01 元勇者の日常
このニュースみた?町中にモンスター出現だってさ、やばくない?
今日めっちゃ眠いわー
私知ってる、これゴブリンっていうんでしょ?なんか映画で見た!!
作りものでしょ?子供を緑色に塗っただけじゃん!!そんなことより今日テストだってー
マジかよ抜き打ち!?サイテーなんだけどー
いや前から言ってたからwwだいたいあんたはさー………
教室の隅からこんにちは。真優だお
いろんなところで半殺しにしてまわってるやべえ奴として認識されている俺は高校入ってからまったく友達ができていない。というかだーれも話しかけてこない。
そんな俺は授業の間は机に突っ伏して寝ている。
ふりをしている。
では何をしているのか?俺は…そう。情報収集をしているのだ。たかが高校生と侮るなかれ。些細な情報が巨悪を暴くカギとなることもあるのだ。
おい、なんだ、疑ってるのか?俺は(元)勇者だぞ!!コラ!!半殺しにするぞおらぁ!!
実際、この情報収集は友人の少ない俺にとってはまぁまぁ役に立つ。今日は小テストを行うとか、その範囲がどうだとか、いい時は過去問の情報なんてのもかすかに聞くことができる。
まぁそれはそれとして、人間関係だとかを見とくのは結構楽しい。
「おい、聞いたか?今日テストだってよ、日高」
「知ってるよ。前々回の授業で言ってたろ?」
「そうなのー!?全然知らなかったんだけど!!やばいやばいぜんぜんべんきょーしてなーい!!」
おお、みてみろ、奴らはこのクラスの一軍。話した順に照山日高、豪壮康太、木下みいな。
特に日高はこのクラスの学級委員長かつバスケ部のキャプテンである。勉強もできて運動もできる上にイケメンときた。これはもうモテるしかない。実際モテている。が、ある人物とキャラがだだ被りなのだ。
「ハハっ、ミーナは勉強したって点数獲れねーだろ?」
「こーもそうでしょ?前だって今回はいけるーとかいって赤点だったジャン」
「なんだとー?」 「ほんとのことでしょーっが」
「二人ともやめるんだ。今回のテストはこの過去問丸々出るらしいから、二人とも大丈夫だろう。」
「「マジ(かよ)!?」」
マジかよ!!
どうやら日高が手に握っている一枚の紙。それが過去問の情報が書かれた紙なのだろう。
「さすが!!やっぱりひだかっちしかかたん(死語)!!」
「日高にはいっつも助けてもらってばっかだよな」
正直前のテストは俺もぎりぎりだったので何とかしてその過去問を見たいところではある。
しかし、一軍どころかどこの軍にも属していない俺にその情報が回ってくることは絶対にない。
何とかして少しでものぞけないかと俺がもぞもぞとしていると、例の人物が日高たちのグループに近づいて来た。
「残念だが今年から内容が変わって、その過去問は使い物にならない。理由はどうやら過去問が出回りすぎてそれでは持っている者と持っていない者で差がつくから、らしい。」
「「マジ(かよ)!?」」
マジかよ!!
「…なぜそんな情報を知っている?降真。」
「生徒会のメンバーから聞いた。1組はすでにテストを行っているらしい。内容は言ってはいけない約束だったが、それだけは教えてもらった。」
なんか役職持ってて、部活が強くて、勉強ができて、イケメンのキャラ。そう。降真王雅だ。その肩書も日高と同じようなものである上にしゃべり方や雰囲気も似ている。
だが、その功績を見ると、あらゆる面で日高は王雅に負けている。役職も、部活動で残した実績も、勉強もだ。ほかの学校ならいわゆるスーパーマンとしてもてはやされていたであろう日高も、ここでは``王雅の下位互換``だ。それを日高は良く思っていないらしく、王雅のことを嫌っているらしい。
「マジかよ、じゃあどっちにしたって無理じゃねーかー」
「どっちにしたって無理なのは今に始まったことじゃないでしょうが」
「前々回の授業で今回のテストの範囲を一部だが言っていた。そこを勉強すればいいだろう。」
「「マジ(かよ)!?」」
マジかよ!!
