランドと申します。アンドレアス・サマーアイルの婚約者です」


マリエラは令嬢としての挨拶をする。


「突然で申し訳ございません。お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」


「ラスル・レミニセンス」


ラスルが名前を告げるとマリエラが一息入れて話を続ける。


「昨日、あなた様が魔法局のアプローズ・オヴェイション様とお話をされていましたもので」


「アプローズのことを知っているの?」


「アプローズ・オヴェイション様とは私の両親を通じて宮廷で催される舞踏会で以前に何度か会ったことがあります」


なるほど。


マリエラはアブローズと面識があったのか。


その話を聞くと何となくラスルは笑ってしまった。


「どうされたのですか?」


「だって、アブローズが舞踏会に参加しているなんて思わなかったから」


そう、あの堅物なアブローズが舞踏会にいる姿を想像するだけでも面白かった。


今度、会った時に何をしていたのか聞いてみよう。


ラスルはアブローズの隠し事を知ったことに喜びを覚える。


「アブローズ様は優秀な魔導士だとお聞きしております。その方があなた様とお話をしていたと言うことはあなた様も魔法に詳しいのでしょうか?」


「それなりに」


ラスルは自身が魔法を使えることを否定しなかった。


今のマリエラが魔法の認識している限り、触れることも避けることも必要ない。


「そうなのですね」


マリエラが何故か笑みを浮かべた。


その笑みの理由をラスルは知りようもなかった。


「このようなことをお聞きするのは申し訳ございません。あなたはどうしてここにいらっしゃるのでしょうか?」


マリエラの笑みは消えない。


どうして笑うのか?


ラスルはマリエラの心の中を知ろうと考える。


・・・彼女は何か期待を求めている?


