2話 ハンターワールドとの出会い
俺は田宮悠斗。
そこら辺にいる普通の大学生だ。
俺がこのゲームと出会ったきっかけはこんなことだった。
事の発端は六年前。
まだ俺が中学一年生の時。
俺は、中学生になったことでスマホを買ってもらった。
深夜過ぎ。布団に潜った俺は、隣の部屋で寝ている親に隠れてスマホを触っていた。
「何か面白いゲームないかな?」
大量にあるアプリゲームをたくさん見ていく。まだネットに情弱だったために、何のゲームが面白いのかなんて全く知らなかった。
そんな俺の目に止まった一つのゲームがあった。
「ハンターワールド?」
そこには、【現代に現れたモンスターをハンターになって倒そう!】とだけ書かれていた。
大したこともなさそうなゲームの誘い文句だが、スマホゲームが初めての俺にとっては十分な一言だった。
「やるゲームも決まらないし、とりあえず入れてみようか」
俺は、インストールのボタンを押した。少し長いインストールを、眠い目をこすりながらながら待った。
「うおおお、すげえー」
目前に広がる世界に圧巻された。二次元とはいえリアルに作り込まれていて、自分がまるで世界の中にいるような感じがする。
俺は画面横に表示された、メールのアイコンをタップする。一件のメールが来ているようだ。
「なんだこれ?インストール特典?」
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〜インストール特典のお知らせ〜
[インストールナンバー1]様
この度はハンターワールドのインストール、誠にありがとうございます。
インストールをして下さった皆様に感謝の気持ちを込め、【ガチャチケット×10】をプレゼントいたします。
また、インストールをされたユーザー様の順番に応じ特別な特典をご用意致しました。
あなた様はインストールナンバー1、1番目のユーザーのため、【極神級特典】がプレゼントされます。
【インストールナンバー1】様の益々のご活躍を心からお祈り申し上げます。
ハンターワールド運営スタッフ
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「俺が一番最初にこのゲーム始めたってことか?」
インストールナンバー1と言うのが俺のユーザーネームらしい。二人目がインストールしたらインストールナンバー2となるに違いない。
このゲーム、見るからにすごいのにまだ誰にも知られていないのだろうか? 今のうちに強くなって周りと差を付けてやろう、なんて思って俺はゲームを進めることにした。
「ガチャチケットと、極神級特典ってのはこれかな?」
メールに添えられる形で、カードの形をしたものと、プレゼントボックスが描かれていた。
「極神級特典·····お前は一体!」
プレゼントボックスをタップするとスマホが光出す。
極神級特典内容:
・極神級装備一式
・体力+10000ポイント
・攻撃力+10000ポイント
・魔力+10000ポイント
・速度+10000ポイント
・幸運+10000ポイント
・経験値獲得量100倍
・ガチャチケット無限パス
「なんかよく分からないけどすごそう」
そして、この特典の中で何よりも気になるのはこれだ。
「ガチャチケット無限パス·····」
"詳細"をタップする。
【ガチャチケット無限パス】
インストールナンバー1にだけ送られる特別なパス。
このパスがあれば、好きなだけ無料でガチャを回せる。
「好きなだけって·····。ゲーム的に大丈夫なのか?」
いくらゲームに疎い俺でも、これがやばそうなことは伝わってくる。
「とりあえずプレイしてみよ!」
俺は、初めてのゲームに夢中になって何日も何日もやり続けた。睡眠不足になって学校の授業中に寝て、夜はゲームをするという負のループを続け、学校の成績はみるみるうちに落ちていった。自分がどれくらい強いのかは分からなかったが、無双感が楽しくてとにかくやり続けていた。俺は数日にしてゲーム廃人のようになっていた。
そんなある日のこと。
俺は初めて寝落ちした。結果として親に夜遅くまでスマホでゲームをしていたことがバレ、ゲームを消すことと、インストールできるアプリに制限をかけられた。
中毒になっていた俺にそんなことが耐え切れるはずもなく、しばらく暴れ回っていたが、たかがゲームに本気になっていたことを馬鹿らしく思うようになってきて、当時を思い出すことすらやめた。
もちろんしばらくはゲームのことが忘れられないでいたが、定期試験や学校行事など様々な忙しい現実でのイベントで、俺はそのゲームの存在をすっかり忘れてしまっていた。
後から聞いた話だが、その時に二人目のインストールした人が現れたらしい。その二人目の人がSNSでこのゲームの存在を投稿したところ、バズったという。グラフィックの綺麗さ、オープンワールドという自由さ、そして、動作の滑らかさ。どれをとっても良いものだったらしい。
高校生になった俺の耳にも、少しづつそのゲームの名前を聞くようになった。"ハンターワールド"と。しかし、昔やっていたゲームだと気付くことはなかった。いつの間にかフルダイブ型VRゲームに姿を変えていて、それを買うにしても学生にはとても高かったために俺はそんなゲームのことなんかに興味すらなかった。
それから月日は流れ、三年が経った。大学受験を終え、俺は晴れて大学生となっていた。
授業の後外を歩いていたら友達の晴輝に声をかけられた。
「よお悠斗。一人か?」
「うん、そうだけど?」
「最近俺、ゲームばっかりしてて寝不足で、寝坊しまくってんだよな」
「ええ。単位大丈夫なの?」
「大丈夫。まだギリギリ大丈夫だっ!」
「何のゲームにそんなにハマってるんだ?」
「ハンターワールドだよ。誰もが聞いたことのあるVR型ゲーム。最近敵が強くなりすぎてて、あれはもう無理だ。勝てそうにない」
晴輝は頭を抱えて髪の毛をぐしゃぐしゃにした。
「ハンターワールド……」
「悠斗はやったことないんだっけ? あれ高いもんな。俺はなんとか親に頼み込んで買ってもらったけどさ。もし単位落としたりなんかしたら……」
一応、大学生になってバイトしてきた分のお金は溜まりつつある。VRゲームを買えなくはない。
そんなに面白いだなんて、俺もやってみようかな?
「あっ。次の授業が始まる。じゃあな悠斗!」
「うん、また」
返事を聞かずに晴輝は走ってどこかへ行ってしまった。
「ハンターワールド·····」
晴輝の後姿を見送りながら、改めてその名前を声に出してみる。
なんだか懐かしいような気がした。