「教えてくれ!!」「お願い!!」
「まて、王雅、なぜそれを俺たちに教える?お前に徳はないだろう。」
クラスに緊張が走る。ぴりついた雰囲気を感じ取ったのだろう、一瞬、クラスの喧騒が途絶えた。
「おい、そんないうことないだろ」 「そ、そうだよ…」
すかさず康太とみいなが場を和まそうとするが、日高の目は王雅をとらえて離さない。
「あぁ。徳はない。そもそもお前らにだけ教えるつもりはない。この情報を俺や一部の人間だけが知っていたらそれこそ不平等だと感じたからだ。」
「だとしても、そんな事一部の人間に話せば友達伝いにすぐ広がる。どうしてわざわざ俺たちに話しかけてきた?」
親しくもないくせに。そう言外に含まれているのは、彼の表情からして明らかだった。
クラスの緊張も最高潮。最早彼ら以外誰もいないかのように教室は静まり返っていた。
そんな渦中の中心にいる王雅は、やれやれといった感じでため息をした。
「あぁ。それは友達のいない誰かさんが聞き逃さないようにだ」
ビクッ
なんかクラス全員の視線を感じるような気がするけど気のせい気のせい
「…そうか。突っかかって悪かった。」
「いや、問題ない。」
そういって王雅は何事もなかったかのようにほかのクラスメイトに話しかけに行った。
クラスの緊張は解け、喧騒がまた蘇る。
「はーい、今から授業始めまーすみんな静かにー」
と、思ったらもう授業が始まるらしい。さて情報収集も終わったし寝るかーむにゃむにゃ…
「最近この近くで野犬とか刃物を持った不審者とかいろいろ物騒だからみんな気を付けてねー」
「いや先生色々いすぎだろー」
ハハハハハ
……
放課後の屋上。青空を見上げていた。テストはまぁ赤点は回避しただろう。誰かさんのおかげだ。
その誰かさんは今日から剣道の遠征らしい。一週間は帰ってこない。まぁだから何だって話だが。
一人か…
……カバディー!!カバディー!!
どこかでカバディー部の掛け声が聞こえる。
いいなぁ。
はぁ。俺は何をしてるんだろうか。あっちでは勇者として使命をもって生きてきた。戦わなければならなかった。戦わずにはいられなかった。
そして、勝って、そのご褒美としてこの世界に生まれ落ちた。誰かのために自分を犠牲にする必要はなくなった。
今世では自由に生きよう。そう決めた。誰かのためにではなく、自分のために生きる。友達や恋人も作って青春を謳歌しようと決めたのに。今、俺の隣には誰もいない。
結局俺は一人なのか?やりたいこともできず、このまま今世でも一人で死んでいくのか?
……もういっぽーん!!ファイトー!!…ファイ…え?なにあれ?…刃物持った子供?こっち来てるよ
…え、え、え、キャー!!
空を見上げる。最初は悪くなかった。両親は早くに死んでしまったが、可愛がられた思い出は決して忘れない。今は祖父母の家にいさせてもらっていて祖父母は友達を一人もつれてこない俺のことを心配してくれているし、いつも優しい。少し申し訳ないが、満ち足りていた。前世では親の顔を見たこともないし、育ての親である孤児院の司祭はみんなの父といった感じでもちろん感謝しているが今ほどの愛を感じたことはなかった。
……嫌、いやー!!こないでー!!
……みんな逃げろー!!こっちだ!!…何が起こってんだ!!…
なんというか俺の人生は………ってさっきからなんか騒がしいな。
最初は部活の掛け声かと思ったが、それにしたって声が多すぎる。
それに学校周辺だけの話ではない。よく聞いてみるとパトカーやら救急車やらの音やらが鳴り響いている。町全体が、何やら騒がしい。
「全く人が黄昏ているってのに何をそんなにさわいんでんだよこのやろう」
起き上がって屋上の外を見渡す。すると、その光景にすぐに異常を見つける。
「…なんだ?何が起こっている?」
まず目に入ったグラウンドの方だが、何人か人が倒れている。それだけでも異常なのだが、よく見ると赤い…血が飛び散っている。そしてそのそばにいるのは…
「ゴブリン…か?」
子供くらいの体躯に緑色の肌。醜悪な顔に長い耳。まごうことなきゴブリンである。
だが、それはありえない。この世界にそんな生物がいるなんてこと聞いたことないし、そもそも魔物は魔素があるところしか生まれえない。そしてこの世界に魔素はない。
「いや、まて、この感覚…かすかだが魔素の感覚が…」
そして町の方を見渡すと、所々で煙が上がっているのが見える。何が起こっているのかはわからないが、車のクラクションや誰かの悲鳴や何かが爆発するような、とにかくいろいろな音が聞こえる。
「なんだ?どうなっている?」
これではまるで…
ッズガァアアン
周りの現状を理解しきれていないときに突然現れた刺客。
かすかな空気の揺れと濃密な殺気。そして何より前世の経験によって俺はその兇刃をよけることができた。
「久しぶりの感覚だよこの野郎、なんで魔物がここにいる?」
全体的なシルエットは人間。しかしその上半身は濃い体毛で覆われており、何よりその頭は牛の形をしていた。
振りぬいたその手にはその体躯からすれば小ぶりの斧を携えており、それは地面に深く食い込んでいた。
ミノタウロス。ギリシャ神話にも出てくる怪物が、今目の前に現れた。