7話 晴輝
翌日。大学構内。
「よお。悠斗。お前ハンターワールド始めたんだって?」
「そう!めちゃくちゃ楽しかった!あれはやばいな」
晴輝にハンターワールドをやり始めたことを昨日、ゲームを終えた後にメッセージで伝えてあった。
「だよな!あのリアルさは他のゲームにはないぜ」
そうだ、と晴輝が言ってスマホを見せてくる。
「こ、これは·····」
「なんとだな、インストールナンバー1が現れたってニュースになってたんだ。これに世間は大盛り上がり。ニュースランキングでも一位になってる」
ほら、と言ってページをスクロールされた画面に確かに書いてあった。
[ニュースランキング]
第一位:【伝説?】ハンターワールドにナンバー1が復活…
「ええ。そこまで話題になるのか·····」
「当たり前だよ!誰にも存在が確認されていない、都市伝説みたいなものだぞ!」
·····俺は都市伝説にまでなってしまったらしい。
「そんな大袈裟な」
「大袈裟なもんか。ナンバー1を一目見ようとハンターワールドに戻ってきたハンターが結構いるらしい。今こそハンターワールドの全盛期が復活するんだ!」
ナンバー1の影響力が恐ろしいことはよく分かった。俺はただ普通にゲームをしているだけなのに·····。
「そんなことは置いておいて今日時間あるか?一緒にハンターワールドやろうぜ」
「良いけど·····」
自分がナンバー1なのが晴輝にバレるかもしれない。別に晴輝にバレてもいいが、それだと何か違う気がする。都市伝説は都市伝説のままだからこそ面白いのではないか。
「よし、じゃあ20時に集合な!えっと、待ち合わせ場所は最初の村の大きな木のところでいいか?」
「分かった。20時だね」
晴輝と別れて家に戻り、ご飯や風呂を済ませると晴輝との集合時間の三十分前になった。
「やばい!今のうちに変装しておかないと」
のんびりしていて、すっかり忘れていた。晴輝に俺がナンバー1であることをバレてはいけないのだ。そこで、変装をして誤魔化すことに決めていた。
俺は慌ててゲームにログインする。
「よし。こんなものだろう」
俺はアイテムショップで衣服を買い揃えた。お金ならドラゴン討伐の時にたんまり稼いだからな。
傷が付き穴の空いたボロボロの服に、なぜか価値の高い靴。部分的に強いものを持っていると、より初心者らしく見えるに違いない。·····まあ、そもそも俺は初心者なんだけど。
準備ができたから、俺は待ち合わせ場所にした大きな木のところへ向かう。
この大きな木は、そのまま"大きな木"と呼ばれているのだが、村の象徴となるほどに大きく、削られた体力や魔力を癒してくれる役割を果たしている。そういった回復をする方法は他にも、癒しの湖や光魔法、ポーションなどがある。
大きな木が見えるところに着くと、そこには上半身裸の筋肉ムキムキのアバターがいた。
「お前、もしかして晴輝か?」
「お。来たか、悠斗」
「それより、なんでそんなにマッチョみたいな·····」
「何でって、そりゃ強そうだからだろ?」
「確かに強そうだけども」
「実力が全ての世界で、見た目が弱そうだったら舐められるに決まってる。実力主義ってのはなかなかに怖い世界なんだぞ」
このゲームでは、プレイヤーの殺害が可能だ。基本的にプレイヤーを殺すことにこれといったメリットはないが、戦いの時に注意する必要が出てくる。後衛が前衛を攻撃しかねない。普通のゲームだったら、味方に攻撃が当たらないようになっているんだろうけど、ハンターワールドはそういうところが妙にリアルなのだ。
「それで?何かする予定でもあるの?」
「ふはは!よくぞ聞いてくれた!相棒!」
俺の肩に手を乗せてくる。
「あ、相棒·····?」
「今日はだな。初心者のお前に、このレベル150超えの晴輝様が色々と教えてやろうと思ったわけ」
「いいえ、結構です」
「なんでよー。つれないな」
「だって、めちゃくちゃマウント取る気満々じゃん」
確かに、平均レベルが70に対して150を超えてるのはかなり凄い方だろう。レベルが上がっていくごとに必要な経験値量は増えていくのだ。平均の二倍なんてものじゃなく五倍以上はあるのではないか。
「あ!そうだ」
「おっ、ついに晴輝様に助けを?」
「ああ。実は、魔法を使えるようになりたくてな」
「それで、そのやり方が分からないんだな?」
「そうだ。魔法を使えたら、戦闘の幅が広がるだけじゃなくて色々と役立ちそうだから」
「その通り!この世界の魔法は、頭に思い描くだけで好きなように発動できるんだ!剣なんかよりもよっぽど強いって言われてるんだぞ!」
「·····なんかキャラ変わった?」
俺の目の前にいるのは、急にテンション上げてくる半裸マッチョ。どう見ても変態だ。
「ふはは!この世界ではこんな性格でやらせてもらってるのだ!」
「え。それ、めちゃくちゃ痛いやつだよ·····」
「問題ない!このハンターワールドの上位層ってのは、少しおかしい奴らがいっぱい揃ってるからな!」
(もしかして、これでもまだマシな方ってこと·····?)
「晴輝は、ゲームやりまくってそんなレベルにまで上がったんだよな?いつからやってたんだ?」
「大体三ヶ月前だな」
「は?三ヶ月前?やばくね?」
今は六月だから、やり始めたのは大学受験が終わった直後くらいだろう。
「毎日徹夜だ!毎日のように十数時間もやってたからな!」
想像よりもやばかった。晴輝はマジの方の変態だ。
「あれ?でも、長時間やると強制的にログアウトされるんじゃないの?」
「制限時間になる前にログアウトして、もう一回ログインすれば問題ない。裏技ってやつだ」
腰に手を当てて偉そうにしてくる。
「はあ·····」
俺は、そこまでしてゲームにハマりたくはないな、と心の奥底で思ったのであった·····。