では、どう答えればいいのか。


ラスルはあえて自分がここにいる理由の一端を教えることにした。


「彼の知り合いだから」


ラスルはアンドレアスに視線を向けながら淡々と頷く。


「アンドレアス様のですか?」


ラスルはただ肯定しただけなのにマリエラの声が弾んだ。


やはり、彼女はラスルが婚約者の知り合いだと期待していた。


その望みが当たったのだ。


嬉しくなるのは当然か。


ただ、自分と会うことに期待することがあるのだろうか。


ラスルにはまったくわからない。


「アンドレアス様とはいつからお知り合いなのですか?」


マリエラがアンドレアスとの関係に踏み込んでくる。


「どうしてそんなことを聞くの?」


「アンドレアス様はあまり知人の話をしないもので・・・」


マリエラが少し目を逸らせる。


その仕草が主旨がつかめない。


「あなたとは会うのは初めてだし、会ったとしても彼のことを話す必要がなかったからだと思うけど」


ラスルは少し突き放したような感じで答える。


それがマリエラを傷つけたようだ。


マリエラの瞳が涙で溢れ始める。


こんなことだけで傷つくなんて人って脆いものだとラスルは知る。


しばらく沈黙が続いたが、マリエラは落ち着いたようで気を取り直して話を続ける。


「アンドレアス様は何かおっしゃっていましたか?」


「何って?」


「例えば、家族のことや・・・私のことなど・・・」


そうは尋ねられてもラスルは困惑する。


そんなことを聞かれてもどう答えればいいかわからなかった。


アンドレアスの話は今回の件と密接に関わっている。


彼の望みを叶えるためにはあまり言うことはできない。


そんな時に別れ際のアンドレアスの姿が浮かんだ。


あの時に教えてくれたあの話が思い出される。


・・・これもアンドレアスの導きかな。


「僕は生きている価値があるのかな?」


ラスルは考えた上でこう答えるしかなかった。


「えっ?」


「彼はそう言ってた」


「・・・どうしてそんなことを・・・嘘・・・」


マリエラが声を震わせている。


予想もしない反応だった。


「どうしてそんなことを言ったかわからないけど、彼はそう言ったのは確かだよ」


罪の意識か自責の念がマリエラを動揺させている。


これも人の姿か。


だが、この上なく悲しい。


それはマリエラに対してではない。


アンドレアス自身に対してのみ。


ラスルはマリエラの苦しむ姿を無視してその場を去ろうとする。


「待って下さい」


マリエラがラスルの服を掴んだ。


「それ以外に・・・他に何か言っていなかったのですか?」


「どうだろう、色々話したけどあまり思い出せない」


本当はアンドレアスとの話を言いたいところだか、今ではないとラスルは思う。


「明日、ここに来られますか?」


「わからない」


「もし、来られるのでしたらお話を聞かせて下さい」


マリエラの懇願はラスルの心を動かした。


これもまた人の姿。


それならもう少し関わってもいいかもしれないと。


だから、ラスルはマリエラとの約束を結んだ。



それからもラスルは中央公園を訪れるたびにマリエラと会った。


彼女はただただアンドレアスのことを聞いてきたが、ラスルはあまり彼の話をしなかった。


そうなるとマリエラが苛ついてくるようになった。


たった三日ほどで彼女はこう言ってきた。


「本当にアンドレアス様の知り合いなのですか?」


これほど強く詰め寄られたので、ラスルは新しい話をすることにした。


「あまり言うのは嫌なんだけど」


そう前置きした上で、ラスルも一歩前へ話を進める。


「<家族に蔑ろにされ、大切な人に傷つけられた>と言ってた」


あの夜のアンドレアスは眠るにつく理由を聞かせてくれた。


その一つをラスルは話したことになる。


この後、マリエラはどう反応するのかを見たい。


「私たちはそんなことをしていません!」


急にマリエラが大声を上げて怒り始めた。


しかも涙を流し始めている。


周囲にいた人々の視線が一気にラスルとマリエラに集まってしまう。


「いや、だって彼が言ったし・・・」


「嘘です!」


マリエラが頑なに否定を続ける。


ラスルは困惑するしかない。


こんな態度を示す人に接するのは初めてだった。


いや、人の気持ちの揺れ動きさえ予想を遥か先に行くことがあると初めて知った。


「マリエラ!」


すると、どこからかラモーパンが現れた。


「貴様!マリエラに何をした!」


ラモーパンはマリエラの前に立つとラスルを睨み付けてきた。


それは新しい登場人物が舞台上に上がった瞬間だった。


「何もしていない」


「では、どうしてマリエラが泣いている?」


「聞かれたことを答えたら勝手に泣いた」


嘘は言っていない。


だが、ラモーパンは納得していないようだ。


「もし信じられないのなら彼女に聞けばいい」


ラスルはマリエラに視線を向けた。


これも彼女が原因だ。


早くなんとかして欲しいものだ。


「・・・この方は悪くありません」


マリエラは小さな声で否定してくれた。


「本当なのか?」


「はい」


「では、どうして泣いているのだ?」


「この方はアンドレアス様の話をしてくれたのです」


「それが一体なんだと言うのか?」


「この方が教えてくれました。アンドレアス様が話してくれたことを」


「それは何か?」


「<家族に蔑ろにされ、大切な人に傷つけられた>と」


「それは誠か?」


ラモーパンがラスルをより睨みつける。


「本当」


もちろんラスルは否定しない。


すべては事実だ。


嘘をつくなどありえない。


だが、ラモーパンは違っていた。


明らかに動揺している。


「まさか・・・知っていたのか・・・」


ラモーパンは思わず手に口を当てた。


やはり、この男もアンドレアスが二人のことを知っていたのだと気付いたようだ。


「もう行っていいですか?」


「あ、ああ」


ラモーパンは頷くのみであり、マリエラもその様子から何も言えなくなっていた。


二人から解放されたラスルはさっさと中央公園を出た。


これ以上、人と絡むのは疲れるだけだった。


だが、ラスルの前にアブローズが待っていた。


「お前、ちょっと来い」


先程のマリエラとラモーバンの様子を見たのだろう。


「疲れているけど」


「だったらお前の部屋へ行くぞ」


アブローズに言われるまま、ラスルは部屋に戻るしかなかった。


こんなことになるなら公園に行かなければ良かった。


人の気持ちを知る難しさをラスルは改めて思い知らされた。

第3話ではアブローズに真実を伝えます。


〇主な登場人物


ラスル・レミニセンス

・・・主人公。ホムンクルスで錬金術を操る魔導士。アンドレアスの頼みで「眠り姫(ᛋᛚᛖᛖᛈᛁᚾᚵ ᛒᛖᚪᚢᛏᚤ)」と呼ばれる眠り薬=魔術薬ウィザーディング・ ポーションを作る。アンドレアスの共犯者となっているが、ホムンクルスのため人の感情があまりわからない。


アンドレアス・サマーアイル

・・・今回の騒動を起こした令息。ラスルの眠り薬を飲んだ後、中央公園で宙に浮いた状態で眠りにつく。その理由はラスルのみが知っている。


マリエラ・エクランド

・・・アンドレアスの婚約者。アンドレアスを眠りにつかせた原因の一人。


ラモーパン・サマーアイル

・・・アンドレアスの兄。アンドレアスを眠りにつかせた原因の一人。


アプローズ・オヴェイション

・・・魔法局に勤める魔導士。ラスルを秘密を知る唯一の存在。

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